212 救援

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/10 15:40


「、、忙しい時は仮眠室で寝たりもするものなのよ?」

羽織っていた白衣を丁寧に畳み終えると部屋の角に備え付けてある機械へと足を向ける

「そういえば、ごめんなさい?  私はアナタの好物すらまともに知らないのね、、コーヒーは、飲めるのかしら?」


珍しい来訪者に代表であるキドナは少し戸惑いながらも専用の個室に招いたのはつい先程の事だ


講義を終えブースへと向かう彼女はラボの入口に人だかりを見つけた

少し前のトラブルを思い出しながら人混みを掻き分け、溜息を吐いた

「またアナタなのね」

今回も元凶である対象に膝を折り、目線を合わせ、頬を撫でた


被験体であるソノ簡素な格好にあるべきはずの清潔感は欠片も無く

泥だらけの両手両足、薬品臭い大きな尻尾と長い髪、衛生上最悪なその見た目は此処まで来るだけでも人目に付いたのだろう

ガラス張りの窓、建物外からの視線、大量に野次馬が集っているのが分かる


キドナは立ち上がり周囲の人間に的確な指示を与えてから「こちらにいらっしゃい」と手を引いた




「現に朝食や昼食はしっかり運ばれて来たのでしょう?考え過ぎでは無いの?」


「チガウ!」

すぐ目の前、部屋にある綺麗な椅子には座らないまま自らのシンプルな服をきゅっと握り涸れた声を上げる


「でも、アナタ達はキーロの事になると」

「チガウ!!」


先程よりも一回り大きな声が室内に響く




間髪入れない返答に対し逆に少し間を空け、コーヒーを置いてから話を始める


「そう、、何か感じる部分があるのかしら、分かる範囲で良いからもう少し具体的に話して欲しいのだけれど?」


いつも通り、誰と話すのも変わらない口調で


ゆっくりと、しっかりと



向き合えなかった時間を思い返しながら



・・・・・・



「オレ ニオイガシテタカラココニキタ  キーロカワイソウダッタ  カッテクルッテイッテタトキモ  デモ オマエジャナイ」


延々と続くフェリスの足りない言葉を理解するのは随分と時間がかかった

文化人であるキドナは一度すぐに話を止め、夕方以降の予定をキャンセルするのに連絡を取った


再びフェリスの前に座り直すと同時にスケッチブック、いや特大サイズのポスター程の用紙を一枚机の上に置いた


中心にはキーロの名前を書き、フェリスの羅列(られつ)する単語を一つ一つ聞き返す

いつの事なのか、それは生物なのか場所なのか、はたまた感覚なのか

ざっくりとフェリスの頭の中での繋がりと現実に起こった事を色の付いたペンでフェリス自身に描かせる


自ら記載させる事で整理が付いた部分も多々ある

それを含めて、キドナが多角的な視点から質問をし大きな用紙を埋めていく


時には漠然(ばくぜん)と眺め、コーヒーをワインに変え



思考する



(私ならそうしない、、いえ、自分ならどうするかでは無く   もしこの子だったら?)


(この子の様に作られた存在?  でもそれだと似ても似つかない、どちらかと言えば、、)


「エバ?」


ぽろりと口から出た言葉に犬耳が首を傾げながら顔を上げる

それに気づき、背を向け、備え付けの小さな保冷庫へと手を伸ばす


「ふふ、在りえないわね 私はあの子を『動かしてあげる事が出来なかった』のだから、、おかわりも同じ物で良いのかしら?」

キドナは小声で自分に言い聞かせるかの様に呟き、ミルクを取り出す


「オウ コレガイイ」




二人のすり合わせが進むにつれ、ふとフェリスが旧王都での事を話始めた


「オレ アイツキライ ツヨイ イタイ コワイ」


無意識に韻(いん)を踏む台詞に生真面目なキドナがツッコむ筈も無く


「そうね、彼は少し非人道的な所があるから」

当の本人が居たとしても彼女は迷わず口に出していただろう

「きっと道徳心が欠落しているでしょう、、ね?」


引っ掛かりを覚えた


キーロの今いる場所、、関わっていない筈が無い


キドナは新たな『別の可能性』を模索しながら今、何をすべきなのかを考え




「何か言い訳が必要になるわね」




動いてみる事にする


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