第十三章「帝国猟兵」(1)
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「貴殿がまつおさんだな」
「たぶん……」
凛、とした女性の声が教室内に響き渡った。
顔を上げる気力もない僕は机に突っ伏したまま答える。
「たぶん、だと?」
「僕は、はたしてまつおさんなのか、それともまつおさんだと思っているうんこなのか」
「ふむ。貴殿は
机に突っ伏したまま椅子からずり落ちそうになって、僕は思わず机にしがみついた。
「まつおさんが驍勇……?」
「うんこが詩人……」
キムとユキの動揺した声が聞こえた。
きっとクラスメイト全員の頭上に「?」マークが浮かんでいるに違いない。
なんか変な人がやってきたみたいだ。
「なぁ、『ぎょうゆう』ってなんだ? 魚と何か関係が……」
「一切ないわよ」
花京院にメルが答える。
「強くて勇ましいことよ」
「それって……まつおさんの真逆じゃね?」
「アラ、夜は驍勇かもしれないわよ? ウフフ」
ジョセフィーヌも混ざって好き放題言っている。
……全部聞こえているからな。
「まつおさんはさっき魔法講習の課題テストで一人だけ赤点だったから放課後に補習決定でヘコんでるんだけど。キミ、何か用なの? なんなら俺が代わりに……」
ルッ君がまた言わんでいいことを言う。
ルッ君がモテないのはそういうところだと思う。
「赤点だと? 貴様、私を
「たばかる? え、えっと、何を言って……」
「なるほど、貴様らはそうして、私のような者から彼を守っているのだな。ふふ……、しかしそれではまるで逆効果というものだ。彼が赤点など取るわけがなかろう」
「……」
「…………」
妙な沈黙がクラスを包み込んだ。
「あの……、あなたってもしかして、昨日ジェルディク帝国から留学してきたっていうAクラスの転校生?」
「いかにも。私はゾフィア・フォン・キルヒシュラーガーという」
「やっぱり! 史上最年少で
興奮したようにユキが叫んだ。
「ほう、なかなか耳が早いな」
「
「
怪談話でもするように、ユキが声をひそめた。
「森の死神」
「ごくっ、な、なんでそんな人がウチの学校に留学してくるんだよ」
「我がジェルディクは数年前に北の蛮族どもの制圧が終わったのでな。近隣諸国との和平が続いている間は学籍に戻ることにしたのだ。せっかく見聞を広めるのであれば、他国の方が良かろうと思ってな」
「……それで、そんな死神の親分様がコイツに何の用なんだ?」
キムの言葉に、ゾフィアは答える。
「まつおさんに決闘を申し込みたい」
ガタッ!!
僕は再び椅子からずり落ちそうになって、必死に机にしがみついた。
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