剣の勇者の日常
ある日、俺の世界は一変した。
「勇者様世界を救ってください」
部屋で寝る支度をしていた俺が急に異世界転移。
戸惑いもあったが最初の頃は良かったよ、剣と魔法の世界にワクワクしていた。
だが城の中では次第に邪魔者扱い。
魔力無しってだけでここまで邪険に扱われるとは思ってなかった。
唯一の救いは城の姫様が話のわかる人だったという事か。
毎回、姫様の騎士とか名乗る奴に城から出ていけと言われる日常に嫌気が差して、俺は逃げ出すように城から出ていった。
そこで予想外だった事は姫様が俺に着いてきたこと。
城から出る際、城を守ってる兵士は俺を引き止める事なく門を開いた。
別に引き止めてくれても良かったんだよ? 異世界とか怖いし、一人じゃ不安だし金ないし!
呆気なく城から出れた俺は行く宛もなくぶらぶらとは……出来なかった。
「あれは何でしょう!」
俺の隣には何故が目をキラキラさせて色んな所を指さしながらキャッキャとはしゃぐ女がいた。
フードで顔を隠していたが、チラッと覗かせた顔には見覚えがある。
「えっ? なんで姫様がいんの!?」
「ユウ様、これは兄からの手紙です」
俺の質問を華麗にスルーして一通の手紙を渡してくる姫様。
その手紙を開くと。
『私はお前がどこで野垂れ死にしようと構わないが、アリアスがどうしてもついて行きたいと言うのでしょうがなく許可する事に決めた。追記 私の妹に少しでも妙な事したらぶっ殺すぞ。アレクより』
兄こわ。
どうせ姫様も俺を見捨てるんだろうなと思いすぐさま撒いた。
俺はミリアードの国から出てめちゃくちゃ走った。
そして俺は一匹のドラゴンと出会う。
神話でしか見たことのないようなドラゴン。
俺は気づかれないようにその場を離れようとしたが。
「あれは何ですか?」
聞き覚えのある声に振り向くとアリアスがドラゴンを指さしながら近づいていく。
「アリアス近づくな!」
止めても全然歩みを止めようとしないアリアス。
何考えてんのコイツ!
ドラゴンの顔を指でつつきながら。
「あの貴方はここで昼寝をしているのですか?」
鬱陶しいというふうにドラゴンが目を開けると。
『我の眠りを妨げる愚か者など灰になるがいい!』
立ち上がったドラゴンは口に炎を溜める、俺はアリアスを助けるために必死で考える。
いつの間にかアリアスを庇いながらドラゴンの目の前に来ていた。
我ながら酷い人生だと思ったよ、こんな事で死ぬなんてな。
ただアリアスだけは守らないとアレクが怖いからな。
『リミテッド・アビリティー』
無意識に呟いた言葉に呼応するように目の前の空間が歪む、俺はその空間に手を伸ばすと何かを掴み引き抜く。
出てきたのは金色のオーラを纏う黒剣。
こんな剣で何が出来るんだ? 魔力が物を言う世界でこんな棒切れなんの役にもたたない。
だけど、抗う武器は手に入れた。
容赦のない灼熱の炎が迫るなか、俺は黒剣を無我夢中で振り抜く。
俺に剣の才能なんか無いと思っていたが、その炎が俺を避けるように二つに分かれた。
ドラゴンは愉快そうに口を大きく開ける。
『初めてだな我のブレスをここまで簡単に凌いで見せた者は……汝に一つ褒美をやろう』
この世界で初めて自分を認められたような気がした。
それが嬉しくて、俺はドラゴンに変な事を口走っていた。
「じゃあ友達になってくれないか」
「面白い、面白いぞ! 我を驚かせる者が居るとはな。汝の名を聞こう」
「俺はユウ・オキタだ、よろしく」
「我の名は竜王ブラッド・ドラゴン」
「じゃあブラッド、背中に乗せてどっか遠くに運んでくれないか?」
「いいだろう、友よ! さぁ我の背に乗れ」
俺の腕の裾を掴んで離さない奴の存在を忘れていた。
「ユウ様、私もついて行きます!」
「えっ? 嫌なんだけど」
「離しませんよ!」
しぶしぶ俺はアリアスも連れてブラッドと共にミリアードを後にした。
「パパ〜! ドラゴン見たい!」
「見に行くか!」
「うん!」
俺は家のソファーに座りながら娘に昔の出来事を喋っていた。
俺の太ももの上に座りながら昔のリリアのように俺の話を聞きたがるティアは本当に可愛い。
『ちょっと待ってくださいよクレスさん!』
可愛い娘とのお喋りを邪魔する奴が現れた。
「なんだ?」
「今日は僕の稽古を付けてくれる日じゃないんですか?」
「フィーリオンの剣聖ジーク様が俺なんかの稽古じゃ満足出来ないだろ?」
邪魔者ジークの稽古はどうでもいい!
