8 悪夢
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
4/13 11:40
時刻は予定通り
昼になる少し前くらい
「ここじゃろな」
赤鬼と共に見上げているのは少し古臭さを感じる建物
小さな煙突からはモクモクと煙が出ており、看板にはでかでかと殴り書きの様な文字で『ダンク工房』と書かれている
「カカカ、そのままじゃのう」
「豪快だな」
(俺で言うと仁喫茶、、か、プチダサくて真似は出来そうに無いな)
とか思い、苦笑いが零れ落ちそうになったので
「ま、まぁ、ささっと済まさないとな すいませ~ん」
勢いのままドアを開く
「はい、いらっしゃいませ」
入って右側のカウンターから声が上がった
黒髪だ!
優しそうな表情の眼鏡を掛けた青年
20代前半と言った感じか、恐らくこの子がキーロで間違いないだろう
「えっと、キーロ 君?」
(背は高いって程では無いな、170あるか無いかってところか?)
「えぇ、そうですけど?本日は如何(いかが)しました?」
「あ~あの、ですね、ルトリさんの使いで来たんだけど少し良いかな?」
(いや、うん、そうだよな 幼い時にこっちに来たって言ってたし、、勝手に同い年くらいだと思ってたわ)
「え?母に何かありましたか?」
「ああああ!違うそういうんじゃないんだわ、ダンクさんも一緒だと二度手間にならないし丁度良いんだけど~」
奥の状況が見える訳では無いのだが隣の部屋へと目を向ける
するとタイミング良くドアが開き
「よ~し!一丁上がったから昼飯にするぞ~ って、おん?キーロ お客さんかい?」
やたら体格の良いおっちゃんが小さな扉を潜る様にして登場した
(うお~、なんかファンタジーの鍛冶屋!って感じで裏切らないな)
少しだけ圧倒されはしたが強面とのやり取りなんてものはお手の物である
「ダンクさんですよね? ルトリさんからの使いで来ました」
店の入り口にて
代わりに来た理由、その経緯を簡易的に説明すると奥へと通された
工房奥の食堂
もぐもぐ
「へ~? ジンさんは違う世界の人でうちのキーロもそうなんじゃねえかと? ふ~ん、あ!こっちにも茶~くれや」
やはり親子なのか、ガタイの良い焦げ茶髪のショートもそれほど驚かずにご飯を優先している
(こういうところ父親似だったのかリィン)
「あっしらもごちそうになってしまってすまんのぅ あ!こっちにも酒あったらくれや」
「無いでしょうって!仕事場だぞ? すいませんね、この娘も同じく使いで来てまして」
作業員十数名と共に昼飯となったのだが何故だか赤鬼も隣に座ったところだ
「あれ?ねぇ、カセンちゃん? 用事があるんじゃなかったのかな~??」
「カカカカ、飯を食ってからの方が良かろうと思ってのぉ!それにモテモテのキーロってのも見ておきたかったしのぅ」
流し目?でキーロをちらりと見る
(待って?それ睨んでる訳じゃないんだよね?)
「う~む、まぁ確かに可愛い系じゃが、、やっぱり似てないのう」
「そりゃそうだろう、ってかなんでちょっと残念そうな顔してんの?お前は何を期待してたんだ? ごめんね~キーロ君、この鬼ちょっと変わってるんだよ~」
いつから俺はカセンの保護者キャラになったんだか
「ははは、いえいえ あ、全然呼び捨てで構いませんよ?ジンさんの方が年上でしょうから」
(そうでしょうけどね そうだけどね?)
「それと、、その、情報の方なんですがごめんなさい、やはりお力にはなれないかもです」
「あ~ うん、そっかそっか、何か引っかかりでもあったら良いなと思ったんだけど」
少し残念だがしょうがない
キーロは幼い頃の記憶がほとんど無いらしい
保護された時で『推定』小学生中~高学年程度 9~13歳頃って所か
Tシャツにパーカーを羽織り、ジーパン姿の至って普通の子供
聞いていた通り、足が不自由になるほどの怪我をしていたらしく片足は、、義足だ
衰弱していた事もあり発見後から半年は寝たきりで過ごしたとか
(健康な俺でも10代前半なんて何してたかロクに覚えて無いもんな)
「あ、でも偶に薄っすらと思い出す事もあるんです、自分の事って訳じゃないんですけど ちょっと待っててくださいね?」
そう言うとキーロは工房のカウンターの方まで松葉杖を使い歩いて行く
「なんか、健気っつぅか、悩んでなんかいられなくなるわ~」
「カカカ、自慢の息子って感じで良い子っぽいのぉ ジンも見習うと良い」
「なんでお前が言うんだよ」
「コレらなんですけど、まだ完成形では無いのですがいくつか商品と別に創作をしてまして」
戻って来た青年が嬉しそうに幾つかの小物を机の上に乗せていく
「 え コレって」
「逆にジンさんからヒント等もらえたらと思って」
確定した!
