暗闇の後の光ある未来を目指して
暗闇のあとの光ある未来へ
最初は言葉も発することも、体を動かすことさえもできなかった彼だが、リハビリのおかげで少しずつ、機能が回復していった。
妻の
そして、いつもの時間のたった十分の面会。
「パパーー。元気ーー」
華が無邪気に笑いながら手を降る。
もう少しで我が娘の手がつかめそうな感じがするほどに華の顔が近いのに、実際にはつかむことができない。
「元気だぞ」
たどたどしい言葉で、必死に笑顔を浮かべる颯太に、華はパパが笑ったとはしゃいでいる。
「あのね。あのね。パパ。私、ママといっしよの折り鶴作ったんだよ」
そういって、華は3羽の折り鶴を颯太に見せた。
「ほんとうのパパにあえるときもつてくるよ」
本当のパパ?
自分がほんとうの父親だけどなあと思ってしまったのだが、華が本物の父親だと実感するにはあまりにも離れていた。
なぜなら、颯太は病院、咲と華は自宅にいるのだ。。
感染症の広がりの影響で病院は面会全面禁止。
その代わりにオンライン面会というスマートフォンやタブレットを使っても面会が許されている。そのために、颯太が入院している病院には、wi-fiが設置され、タブレットも購入したらしい。
個人ではなく、病院のものということで、オンライン面会も一人十分に制限されていた。仕方のないことだ。
「ママ。毎日ごめん」
華の後ろに写っている咲にいう。
「なにをいっているのよ? 仕方ないわ。感染症のせいで実際に会えないのだから、毎日でも顔がみれるだけでもいいのよ」
「でも、咲は仕事があるだろう?」
「仕事? 基本的にリモートワークよ」
咲がそう答えた。
颯太にとっては聞きなれない名前ばかりだ。
コロナ
リモートワーク
オンライン
そして、
令和という元号
颯太が事故にあったときはまだ平成だった。
もちろん、そのころには天皇陛下の生前退位というものがニュースで話題になっていることは知っていた。それでも、目覚めると元号が変わっているというのは、まるで自分だけが取り残された浦島太郎のような気分だった。
それでも、聞きなれなかった言葉もすんなりと受け入れられるようになるということは、人間というものは順応性にたけた生き物だと実感させられる。
「それに会社の人たちが理解してくれているわ。リモートワークじゃなくても、きっとあなたとの面会時間はとってくれているはずだもん」
そういって、彼女は笑う。
毎日、同じ時間の
タブレットごしの面会。
決まって彼女たちは家からのオンライン。
颯太はもちろん病室だ。
このオンライン面会のときだけが、颯太、咲、華が共有する“おうち時間”だった。
「もう時間ですよ」
看護師さんが声をかけてきた。
10分
本当にあっという間の時間だ。
「じゃあねーー。パパーー。また、明日ーー」
華はいつものように無邪気な笑顔で手を降る。
その隣で咲も微笑みを浮かべていた。
やがて、ふたりの姿がタブレットの画面から消える。
「じゃあ、次の人に使いますので」
「はい、ありがとうございます」
看護師さんは颯太からタブレットを受けとると、病室を出ていった。
それを見送った颯太はベッドに横になる。
視線を窓の方へと向けると、空が青く広がっており、窓のすぐ外側にある桜の木に蕾が膨らみだしていることに気づいた。
もうじき春がくる。
がんばってリハビリを続けよう。
今度は、彼女たちと直接会って、おもいっきり抱きしめたいなあ。
颯太はただ光ある
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