第40話 禁句 さあ、会社を叩き潰しましょう!

「あれ? ええと、もしかして、俺と会ったことありますか?」


 覆面の人の覆面を奪ったところ、ほんのりと見覚えのある顔がそこにはあった。

 ちょっと待って下さいね、すぐに思い出しますから。

 ええと、どこかでお会いしているんですよ、それは分かります。


 あ、鮭ヶ口牧場の牛乳の配達員の人だ!


「奈良原。その人、確か郷田とか言うヤツだろう? ほら、ドッジボールの時のゲームマスターだよ。……君、絶対に忘れていたよな?」

「もちろん覚えてましたよ! ええと、ジャイアン!」


「憶測でものを言って申し訳ねぇけどよ! 多分、それ、漢字が違うんじゃね!? ドラえもんのジャイアンと、漢字がよお!!」


「ああ、もう面倒ですね。郷田さんでしたっけ? 違ったら言って下さいよ。バールで顔を郷田さん風味に整形しますから」

「あぁぁあぁぁ、ずびまぜん! 郷田です、わたくしめは郷田と申しますぅぅぅ!!」


「……言葉だけで相手の心を折るとか、コミュ神怖ぇよ」


 涙とよだれで汚いおじさん、ではありませんでした、郷田さん。

 察するに、ゲームマスターに捨て駒として利用されましたね。

 高東原さんと言い、郷田さんもですが、恐らく俺とのゲームに負けて、その責任を取らされる形で今回のデスゲームに投入されたのでしょう。


 嫌だなぁ。なんだか、俺のせいみたいじゃないですか。

 え? 俺のせい? そんなそんな!



 野菜の悪口言った人のせいでしょう?



 とりあえず、今は時間が惜しいですね。

「郷田さん。間もなくここ、爆発して、あなたも襲い来る熱風に身を焼かれ、頭上から落ちて来る瓦礫で頭を潰され、壮絶な苦しみと共に死ぬのですが」


「言い方ぁ!! 言葉の暴力感ハンパねぇ!!」


「それを回避する作戦があります。俺たちの味方になることです。もしかして、家族でも人質に取られていますか? 大丈夫ですよ。人質の心配は」

「ひ、ひぃぃ?」


「俺が今から、会社を再起不能になるまでボコボコにしますから! その後の残りカスに、人質がどうこうさせる力なんて残しませんよ! あはははは!!」


「笑い方ぁ!! 狂気を隠そうと努力しろ!!」


「ペタジーニさ。すごいね、君。前にボディービルの大会の応援コールが面白いって動画を見たけど、君の合いの手、それに近いものを感じるよ」

「今それ言う必要あるんすか!? ダメだ、佐々木さんも大概にはサイコパスじゃん! オレの知らねぇところでサイコな交友関係広げてんじゃないよ!!」


「か、鍵でふ。もう、あなたには逆らいません……」



 パズルのピースが全て揃った瞬間であった。



 時間は、残り25分。

 結構余裕があるじゃないですか。


 マイクのスイッチをオン。


『えー。あー。皆さん、準備が整いましたよー。命の重さをやたらと軽く考えているゲームマスターですから、アレですよね、多分、彼の命も軽いんでしょうね? 小石を蹴飛ばす感じで今から命を取りに行くので、ギャラリー大歓迎です。さあ、皆さん、一階突き当りの、保健室の横。校長室に集合ですよー』


 マイクのスイッチをオフ。

 すると、すぐに放送ランプが点る。

 どうやら、校長室から何か発表する模様です。

 白旗宣言でしょうか。ちょっと遅いですよね。


『な、奈良原の仲間に告ぐ! どれ程の条件でお前たちが奈良原に雇われているのか知らんが、私に寝返らないか!? 給料なら、月に50万、いや100万出す!!』


 佐々木さんがやれやれとオーバーに両手を上げる。


「郷田もだけどさ、君たちの会社って、どうしてピンチになってからそういう交渉を始めるのかな? 本来さ、引き抜こうと思うんだったら、せめて自分が優勢にゲームを進行している状況じゃないと、話に信憑性が一切ないんだよ。お金大好きなボクとしては、奈良原と遭遇する前だったら寝返ったかもしないのにさ。ねえ、そう思わないかい、ペタジーニ?」


