6 理由

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



4/10 12:15


時刻はお昼を少し過ぎた所

アイリの店は騒がしく 所謂(いわゆる)ランチタイムのピークである


小さな集落で唯一の食事処と言う事もあり村の者、旅の者、王都に港から、、

様々な人種に職種が出たり入ったりしている


「はいは~い いらっしゃいませ~ 初めての人は並んでちょっと待っててくださいね~」

マイペースに聞こえるが手元はテキパキと何かをしているのが見える


「アイリちゃん水欲しいんだけど」


「ごめんね~お水くらい自分で取ってね~」

・・・25席?といった所だろうか

雑に、少し狭めに客が座っていく

明らかに1人で回せる量の客では無いと思うのだが17歳のツインテールはソレを綺麗にさばいていく


「A定食って何?」


「今日肉って何ある?」


「ご飯大盛りって出来る?」

乱雑に多種多様な声がする



「はいは~い 今日はみんな同じメニューしか出来ないから~ ご飯は大盛りのアイリちゃんのスタミナ丼! 食べないよ~て人は帰ってね~ あ、そういう人は二度と来なくて良いからね~」

ニコニコ可愛い顔して声色変えずに言い放つ



(こわ、アイリちゃんこっわ)

「あっはっは、え~のう  ジンもあれくらい言いたい事はバシバシ言った方が良いんじゃないか?」


あの後  赤い液体の入っていた一升瓶が空になり『壺』を追加した鬼娘だがちっとも酔っ払っている様子がない


「ってか一回出た方が良くないか俺ら」

店の一番端の座敷に移動しているのだが  昼から壺を隣に置いて飲んでいる絵面よ!



「何を言う、ジンの勉強にもなるからってアイリがオッケー出したんじゃろ」

ジョッキをちゃぷっと壺につける


「いやいや、周りの目ってものがあるでしょう」(ジョッキってそう使うんじゃないからね)

俺だけがコソコソ話しているのでカセンがスピーカーの様に見えてしまうのも嫌だ


「ん~、別にえ~じゃろ? 皆飯を食いに来とるんじゃし迷惑にはなっとらんぞ?  気にしすぎじゃろ!?」


「カセン、せめてボリューム少し下げよう!  な  はぁ~」(ごめんなさい、本当は良い子なんです)

この赤い娘は基本声がでかい!




ジンは助けて欲しいと告白?した後に現状の事を簡単に話した

どこから聞けば良いかも分からないが兎にも角にもまずはこの世界の事を聞きたい  と

短い時間でカセンがざっくばらんに説明してくれたのだがいまいちしっくりとこず・・・

そこでアイリから「ちょっとお店に来る人とか見てたら?」と提案があった


要するに 夕方までここに来る『人達』を一度観察してみろ と言う事だ

まぁ来るわ来るわ、リザードマンの様に二足歩行するトカゲ、ケモミミの少女、容姿端麗のエルフ、、人前にはめったに表れないが妖精なんてのも存在するらしい


この状況を見ているとカセンのような角のある者などそう珍しくもなく

ケモミミがいるなら狼男も いや、もう吸血鬼やエイリアンもいるんじゃないかと思ってしまう


この鬼娘のカセンいわく機械や魔法も存在し、専門の学校なんてものもある所にはあるらしいのだが車やゲームなどと言う概念はないらしい

ファンタジーな話で冒険心が煽られるが『魔王』を倒すとか言う類の話などなく

『魔物』を倒したところでゴールドに変化する事も無いらしい

(まぁ、そりゃそうか)


現代で言うなろう系 死んでから転生する様な話をしたら

「死んだらそこまでじゃろ」 とバッサリ言われた


違う世界の人間がいたと言う書物は残っているらしいのだが

これは聞けば聞くほど 浦島太郎の本があるなら「いたんじゃろ」

UFOの目撃情報があったから「あるんじゃろ」 と全てカセンの見解な気がする

(アイリはどこまで本気で聞いていたのか分からないがずっと笑っていた)


あと肝心のリュックに敷き詰められていた紙幣の金額!

日本円ではおおよそ 1500万円程らしい

国によって差はあれど転生したら億万長者だったパターンではなさそうだ

(ってかちょっとだけ多いけど俺の貯金額じゃね?)と思ったくらいの数字だ


「は~、なんか思っていた『なろう生活』じゃないな~ でもそれならなんで召喚されたんだろうか」

ジンは目的が見えず軽く溜息をつく


「なろ~?なんじゃ?」


「あ、いや! なんでもない、えっと次の質問なんだけどさ!」

(いやいや!まだ俺にはチート魔法が使える 実は何とかの申し子 こっちの世界で現代知識が役に立つ みたいなフラグが残ってるはず、希望を捨てずにまずは情報収集だ)

