十人の住人 関西方言訳

 動画:https://youtu.be/geAmPv345uY

 訳と音声:Zaku


 彼女が車で来るまで待ってんのは面倒やった。


 朝、小さい虫が舞ってる道を歩いてると不意に電話が鳴って、僕は麻のシャツのポケットからスマホを取り出してん。無視しようとしたけど、気になってもうて。

「もしもし」

「もしもし、徹? あ、サイズはトールで!」

 未知の相手を期待しとったけど、やっぱ彼女やった。

「僕はコーヒーやないねん。もう電話に出んわ」

「いや、おもんないねん! ほんでな、今スタバなんやけど、そっちに車で迎えに行くわ」

 僕はため息をついた。杖を突いた老人が目の前を通り過ぎ、僕は同時に目の奥に痛みを感じた。

「どれぐらいかかるん?」

「今まだ居間におるから、時間かかると思うで」

「まず一に、僕は今――」

「とにかくその位置におって。すぐ行くから、車で来るまで待っとって」

 彼女はどうしてもこっちに来たいみたいや。

「……そうか。分かった」

 僕は彼女に押されて、いつものように結局折れた。

 二十歳の時分、僕は自分でアパートを借りて草加に住んどった。あれから日本も色々変わったけど、僕の部屋の歯ブラシは二本のままやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る