負けられない者



「手加減できませんよ、かかって来なさい」



 ……マジで?


 俺は剣の勇者が持つ黒剣を向けられて一歩後退した。


 なんかの能力か?



「チート臭いな」


「チート? なんの事ですか?」


「なんの事だろうな」



 俺は心の中でクロに剣の召喚を頼む。


『はい、ユウ様』


 俺の手元に黒銀の魔力で剣が作られていく。



「無詠唱ですか、また珍しい力ですね」


「手加減してやるからかかってこいよ」


「私の真似ですか? 威勢がいいですね、先程までヤル気がなかった人とは思えません」



 勝気な少女は白銀のオーラルを纏い一歩踏み込むと身に纏った魔力が消え失せる。


『スタイル【クレス・フィールド】』


 少女が呟くと雰囲気がさっきまでとは異なる。


 まるで別人になったみたいだ。


 俺の中に入ってるクロが説明してくれる。


『はい、剣の勇者なユウ様と雰囲気が同じです』


 アレクのモノマネのような能力なのか?


 それなら本物の俺に勝てる訳がない。



「私の名前はユリア、貴方の名前を聴きましょう」


 俺は今、悪い顔をしてるだろう。


「クレス・フィールドだ」


 ユリアの構えが硬直する。


「ッ!」


 ふっと息を吐いてネタバラシ。


「勘違いするなよ、英雄様なんかじゃない」


「そうですか、この状況でその名前が出てくるとは驚きでした……行きますよ!」



 俺は自分と同じ力の相手と何度も戦った事があるからな。


 相手の剣を避けて翻弄して仕留める。


 一撃一撃が必殺の剣。


 それが俺の……剣の勇者の剣術。


 俺のコピーなんだから俺が読めないわけがない。



 ユリアは俺との距離を一瞬にして詰める。


「ッ!」


 完全に再現という訳じゃないらしい。


 俺でもなんとかついていける。


「甘いんだよな」


 振られた黒剣を難なく受け止めると余裕を持って剣を弾き返す。



 だがパリンと精霊神が作った俺の剣が壊れる。


 ユリアの身体は仰け反り、俺は攻める武器がない。


 俺が拳を握るとユリアから白銀のオーラが滲み出る。


 そしてユリアの速度が加速する、仰け反りからすぐさま復帰して、一瞬にして俺の首元まで伸びる剣先。


 俺はユリアの黒剣を避けながら後ろに飛ぶ。



「いい判断ですね」


「まさか!?」


「戦いぶりからして剣の勇者と同じ力が出せるという読みは悪くないですが、相手の力を断言するのは違うと思いますよ」


 

 モノマネとは次元が違う……剣の勇者の剣術の上を行ってやがる……アレクの能力の上位互換か?


 


「力が圧倒的だと、最強だと分かったでしょう! でも少しは見直しました。私と打ち合って無傷の人は初めてですから」



 自分の力とコピーを合わせることができる能力……チート。


 それに加えて魔力を纏ってない剣で魔法が切れるとか性能が違う。



『クロ、剣が壊れたらその度に修復してくれ』


『はい、ユウ様』


 手元にクロが新しい剣を召喚してくれた。



 疲れる事はあんましたくないんだけどな。


 剣の勇者が振る剣は無音。


 俺はユリアとの距離を一瞬で詰めると剣を振る。


 見てからじゃ遅い! 一撃で仕留めるように力を込める。


 だが期待とは裏腹に剣がパリンと壊れてユリアには届かない。



「ビックリしました! 貴方も剣の勇者に似た剣術を使うんですね」



 ビックリしたなら、効いてくれよ。


 俺はすぐさま距離をとる。



 既にクロが修復した剣を横目にユリアを見る。


 黒剣が俺の剣の軌道を妨げるように置かれてるだけだった。


 俺にはユリアの動きが見えなかった。



「手加減してくれるんじゃなかったのか」


「それは私のセリフでもあるんですけどね」




 俺とユリアは一歩も動かず、読み合いを始める。




 俺は無言に耐えきれなくなって口を開く。


「さっき気になったんだが、なんで最強に拘ってんだ?」


「私は元は孤児です、ですが孤児院に拾われました。孤児院はもうすぐで潰れてしまいます」


「最強になったら金が沢山集まると?」


「それもありますが、私は空っぽなのですよ。孤児院に入るまでの記憶も私にはありません、記憶喪失らしいです。覚えていたのは名前ぐらい」



 ユリアの瞳に寂しさが滲み出ると黒剣を強く握りしめる。



「だから私は証明したい! 私を捨てた親に、私はここに居るよって伝えたい!」


「それは手っ取り早いな」



 最強になって親を見返すか。



「どちらにも負けられない理由があるらしいな」


「負けていい理由なんてあるはずないじゃないですか」



 そりゃそうだ。



 



『『最強は俺だ私です』』





 二人の合わさった剣は音も無く。


 大地は悲鳴をあげるように揺れる。



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