身の上話
大塚
起
どうして弁護士になろうと思ったか、ですか? それわりと良く訊かれるんですよね。俺みたいのが弁護士なのそんなに意外ですか? まあいいんですけど。
んー、長話になりますよ。酒飲みながらテキトーに聞いてください。
俺、おばけが見えるんです。あっ笑った。もう話すのやめますよ、ちゃんと聞いてください。おばけっていうか、幽霊……生きてた人間の霊とか、あとそれがもうちょっとヤバくなった悪霊みたいのとか、バリエーションは豊富です。色々見ます。あんま見たくないんだけど。
で、なんでかっていうと、俺の実家神社なんですよね。出身? ⚪︎⚪︎市……N県ですよ。知らないでしょ。別に観光地ってわけでもないしね。その隅っこの、県庁所在地がある市とのちょうど境目あたりにある山の上にある神社が俺の実家です。地元の人にはお山さんって呼ばれてたりしてね。お山の市岡さん、とか。山猿ですよ、へへ。良くある田舎町です。何も珍しくない。
それで、えーっと、あー弁護士の話。うちん家の人間もみんなおばけが見えるわけじゃないんですよ。うちん家の血統……この言い方嫌いなんだけど……的にはおかんとばばちゃですね。あ、おばあちゃん。ほんとは女性にしか受け継がれないやつっぽいんですよ。でも俺は偶然見えるようになっちゃった。
うちん家は村の人たちから結構好かれてて、村の子どもが迷子になったとか、どこそこのばばちゃが病気で倒れたとかそういうことが起きると、みんな警察や病院より先にうちに話に来るんです。それで何が解決するってわけでもないのにね。でもきっと気持ちが落ち着くんだろうな。おかんもばばちゃも聞き上手だから。俺もそこはちょっと似てるかも。
それでね、これはまあ……飲みながら話す話じゃないと思うんだけど……おねえさん、水割りもう一杯作ってもらえますか?
昔の話ですよ。20年ぐらい前かな。俺がまだ中学生の時にね、同じ学年の男の子が自殺しちゃったんです。川に飛び込んでね、死体が上がるのに何日かかったかな……夏休みが終わってすぐぐらいの時の話です。死体はまあ、ひどい状態でしたよ。今より暑くなかった頃っつっても夏ですからね。葬式では顔も見せてもらえなかった。おとんとおかんは見たそうです。何せ「お山の市岡さん」ですからね。その子が行方不明になった時点で話は聞いてた。警察より先にその子が川にいるんじゃねえかって言い当てたのはばばちゃです。
その子ね、中学ではバレーボール部だったんだけど、まあでも片田舎のちっちぇ学校だから大会に出るとかもなくみんなで楽しくボール追っかけるだけのバレー部だけど、でもそこのエースで。いいやつでしたよ。ひと学年にふたクラスしかないような村だから、俺も喋ったことぐらいはありました。俺より全然背が高くてね、あと足が速いから女子にモテる。でも死んだ。なんでだと思います?
殺されたんじゃないですよ。自殺したんです。
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