妹は渡しません
ルナリアから逃げた俺達は一週間の道のりを越えてダリアードという国についた。
今はそこに家を借りて過ごしている。
一ヶ月の家賃が二十万円ぐらいだな。
二十ゴールドだ。
俺が望んでいた平穏だ! 小さな庭付きの家で何もない庭を見ながら俺はソファーに寝転んで暇を持て余している。
小さなドラゴンの姿のアリアスもソファーの上で俺と一緒に寝転んでいる。
ここの家で暮らしてもう一ヶ月の月日は経った。
毎日こんな生活、フランもダリアードの暮らしに馴れてきたみたいだし。
いいな!
そんな怠惰を謳歌している俺に掃除をしていたはずのフランがモジモジと申し訳なさそうに近寄ってきた。
「お兄様……あのですね」
ためらっていたフランは意を決したようで、声に出す。
「学校と言うものをユウカさんに聞いたのですが……どうしたら行けるのでしょうか?」
ふむ、そういう事に興味が出てくる年頃なのか。
因みにユウカも精霊神もこの家に暮らしている。
目を離したら俺が何処かに行くと思ってるのか?
まぁいいか、俺はフランに聞き返す。
「学校ね、フランは行きたいのか?」
「お友達が沢山出来ると言うので」
フランも同じぐらいの歳の友達が欲しいのか。
「行きたいか? ここでずっと過ごしてもいいんだぞ?」
フランは俺から目を逸らして少し考え込むそぶりを見せるが俺を再度見る。
「……はい、お兄様との暮らしは毎日楽しいですが、学校と言うものに憧れはあります。一度は行ってみたいです」
この世界の学校って勉強したら入れるという訳でもない。
寝転がっている俺はフランにドヤ顔で言い放つ。
「だけどな、剣術や魔法を習いに行くところだぞ? 学校で教わる事は全部お兄ちゃんが教えられる。そこら辺の教師には負けない自信がある!」
俺は腐っても剣の勇者だからな!
ドヤ顔で言い放った俺のうしろから声が聞こえてきた。
「毎日ソファーで寝ている人が何を言ってるのかな?」
「いつから居たんだ?」
俺の後ろにユウカが佇んでいた。
「フランちゃんが学校に行きたいって言った辺りかな。買い物を終わらせて帰って来た所で二人が話してたから邪魔するのも悪いしちょっと気配を消して見てたんだよ」
気配を消すな!
「フランはお兄ちゃんを置いて学校に行きたいって言うんだな」
「お兄様……私はやっぱり行きませ……」
落ち込むフランの姿に我慢出来なくなった俺は。
「いいぞ! 学校に行きなさい!」
「い、いいのですか!」
フランの顔が、ぱぁっと笑顔になる。
「じゃあ何処の学校に行きたい」
「ユウカさんから聞いた所だと私は剣の勇者様の学園に行きたいです」
魔力があるフランなら簡単に入れそうだな。
だがそんなフランにユウカが口を出す。
「フランちゃんの実力では難しいかな」
えっ?
「魔力あれば入れるんじゃなかったか?」
「剣の勇者に憧れてフィーリオン剣士学園に入る人が増加していてね、今では結構な実力が最初からないと落とされた記憶があるよ」
俺のせいかな? 散々俺を追い出そうと必死だった学園なのに俺が有名になったらその権利を主張する……腹立つな。
「クレス君の考えてる事はなんとなく分かるけど、今は魔力がなくても実力があれば誰でも入れるようになったんじゃないかな」
「でもそんな奴は居ないだろ」
「そうだね、現状は魔力がある人が強いっていうのは変わらないよ」
「フランはそれでも行きたいか? 行きたいなら合格出来るようにしてやることは出来るぞ」
フランが本気なら力を貸すのはお兄ちゃんとして当然だ。
「私、頑張ります! お母様が英雄と呼んだ人の学園に一度は入ってみたいです」
本音はそれか。
目の前にその英雄がいるのに。
「入学の条件が上がってるらしいからな、フラン頑張れよ」
「はい」
やる気がみなぎってるな。
「じゃあユウカ、後は頼んだ」
「えっ? この流れで僕が教えるのかい?」
「ユウカが
「いいけど、僕ぐらいになれば合格ラインまで楽勝さ」
そりゃそうだろ、闇の勇者だぞ。
「ユウカさん、よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げるフラン。
二人は庭に出て行き、俺はソファーから練習を眺める。
まずは魔力のコントロールの練習をしているようだ。
俺はうとうとしながら眠りについた。
フランの言葉から俺の朝は始まった。
「お兄様、今日はデートに行きましょう」
昨日は寝てしまい、いつの間にか時計が一周してしまっていたようだ。
ユウカが唐突に思い出したのだ、デートの約束を。
ずっと忘れてればいいのに。
「僕も準備はオーケーだよ」
二人共にお洒落をして、俺を待っていた。
「可愛い女が両側に居るとはリア充だな!」
この状況も悪くないな。
「照れるよ~」
「お兄様とデートですね」
俺達は三人で歩きながら。
「きゅい!」
……三人と一匹で散歩をしていた。
「何にしようか? フランの為に剣を買いにも行かないとな」
「はい!」
楽しそうなフランを見てると俺まで楽しくなる。
「ユウカは何がしたい?」
「僕はクレス君の隣で一緒に町並みを歩いてるだけで充分だけどね」
いつも一緒に居るのにデートとして外に出た瞬間からユウカはずっと頬を朱に染めて俺の方を全然見ようとしない。
「何か食べに行くか」
デートなんだ男の俺がリードしてみせようじゃないか!
何処が良いかと店を探している時に金髪のイケメンとすれ違った。
超絶イケメンと!
イケメンが何故か振り返って喋りかけてきた。
『ちょっと待ってください!』
無視だ。
『お兄様じゃないですか?』
俺に気づいたか……俺も気づいてたさ、お前がアイツだって事は。
『俺をお兄様と言ったか? 殺すぞお前』
アレク……今お前の気持ちがわかったよ。
ユウカはアクアに向かって叫ぶ。
「アクア君! 逃げないと殺されるよ!」
フランはオドオドと俺とアクアを交互に見ている。
この超絶イケメンはあのアクアだ。
『あの時の試験から僕がお兄様を超えたということを見せてあげましょう! リリアさんをお兄様の呪縛から救えるのは僕だ!』
あの時の続きをやろうっていうのか面白い。
俺は腰にかけているグランゼルを引き抜く。
『手加減してやるからかかってこいよ』
これは俺の勝手だが……リリアは俺より弱い奴には絶対に渡さん。
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