「えっ!? いや、オレに同意求めるんすか!? ……オレ、新汰とは強い絆で結ばれてるんで! いくら金積まれても、そこは揺るがないっす!!」


「ははは、変わってるなぁ、君も。でも、奈良原はさ、ハウス栽培だっけ? そのハウス、10棟くれるって言われたら、ペタジーニを裏切らないかい?」



「……………………。…………………………。そんなぁ、まさかぁ」



「いや、ぁ!!! 今おめぇの脳内シミュレーションで、オレの事何回裏切った!?」


 ペタジーニさんを10回裏切っても、ペタジーニさんは死なないでしょうし、11回目で謝ったら、ビニールハウスが10棟建つ……検討の余地はあります。

 そんな事を考えていたら、またしても放送ランプが点灯。

 せわしない人ですね。


『どうしてこんなに簡単な計算ができない! 農業なんてせせこましい、しょうもない土いじりなどと言う、割に合わない仕事よりも、楽をして金が得られるんだぞ!?』


「あっ。凛々子さん、避難しましょう」

「あーあ。言っちゃったし。お姉、これはマジでガチの避難案件だし!」

「えー? なになに? どうなるの?」


「凪紗ちゃんと莉果ちゃんは、凛々子ちゃんと一緒に校庭に避難しといてもらった方が良さそうだぜ! あー! 阿久津のおじき!! ちょっと!」

「おう! 今の放送聞いて飛んできたわぃ! 嬢ちゃんたちは任せちょけ! ペタの、新汰は任せてもええんかいの?」

「おっす! とりあえず、死人が出ねぇように見張っとくよ!」


「バカだねぇ。こんなに分かりやすい逆鱗に触れていくとか。郷田はさ、進言してあげなかったワケ? まあ、立ちなよ。君には、相手が本当にゲームマスターかどうかの審議に立ち会って貰わないと。影武者だったら気の毒だからね、影武者が」


 なんだか、俺の周りが勝手に色々やってくれるので、俺もリミッターを解除することが出来そうです。

 さあ、準備、準備。ふふふ、何が良いですかねぇ。


「えー。あー。チームサバイバーの皆さん! 出来るだけ派手にものが壊せる武器持っていらっしゃる方ー! おられましたら、こっちに持って来てくださーい!!」


「お前、そんな、お客様の中にお医者様おられますかー、みたいな。……あ、なんでもねぇや。目がマジだもんな。オレ、邪魔になんねぇよう、静かにツッコミしとく」


「こっちにハンマーありますよ」

「あー! 良いですね! すごく良い! フォルムがちょっとくわに近いところとか、すごく良いですよ! ねぇ、あなたもそう思いますよね!?」

「ひぇ!? あ、はい、ソウデスネ!」


「はいはい、皆、新汰と接触する時は、発言に注意してー! この状態だと、とばっちり受ける可能性大なんでー! そんじゃ、ゆっくり1階に移動しましょー!!」

「ペタジーニってさ、一生苦労を引き寄せる体質だよ。そういう魂の色してる」

「えっ!? ちょ、ヤメてくれます!? オレ、そーゆうスピリチュアルなの、結構信じちまう方なんすよー! シャレになんないじゃないっすかー!」


「ご愁傷様、とだけ言っておくよ。さあ、郷田。君も行くよ。まあ、もうこの局面で逃げるほど馬鹿じゃないと思うけど、一応ボクの管轄みたいになっているからさ」

「佐々木さんも案外面倒見がいいっすね!」

「ふん。ボクは、イチゴジャムで契約しているからね。金や物を介した契約って言うのは、大事なものなのさ」


「あー、そっちの方! 槍、良いですね! 下さい、下さい!!」


「……新汰が武蔵坊むさしぼう弁慶べんけいみたいになっとる! どんだけ武器集めてんの、あいつ!!」



 校長室の前に到着しました。

 鉄製の扉に、鍵穴がありますね。

 郷田さんから貰った鍵を差し込むと、これが開くんですよ。

 不思議ですよね。鍵なんて作らなければ籠城ろうじょうできたのに。


 どうせ、作り変える経費をケチったとかです。


 おや、まだ木の扉が立ちふさがりますか。

 生意気ですねぇ。粉々にして差し上げましょう。



「ふぅぅぅぅぅぅぅ、んぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」



 ハンマーの威力にビックリ。

 本当に粉々になりましたよ。木片で頬っぺた切っちゃいました。


「どうも、こんばんは。いえ、そろそろおはようございますでしょうか? 会社に居た頃、挨拶の時間がどうのこうのって、やたらとうるさい人がいましてね」


「まあ、その会社、今日でなくなるんですけどね」



「確認しますけど。さっき、農業の悪口言いましたよね?」

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