間違い無く、キーロは俺と同じ転生者だ
「僕が魔法を使えたらもう少し融通利かせたりとか出来ると思うんですけど、試行錯誤中です」
「いや、俺は、コレを、知ってるよ」
「本当ですか? こことか、画面に映すまでは上手くいくんですけど、もう少し滑らかに動いたらな~とか」
鳥肌が立つ
「俺は中身の構造とかは分からないから何かヒントになるような話とか出来たら良いんだけど」
「是非是非!」
転生された理由は分からないし不安だらけだが同類を見つけた心強さがあった
キーロの試行錯誤で組み立てて見せてくれた物
それは
『携帯ゲーム機』だ
機工師として勉強をしながら自分の中に残っている情報をしっかりと形化している
聞くには最近、魔法や火の類では無いのに簡易的に闇を照らせる物として『光る輪っか』が工房での売れ筋商品にもなっているらしい
知っている
祭りで見かけるアレだろう?とすぐに想像出来た
これも俺には仕掛けなんてよく分からないのだが何故か嬉しく感じる
「いや~マジか~嬉しいなぁ! というかこの世界には無いってだけで便利そうな物とか沢山あるしさ、キーロが思い出しながら開発出来たら大きく変わるんじゃないか!?」
ついあれやこれやと思い浮かべながら早口になってしまう
「ははは、僕も嬉しいですよ~」
「ほ~、なるほど!どおりで変わった物ばっかり作る訳だわ!まぁ二人共嬉しそうで何よりだ!! がははは」
(やっぱりこのお父さん大らかだな!)
「だから言うたじゃろ?あ~なんじゃったか、、浦島太郎?じゃったか?? いたじゃろ?」
(いや、なんか違うけど、まぁいいや)
「あ!そうだ!このスマホ使ってなんか出来ないかな!?」
ジンはポケットから電池の切れたスマホを取り出す
「スマホ? ですか?」
「そうそうスマートフォン! あ、まぁ、まぁゆっくりでいいか、まず飯食っちゃおうよ長くなっちゃうし」
科学者とかでは無いのだがワクワクしてニヤニヤが止まらない
(どうしようかな、俺何日かこっちいようかな)
「そうですね、もしなんだったr」
バタン!!
キーロが言い終わる手前で煩い程の音が鳴った
と同時に
「クさああん!!」
がなる声が店内に響く
ぜぇはぁ はぁはぁ
呼吸音の最中にも関わらず
「ダ!ダン クさn!!」
声にならない声
20代くらいの青年が膝に手を置き、汗だくで息を切らしている
「おいおい、なんだぁ? あんたは確か薬屋んとこの息子さん、、何かあったのかい?」
主人のダンクが駆け寄る
「はぁ、はぁはぁ 買い出しに はぁ きて はぁ 門の所来てて」
中々言葉にならない
「良いからゆっくり話せ、怪我とかはねぇのかい? 誰か水持って来い!」
急な訪問者に場は静まり注目が集まる中
「村が!!」
「村が 燃えてます!!」
一気に血が引いていく
4/13 12:30
(何、今 なんて?)
「なっ!? どこの、、じゃない!いや、本当か?」
「おい!いくぞ!」
「何?どうしたって?」
「ジン!」
「俺も行きます」
「誰かアレだ! アレ!」
「馬の準備しろ!」
「お前は門まで行って見て来い」
「火事? え? え?」
様々な声が一斉に聞こえる
バタバタと
主人のダンクが、キーロが、作業員が、動く事を始める
(え なんで? ヤバイ、心臓の鳴りが速い)
「おい!!」
「まず、えっと どうしよう」
「馬屋に誰か走れ!」
「どっかから人手借りないとか!?」
「どうしますか?」
鍜治場から休憩所、入り口までがパニック状態である
「ジン!!」
声がした瞬間
バシン! ガシャアアア
衝撃と破裂する様な音が響くと成人男性が吹き飛んだ為、周りが一斉に静まり返った
「しっかりせぇ! 表に馬はおる!ダンクは荷台を急いで外せ」
ジンを引っぱたいたのはカセンだ
「あ、あぁぁっ ぅぐ いって」
切れた口元を拭う
「僕も行きます!邪魔になったりはしないので連れて行って下さい!」
「キーロはその足だと馬には乗れんじゃろ、馬車捕まえてから来い!お前さんは情報をまとめてから動くんじゃ 他の者は騎士達にも連絡しに行けぃ!何とかして援軍を頼むんじゃ」
声は力強く、的確に指示を飛ばす
「ぁ 痛っ そ、そうだ よな」
(馬は確か二頭、荷台無しで飛ばしたら2~3時間くらいか!?)
足から力が抜け、頬が痛い けどしっかりと頭は回るようにはなった
「カセン!ごめん、俺も連れて行ってくれ ごめん」
「さっさとせぇ!!」
4/13 16:30
乗って来た馬で王都を出れたのはカセン、ジン、ダンクの三人
門を出て直ぐに村の方角から煙が立ち昇るのが見えた
村に着くまでの間にも何故か発火した木々がところかしこに見えた
森に燃え移るでも無く、王都から村を繋ぐまでの道のり
何本かが迷惑をかけない様に燃えている
そして
残念な事に馬を朝から使い倒してしまい到着したのは
4時間後である
到着してからの事は飛び飛びにしか覚えていない
臭い 痛い 目が 喉が
熱い
火の海だ 右も左も
いや、、ソコじゃない
問題はソコじゃあない
叫び声がする
悲鳴が聞こえる
乱雑に人? が倒れている
火事のせいじゃない
人の腕が 足が 顔が 落ちている
沢山
たくさん
『カマキリの形をした人間』がいる
到着と同時にカセンの怒号が聞こえた気がする
炎の中、カマキリを相手に暴れる影だけが見える
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
狂気の様な声がした
ふと声の主を辿り少し右を見ると共に来たダンクさんが真っ赤に染まりながら『何か』を抱きしめ崩れ落ちている
真っ赤なシーツ?の様なマント?の様な物にくるまれた 『何か』 の傍には王都から来た討伐隊の者だろうか
6人くらいの武装した人達が見える
何をする訳でも無く
膝をついて震え 自分を擦る者
嘔吐している者
口論する者
なんだこれ
なんだこれ
気持ちが悪い
きもちがわるい
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