第二十一章「若獅子祭」(3)


「さて……それじゃ、僕らも動きますか!」


 僕は残されたキム、メル、ユキ、ミヤザワくん、花京院、ジョセフィーヌを含むCクラス全員とソリマチ隊長率いる西部辺境警備隊の面々を見渡した。


「おお、いよいよオレたちの出番か!!」

「伯爵殿! ワシらの士気は十分に高まっちょうよ!!」

「どんな作戦を命じられるのかしらぁん、ワクワクしちゃう!!」


 闘志に燃えた期待の眼差しが、一心に僕の元に集められる。

 さぁ、なんでも言ってくれ。

 今からどんな作戦が始まるんだ。

 そんな視線が集まる中で、僕は宣言した。


「今からみんなで、地味ぃな組み立て作業をやってもらいまぁーす!!!」


 C組と西部辺境警備隊員の何人かがズッコケた。

 

「昨日みんなで作ってもらったやつがいい感じに固まってるから、今から全員でこれを運んで組み立てちゃいまーす!!」

「運ぶって、どこに?」

「ミヤザワくんが昨日、一人で焼け野原にしたお城の南側!!」


 自陣南側の、すっかり更地になってぷすぷす煙が上がっている辺りを指差すと、一同が畏怖の目でミヤザワくんを見た。


「な、なに……、そ、そんな目で見ないでよ……」

「……なぁ、火球魔法ファイアーボールって森があんなになるほど威力があるもんなのか?」

「オレ、燃えてるところ見たけど、燃えてるっていうより爆発に近かったぞ……」

「私も見た。火球魔法ファイアーボールっていうより爆発魔法エクスプロージョンみたいな威力だったわよ……」

「爆炎のミヤザワ……」

炎の魔神イフリートミヤザワ……」

「ちょっとちょっと、まつおさんのせいで僕に変なあだ名が……」


 森がものすごい勢いで燃え広がったのは、事前に偽ジルベールに宴会で余った油を丘の上から散布してもらったからなんだけど、面白いから黙っておこう。

 すすだらけになった偽ジルベールの顔を思い出して、僕はまた笑いそうになってしまった。


「西部辺境警備隊の大工さんたちに土台は作ってもらってあるから、あとは図面に合わせて組み立てていくだけ。ちょっと力もいるし、ハシゴを使ったり大変だと思うけど、これだけの人数がいれば大丈夫でしょう」

「段取りは伯爵様から教わっちょるけん、皆、ケガせんようにやってごせな!」

「「「はーい!!」」」


 大工の棟梁をやっている西部辺境警備隊員の言葉に、C組生徒たちが元気に返事をした。


「さてさて、指輪の操作を試してみるか……」


 昨日作り終わった部品の輸送に取り掛かったみんなを見送ると、僕は右手の人差し指にはめた指輪を額に当ててみた。


 この指輪があれば、ガーディアンを操作し、遠見の魔法でクラスメイトの状況も見ることができる。


「まずは、閣下を……」


 目を閉じて、額に指輪を当てたまま閣下の姿を思い浮かべると、目を閉じているはずなのに急に視界が明るくなり、周囲に深い森が広がった。


「どう、どう……、なるべく物音を立てるな。そうだ。それでいい。」


 偽ジルベールが馬にささやいている。

 どうやら移動中のようだ。

 ゾフィアとは別行動らしい。


(これはもしかして……、魔法伝達テレパシーと組み合わせられるんじゃないか?)


 僕は試しに、偽ジルベールに思念を飛ばしてみる。


『閣下、聞こえる? 聞こえたら、小さい声で返事をしてみて』

「聞こえるぞ」

『やった、うまくいった。今、指輪の力を使って閣下の視点で見ているところだよ。こうして音も聞こえる』

「ほう……、なかなか便利なものだ。おそらく腕輪と対になっているのだろうな。我々は今、召喚体であるから意識の一部を共有できるのだろう」

『なるほどね。そっちはどんな状況?』

「ゾフィア殿や兵と離れ、単独行動中だ。馬は斥候から奪った。彼女たちは砦に向かっている」

『砦……?』

「私は所定の位置に着いたら、時が来るまで読書する。きっとゾフィア殿たちの方が見応えがあるぞ」

『了解。面白い本があったらまた教えてね』


 僕は通信を切った。

 この指輪はものすごく便利だな。

 各班の主要メンバーに、コミュニケーションが取れることを通達しておいた。


『森林工作班、準備は順調?』

「おわっ、びっくりしたぁ……。これ、聞こえちょるんかいね?」

『聞こえちょりますよー、キヌガサさん』

「ほー、どういう仕組かはわからんが、便利なもんですのうー!」

『あの、キヌガサさん……、きょろきょろしないでもらえます? めっちゃ酔いそう……』


 西側の森の工作をしてもらっている西部辺境警備隊のキヌガサさんたちの班は、試合開始直後から現場に向かってもらっていた。


「昨日のうちに仕込みは終わっちょるけん、今日はほとんどやることないわ」

『誘導はできそうですか?』

「歩きで来られたら正直わからんね。馬じゃったら問題ないわ」

『十分です、ありがとうございます』


 よし。


『ヴェンツェル、そっちはどう? ああ、さすが、いい位置にいるね』


 僕はヴェンツェルに感嘆した。

 ヴェンツェルの視点では、上流から、川全体を見渡せるようになっていた。


「すでに配置についている。こちらから見える範囲では、まだどのクラスも動きが見えん」

『鈍いね。スピードが連中の最大の武器なのに』

「そう考えて余裕を持っているのだろうな。私にとっては退屈だが、ありがたいことだ」

『もう少し我慢してね、たぶん、始まればあっという間だ。』


 ミヤザワくんが焼け野原にしたエリアはどうかな?


「バ花京院! そっちは逆でしょ! ちゃんと図面で確認しなさいよ!」

「オレが悪かったから、せめてバカと花京院は分けて言ってくれ」

「キムラMK2のMK2っちゅうんはあれか、なんちゃら2世みたいな感じなんかいの?」

「おっつぁん……、いいから早く持ち上げてくれ……、こ、腰がいっちまう……」

「すごい、貝殻や骨を燃やして砕いて土と混ぜ合わせたものと水、砂や砂利で塗り固めたら、こんな風になるなんて……」

「すごいのはアンタんとこの伯爵様よ、眼鏡のお嬢ちゃん。ワシら壁塗り職人に話を聞きに来て、本当に材料を全部揃えちまうんじゃけん」

「えっ、まつおさんと事前に会ってたの?」

「あれは3週間ぐらい前じゃったかいな? ワシらが壁を塗ったイグニアの民家の壁を見たっちゅうて、アルミノの酒を土産に持って、ひょっこり村までやってきたんよ」

「ねぇ、ここにお花飾ったほうが可愛くないかしらん?」

「ジョセフィーヌ、時間がないから後で一緒に飾りましょ」

「ねぇねぇ、アンナリーザちゃんなら赤い花と白い花、どっちが素敵だと思う?」

「そうね、白かしら。『聖女』のように清楚で従順……、でも時に大胆」

「キャー!!! アンナリーザちゃんったらコケティッシュ!!!」

「……おまえら仕事しろよ…」


 ジョセフィーヌが「コケティッシュ!!」を連呼しはじめたので映像を切った。

 向こうは大丈夫そうだ。


 次は、ゾフィアたちだ。

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