第38話 反撃 ~スマホの録音機能って優秀ですよね~

 2階の廊下の突き当りに、放送室はありました。


「ゴルァ! 開けんかいぼけぇ!!」

「おんどれぇぇ!! ワシに無駄な労力使わせよってぇぇ!!」


 ヤクザの若頭が2人で入口のドアを蹴る。蹴る。そして蹴る。

 それでもびくともしません。

 察するに、この小学校はこれまでのゲームで使っていた訳ですから、指示を飛ばすための拠点である放送室は作りが頑丈になっているのでしょう。


「女子のみんなはオレと一緒に下がってような! おっさんたちがキレてて、危ねぇから! つーか、怖いよな? 怖くない?」


「私は別に平気です! 阿久津さんも普段は優しい人だって知っていますし!」

「つーか、ペタさんも見た目だけだったらあっち寄りだし。ウチ、隣の家にペタさんが引っ越してきて挨拶に来たら、ガチで引っ越し考えるし!」

「こらこら、莉果ー? ダメだよ、ペタレルヤくんだって、好きでこんな外見じゃないんだからねー?」


「みんな肝が据わってんのな! あとね、オレは好きでこんな外見してんだよ!? 日サロもピアスもオシャレだと思ってやってんの! ナニコレ、泣きそう!!」


 ペタジーニさんが自分から後衛に回ってくれているので、俺も自分の作業に集中できます。

 よく見ると、うっすらと涙まで浮かべて。

 可哀想に。お腹が空いたんでしょうね。


「ええと、いちにのさんし、と。それじゃあ開けますから、キレる中年のお二人、中の制圧はお任せしても?」


「任せちょけぇ! 神無月のに遅れなんぞ取らん! ワシ一人で充分じゃ!!」

「言うたの、阿久津の! 御月見組おつきみぐみの底力見せちゃる!! 奈良原さん、よう見といてくれぇや!!」


 阿久津さんはバール二刀流。

 神無月さんは日本刀一刀流。


 これなら、相手が機関銃でも持っていない限り大丈夫でしょう。

 そして、俺は鍵のダイヤルを再確認して、ボタンをポチリ。

 ガチャンと音がして、開錠の合図。


 そして、二つの組の若頭による開戦の合図。


「ごるぅぅぅあ!! 今すぐ両手を上にあげんかい、ぼけぇ!!」

「いらんこと喋りよったら、喉笛のどぶえっ切るけぇの! ドアホがぁ!!」


「ひっひひ! こいつが目に入んねぇのかよ!? 撃つぜー?」



 あ。刺客の人、本当に銃持ってました。



 これはいけません。

 適当にフラグ立てたのがまずかったですね。

 一旦引いて、態勢を立て直しましょう。


 と、言おうと思ったのですが。



「おどれぇ、素人じゃのぉ? 銃っちゅうんは、撃つぞじゃ意味がないけぇのぉ」


 バール二刀流で、両端にある棚のガラスを砕いて刺客の人を完全に攪乱かくらん

 前後不覚に追い詰める阿久津さん。スターバーストストリームですかね。


すじもんに鉄砲向けるときゃぁのぉ、撃った後に初めて喋るもんじゃ」


 そして日本刀の峰で銃を叩き落として、そのまま切っ先を喉元に。

 触れるか触れないか絶妙の当たり判定を見せる神無月さん。


 敵だった時は強キャラ感マシマシなのに、仲間になると急に弱くなるキャラっていますよね。

 どうやら、うちの強キャラは敵だろうと味方だろうと強キャラのままのようです。


「新汰ぁ! ハジキ拾ったでぇ! お前が持っちょきぃ! お前さんのバール、ワシがもろうてしもうちょるし! な、護身用っちゅうことで!!」


「阿久津のおじき!! 砂浜でカニ見つけたテンションで銃持って来ないで!」


「ありがとうございます」

「そんでお前は自然に受け取るんかい!? どうなってんの、コミュ障の倫理観! 高校の頃、倫理の授業選択したの!? オレはしたよ!!」


 とりあえず、重要拠点の放送室を制圧完了。

 残り時間は、あ、35分しかないじゃないですか。

 もう、ペタジーニさんが神無月さんとベストバウト賞取ろうとするから。


「それにしても、新汰ぁ、ここにゲームマスターがおるんかと思うたが、この泡ふいちょるのは違うじゃろ?」


 刺客の人、極度のストレス値の上昇により倒れる。

 きっと、「ここを守ったら500万出す」とか言われていたのでしょう。

 ご愁傷様です。


「小学校をぐるっと回って、ゲームマスターのいる場所の目星は付いています。それよりも、放送室を俺に奪われた事にいつ気付くかですね。バレる前に早いとこやっちゃいましょう。えーと、電話、電話」