一つ一つの情報が新鮮で久々に勉強をしている感が否めない



「あ!おにいちゃんおきたんだ~」

店内に可愛らしい声が響く





4/10 12:35


「おっとっと  カセンさんとジンさん こんにちは」

ショートカットの黄緑お姉さんが黄緑ロングの全力ダッシュを抱っこして止める


「お~! リィン、ウル~!! おいでおいで~」

真っ赤なポニテがジョッキ片手に笑顔で手招きをする


(何、親戚かなにかなの?)「あ~、リィンちゃん薬ありがとね と、ウルちゃんでいいn」

「あ!リィンちょっとだけ手伝ってよ~  ウルはカセンさんに遊んでもらいな~」

またか!  カウンターの方からアイリが横槍で最後まで言わせてくれない


「え、私ご飯食べに来たんだけど」


「ちょっとだけだから~ ね~ 奢るから~  ね~え~」


「え~」


「わ~い! ありがと~助かっちゃうよ~」

アイリとリィンのやりとりは姉妹の様で本当に仲が良いのが分かる


「はぁ  はいはいはいはい、わかりましたよ!」

手慣れた手つきで店のエプロンを装着するとアイリの傍に向かい調理に入る


「リィンちゃん聞いてくれよ~アイリちゃんひでぇんだぜ?」


「え~、来て早々に愚痴とか聞きたくないんですけど  ってか聞いてました?私ご飯食べに来たのに働いてるんですよ?」


「ははは  やっぱりアイリちゃんひでぇな」


「え~? そんなひどいひど~いアイリちゃんの美味しい美味しいご飯   文句ある人は食べなくても良いんですよ~?」


「あっはっはっは こえ~こえ~」

常連の何人かだが

村の看板娘二人に絡みたくてしょうがないのだろう



(おぉ、これは『分かってる』人達の会話だ!)

とジンが勝手に感激している横では

「ウル~!隣おいで~ うへへへ~」


「おねえちゃんおなかいっぱいになったの~?」

ジンとカセンのいる座敷に上がるのに靴をバタバタさせている(可愛い!)


「ウルも好きなだけ頼むと良いぞ! ジンが恩人達に奢りたいんだと!!」


「ホントに? じゃあ~あたしオムライスがたべたい!」

この黄緑姉妹が来ただけで店中の空気が変わった様にも思えた


「あ、うん 好きなもの食べな」




(はぁ~いいな~ 俺はずっと『こういうの』がしたかったんだよな~)

一応言っておくとロリコンな訳ではない!!

別に回想シーンが入る訳でも無いのだが

彼女達の働きぶり、軽快な客とのやりとり、美味しそうにオムライスを頬張る子供

懐かしくも 自分がやりたいと思っていた理想像が見えた気がしたのだ






4/10 13:55


「で~!?  どうだったかな~」

アイリが自分とリィン二人分のご飯を座敷へと持って来る


昼のピークが終わり店を一度閉めた所  アイリとリィンが遅れた昼ご飯を食べるところだ


「おねえちゃんたちすごかったよ~」

小さな黄緑ロングの口の周りはケチャップ!オムライス!! って感じだ


「うん、二人共若いのに凄いよな~テキパキ動いて」(お口の周りは放置なんですね?カセンさん)


「アイリー もう一個壺持って来て良いかの?」(呑んだらすぐ蒸発してるんですかね?カセンさん)


「、、、って~ アイリから聞いて持って来ましたよ~  う~重い なんで最後まで力仕事なの?私!?」

リィンが壺を抱えてようやく席に座る


(あ~リィンは良い子なんだな~ってのが凄い分かる)





もぐもぐ

「へ~? ジンさんって違う世界の人なんですか?  ふ~ん、あ、オールさんが後で甘い物持って来てくれるってよ?」

黄緑ショートも転生に興味がないのか!? それほど驚かずにご飯を優先している

ちなみにオールさんって言うのは村の村長的なポジションの老人らしい


「でもキーにいちゃんみたいだよね? かみのけくろいし」

サラっと小さい天使がヒントを言った様な気がする


「待って、え、誰? キー?  おしえt」

「え~ キー兄は~もっと~可愛い感じだよ~」

(紺色ツインテはもう俺の発言を切るのが趣味なんですかね?)


「くああああ やっと落ち着いたわい! で?ジン!! どうじゃった?」

赤髪の鬼の周りには 壺 壺 樽 樽 瓶 瓶   ナンダコレ

(ご飯奢るってこういう事だっけな)


「あ~、え~うん、ざっくりとこの世界の事は掴めた気がするよ、ありがとう  あ、でさ?魔法?ってどこで取得するの?学校で学ぶの?」

チート能力の直結物だこれだけは詳しく聞いておきたい


「あ~?魔法のぅ、生まれながらの適性があってそれ次第じゃの  適性無しが学校に行った所で知識くらいにしかならん   らしい?」

(って事はそれでレアな 闇!とか 光!とか全部乗っけ!! の様な適性持ちになれるんだろう)


今のところ何も無い以上希望のチート能力をなんとか開花させたいところだ

「なんでしたっけ? たしか王都の大聖堂に識別出来る方がいるとか聞いた事ありますよ? うちはどっちみち両親使えないので私もウルも使えないんですけど」

なるほど? 遺伝とかあるのか? 話を聞く限りではリィン家は誰も魔法が使えないらしい


「パパに聞いた事あるな~ 私も~、と言うか~ 魔法の才能がある人ってのが稀だからね~ 万に一とかだったっけ~?」

(アイリは何か毎回俺の希望をちぎって投げしてないかな?  喋り方も段々苦手なギャルの様にも見えて来る)


「あっしは火の才があるんじゃが魔法なんぞめんどくさくてのう よう分からんわ」

(さらっと自慢ですか?この鬼娘は)



どうやら親からの遺伝が大きい上に才能があって努力をした者が得られる能力らしい

しかも MPと言う概念は無くそのまんま体力、生命  つまり自分の身を削って初めて扱えるものらしい

ぶっちゃけ割に合わなそうである

しかしそれでも世の為人の為に怪我や病気を見てくれる神父様がいるってのも王都が栄えている理由の一つでもあるとか


「なるほどね~  でも、ちょっと見てもらいに行ってこようかな」


「え?」

話聞いてた? みたいな全員の視線が痛い


「いや、転生すると大体凄い事が付いて来るものなんだよ、俺のいた世界では」

(俺のチート能力は体力も削らずに全ての適性があるってシナリオ   でいてもらいたい!)





「あ~、でも良いんじゃないです?   母さんがジンさんを連れて来た理由も多分王都にありそうですし」

リィンが意味深な事を言い放つ

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