ライバル
どちらが最初にゴールするのか。
それが毎年恒例の話題だった。
毎年冬に行われる小学校でのマラソン大会。
この二人は毎年のように一位を争っていた。
一年生のころは颯汰
二年生のころは義和
三年生のころは颯汰
四年生のころは義和
五年生のころは颯汰
といったほぼ五分五分の結果だった。
そして、六年生になり、マラソン大会の時期になった。最後のマラソン大会。
フィナーレはどちらが決めてくれるのだろうか。
去年が颯汰ならば、今年は義和にちがいない。
いや、練習では颯汰のほうが勝ち越している。
ならば、颯汰が決めるかもしれない。
クラスメートのみならず、親たちもそれを話題にしていて、颯汰の親も義和の親もうちのこが速いとお互いを牽制しあっている。
とうの本人もまた、周囲の期待に答えようとして必死に練習を続けていた。
そんなある日のことだった。
マラソン大会の前日。
義和が交通事故にあってしまった。
命には別状はなかったのだが、右足を骨折してしまい、マラソン大会を断念することになったのだ。
最後のマラソン大会。あの対決がみられないのかと残念がる人も多かった。
けれど、本人たちは違っていた。今年が走れないだけだ。
中学に入ったら、またいっしょに走れる。いっしょに陸上部にはいって、大会へ出ようと誓いあった。
そういうことで、義和はマラソン大会にはでずに応援にまわった。
もちろん、颯汰の圧勝だった。
だれも彼の足についてくるものはいない。
ゴールのロープを切った颯汰はふいになぜか物足りなさを感じた。それは周囲も同じだ。歓喜することもなく、つまらなさそうな目でみていたのだ。
面白みがない。
圧勝してしまう颯汰の実力。
それは喝采をあびる価値はあるだろう。
けれど、彼らがみたかったのは颯汰と義和が競り合う姿。名物がないとしらけてしまうらしい。
周囲の物足りなさが颯汰のなかで悲壮感を与えてしまう。
一位をとったのに、思わず俯いてしまった。
すると、「颯汰ーー!やったな」という声が聞こえてきたのだ。
顔をあげると、義和が笑顔で手をふる。
颯汰が目を大きく見開いていると、義和が声を張り上げていった。
「新記録。新記録。三日前の俺の記録抜きやがったーー!」
ストップウォッチを見せながら、なぜかくやしがった。
そのようすを見ていた颯汰はようやくゴールしたことを理解した。
「当たり前だ! お前が怪我している間にたくさん練習したんだよーー! くやしかったら、はやく足なおせーー」
「当たり前だ。 来年はおれが勝ちだ」
そういいながら、ガッツポーズする。
それから、義和の足は完治し、またいっしょに走るようになった。
地元の大学だった颯汰と東京へいってしまった義和。
しばらくの間、いっしょに走ることはなくなったが、大学卒業後に戻ってきた義和とともにまた走るようになった。
「どこをゴールにする」
毎回、二人が走るときはスタートとゴールを決める。
「今日は城跡にしようぜ」
「おう、よしいくぞ」
二人は走り出した。
それから、どれくらいたったのか。
二人とも結婚して、義和は二人の子供。
颯汰は一人の子供がいる。
事情はずいぶんと変わってしまっていた。
義和は相変わらず走っている。
いつものようにゴールを決めて走る。
でも、その隣には颯汰がいない。
もうずいぶんと一人で走っている。
いつになったら、颯汰とまた走れるようになるのかと考えながら走り続けている。
「今日のゴールは、県立病院にいくか。けっこう遠いけど、新しくなったのをみてみたいしな。それに……」
義和は昏睡状態から目覚めた親友に会うことをゴールと定め、県立病院に向かって走り出した。
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