 取り急ぎ電話をかける。

 相手はもちろん佐々木さん。


「あー。もしもし、奈良原です。あのー、俺思うんですけど、若い女の人ってどうしてやたらと脚を出すのかなって。で、気付いたんですよ、あ、これはサクランボと同じだなって。無防備を装って誘惑してるんですよね? ところで状況はどうです?」


「連絡役を替えたいけど、プランが頭ん中に入ってるのがあいつしかいねぇから替えらんない、このもどかしさ!! なんでコミュ障すぐ本題に入んねぇの!?」


『こちらは、協力的だった刺客を8人ほど確保したよ。それから、気を失っている連中には、今手分けして覚醒させているところかな。それももう終わると思うよ』


「素晴らしい手際の良さですね。どうですか? デスゲームを運営してみては」

『はは! 嫌だよ。どうせ、君みたいなのが混ざっているんだろう? ボクが一番嫌いな事は、骨折り損のくたびれ儲けだからね』

「その点、俺について下さったおかげで、絶品のイチゴジャムを得る権利を獲得させましたね! いや、慧眼ですよ! もう見る目しかない!!」


『せいぜい期待させてもらうよ。……うん、そう。奈良原? タイミング良く、全刺客が意識を持った状態になったよ。ただ、1人覆面が足りないんだけど』

「あ、最後に残った覆面の人ですか。今は気にしないで大丈夫です。では、一旦切りますね」


 準備完了。


 ——それでは、反撃といきましょうか。



 放送するボタンはどれかなと探したらば、気前よく「放送」って書いてあるボタンがありました。

 さすが小学校。親切ですね。

 そのボタンをポチリ。


『あー。テステス。えー。皆さん、聞こえているでしょうかー?』


 俺の全校放送がスタート。

 端的に行きましょう。残り時間だけがネックです。


『この度は、俺こと、奈良原を筆頭に、6人の首に1千万の賞金がかかったハンティングゲームに参加されたかと思いますが、それは間違いです。いいように、参加させられた、というのが、あのー、アレです、正しい言い方!』


『俺が喋っているだけでは信じられないかと思いますので、皆さん、ゲームマスターの島津さん、会ってますよね? 声は覚えていますか? 忘れていたら思い出してください』


 俺は、自分のスマホを手に持って、アプリを立ち上げる。


『えー。皆さんは、あと30……あ、28分だ。28分で、爆発に巻き込まれて死にます。これがその証拠です。どうぞ、お聞きください』


 そしてスマホをタップ。


 ゲーム開始前、俺がゲームマスターとルールの確認をしていたの、覚えておいででしょうか?

 あの時の音声、録音しておいたんですよ。

 それを今、全校に流しています。


 要点だけ抜き取ると、こんな感じです。


『……時間が過ぎても、爆破装置は起動する』

「つまり、俺たちの敵チームの命も無視すると?」

『当然だろう。借金抱えたクズの群れなど、いなくなれば世の中が綺麗になる。上級国民の皆様に日々を快適に過ごして頂くためにも、ゴミ掃除を兼ねているのだよ』

「はい。ありがとうございました」



 シンと静まり返った校舎内。

 では、仕上げを。


『皆さんが助かる方法はただ一つです。既に我々は起爆装置解除のための鍵を2つ持っています。あとはゲームマスターの島津が持っている、3つ目の鍵だけ。ちなみに島津は校長室に立てこもっているようです。さらに、そこにも鍵をかけている』


 一息ついて、もう少し。

 ラジオDJの人とか、これを毎日するんですか?

 正気の沙汰とは思えませんね。今度ピクルス送っておきましょう。



『とりあえず、全員で覆面の人を探して捕まえましょう! さっきまで仲間づらしていたのに、気付いたら見当たらないでしょう? その人が校長室の鍵を持っています!!』



 静けさは破られ、校舎が揺れるのではないかと思うほどの怒号と、本当の振動が。


 今回の必勝法は人任せ。

 しかし、命の懸かった状態の人間ほど強力な助っ人はいません。


 あとは時間との勝負ですね。

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