旧13話:最後の一泊
ホテルのベッドで朝を迎えた。
レタはいつもと同じく、周囲の様子をその場から探る。布団の軽さと柔らかさから羽毛と想定する。呼吸の音が見つからず、足音も見つからず、しかし硬い円型を硬いものに置く音が聞こえた。扉を隔てた向こうの音だ。
安全な様子を把握した。腰に手を伸ばすと、ホルスターの場所が普段とはずれていた。
寝る直前を思い出す。確か昨日は、監禁から解放されて、それはケイジとスクシの二人のおかげで、ホテルに逃げこんだあとは、すぐにシャワーを浴びて寝てしまった。
レタが起き出すと、テーブルに朝食が用意されていた。
「おはようございます、お姫様」
スクシが仰々しく朝を知らせた。突然のことにレタは困惑し、まずは頭を上げるよう伝える。そして急にどうしたのかを確認した。
「大変な目に遭ったから、少しでも回復してほしくてさ」
スクシは穏やかな笑みで答えた。朝食を勧める。ルームサービスの一品だ。カバーを外して食べ始めた頃に、トイレからケイジが出てきた。
三人はそれぞれ、見慣れた顔に安心した。たったの一日半が、ずっと長い期間に感じる。レタの食事中に、ケイジが窓の外を見たり、荷物の準備をしていた。
食べ終えてから、レタは礼の言葉を改めて口にした。
「ありがとうね。おかげで生き残れた」
口にした途端、実感が湧いてきた。胸が熱くなり、背中が小さく震える。レタはもちろん、ケイジとスクシもだ。
「本当、無事でよかったよ。無事つながりで、さっきメールが届いてたよ。通知画面だけ見ちゃった。ごめん」
レタの手元にスマホを差し出した。レタにはいい知らせの心当たりがある。画面を操作し、差出人を見て、本文を読んだ。
肺を大きく膨らませて、ゆっくりと吐き出した。レタが熱心に活動していた目的を達成したのだ。得たお金のほとんどを募金して、特定の一人が手術を受ける資金にしていたのだ。
「その顔は、助かった知らせだね」
「ええ。どこまでご存知かな」
「荷物にあった一冊半の漫画の、作者さんってとこまでかな」
レタは頷くのみで、黙って噛み締める。ケイジとスクシも、その様子を見て表情を穏やかにしている。
落ち着いた頃に、レタが口を開いた。
「焼けたような跡があったでしょう。火事のときに、手元にあった最新巻と、お気に入りの四巻だけ持ち出せたんだ」
二人は静かに聴く。
「そのあとはどうにか生きてきたけど、先生が倒れてからは」
話を途中で切り上げた。言葉を探すのも野暮な気がした。
「どうでもよかったね。出る準備をしましょう」
レタは立ち上がり、荷物を開いた。ケイジとスクシは顔を見合わせて、同じく準備に移った。
銃に弾を込める。中折れリボルバー式の銃は、銃身の上側が外れて前後に折れる。ドラムの後ろから空薬莢を抜き取り、新しい弾を入れていく。この改造ドラムは、内径が弾にあわせた大きさになるよう可変する。どこで拾った弾でも大抵は使えるのだ。
他の道具を確認し、何が減っていて何が残っているかを把握した。荷物を持ち上げ、出発の準備が整う。
出るぞと言うため振り返ると、二人も既に準備万端になっていた。
「行こう。今から出れば、夕方には着く」
ケイジの言葉と顔を見て、レタは呟いた。
「見違えたね」
君こそ、とはまだ言わないことにした。
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