「お〜い! ユリア〜」
「なになに〜」
大声で呼ぶとテコテコと部屋に入ってきたユリア。
「今日フランが来るだろ?」
「うん」
「フランと一緒にジークの稽古任せた!」
「パパ! わたしともけいこするっていった!」
「……」
ムッと頬を膨らますユリア。
「クレスさん!」
ジークは別にどうだっていいが可愛い娘の為だ。
「じゃあ皆んなでブラッドの所に行くか!」
「わ〜い!」
ティアは手を上げて喜んでいる。
「えっ? クレスさんの作り話じゃ無かったんですか!?」
「竜王は実在するぞ」
ジークは俺の言葉に絶句する。
「じゃあユリア、ユウカとリリアも呼んできてくれ、フランが来たら竜王の所に行くぞ」
「わかった〜」
俺は家族と弟子を連れて竜王の所へ転移する。
馬鹿でかい薄暗い洞窟の中。
「竜王遊びに来たぞ〜」
眠たそうなドラゴンを目の前にジークだけが怯えていた。
「……旧クラスの神級の魔物じゃないですか」
「お〜い、起きろ」
クレスはそんなドラゴンの顔をバシバシと叩く。
「我の眠りを妨げる者よ」
ぎょろりとクレスを貫くような眼光。
クレスを視界におさめるとニタリと口元が歪ませるドラゴン。
「おぉ、来てくれたのか我が友よ」
「あぁ、お前を見たいって娘が言い出してな」
「そうか、可愛い娘じゃないか」
「わ〜い、ドラゴンさんだ〜」
ティアは身軽な動きでドラゴンの背中に跨る。
ジークは動揺しながらリリアに声をかける。
「ちょっと、リリアさん? なんで皆んな驚かないんですか?」
「ブラッドさんはいい人ですよ?」
「僕がおかしいのかな?」
クレスはジークなんかお構いなしに話を進める。
「それじゃ稽古を始めるか、ブラッド! ここら辺借りるぞ」
「うむ、たまには騒がしいのも悪くわない」
フランとユリア、ジークが剣を構える。
リリアは小さなドラゴンのアリアスを両腕で抱えながらユウカと二人で椅子のような丁度いい岩に腰掛けている。
「ユウカちゃん、アリアスちゃん、私今本当に幸せなの」
「きゅい!」
「僕もだよ、所でリリアちゃんは最近クレス君を超えるなんて言わなくなったよね?」
「うん、だってお兄ちゃんが最強に拘る理由がわかった気がするから」
「その理由ってなんだい?」
「お兄ちゃんは最強ってだけで孤独を知ってるんだよ、優しいお兄ちゃんはその孤独をみんなに知って欲しくないんじゃないかな」
「だから一番であり続けるって事かな?」
「うん」
「僕もそう思うよ、でもクレス君はもう追い抜こうって次元じゃないからね」
「追い抜けないよ、だってお兄ちゃんは最強だもん」
「でもクレス君は僕達が考えてる事とは全く違って悪役みたいな事思ってそうだけどね」
「ふふ、お兄ちゃんらしいね」
二人と一匹の視界には幸せそうなクレスの姿が映る。
クレスが追い求めた平和な日常はこのままずっと変わることはないだろう。
『リミテッド・アビリティー』
俺は金色のオーラを纏う黒剣を引き抜く。
『手加減してやるからかかってこいよ』
フラン、ユリア、ジーク。
俺はお前らの超えられない壁になってやるよ、だから追い抜こうと努力しろ。
まぁ……俺がいる限り、無駄だけどな!
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