英雄は俺です







 俺はフランの面倒を少しのあいだ見ることにした。


 フランが言うには山を二つ越えた辺りにルナリアという国があるそうだ。


 ルナリアの王様には色々と世話になっていたと言うのでそこまで連れていけば俺達の役目は終わりだろう。


 家名を子供に教えなかったというのはどういう事なんだ? 王様と知り合いで世話になるほどだからフランの親は相当に地位が高いよな。


 魔族が突然に現れた事も何かあるとしか思えない。


「ソーダちゃんは可愛いね~」


 歳は六歳と言っていたから今はチビドラゴンのアリアスと二人で戯れている。


 周りは何処を見渡しても木、木、木。


 馬車が通れるギリギリの道を今進んでいる。


「こっちで合ってんのか?」


「はい、お母様はいつもこの道を真っ直ぐ行ってました」




 永遠と続く森を進み、暗くなってきたので夜営の準備に取りかかる。


 枯れ木拾いだけだが……布団とかないし。



 拾い集めた枯れ木にソーダが炎を吐いて火をつける。


 屋敷の残骸から僅かに残っていた食料を食べながら俺は疑問に思った事を聞いてみた。


「フランは母親と二人で暮らしてたのか?」


 あの魔族が一人一人丁寧に焼き殺していたなら不自然ではないが、あの魔族の性格上そうとは思えなかった。


 そして屋敷の残骸は不自然なほど綺麗だったのだ。


 生臭い死の臭いが全然しない。


「お母様と私の二人だけですよ」


 こんな辺境で二人暮し?


「そうか、ルナリアには王様に会いに行ってただけか?」


「ルナリアは凄く静かな所なんだよ~私は王様と騎士さんしか見たことないですけど」


 俺の考えが正しければ胸糞悪い。



 食事も終わり、俺は枯れ木を火に放り投げながら火を消さないようにする。


「クレスさん、隣で寝てもいいですか?」


 向かい合ってたフランが一度はその場で寝ようとしていたみたいだが起きて俺に尋ねてきた。


「いいぞ」


 嬉しそうに微笑むフランはせっせと俺の左隣に来て木にもたれ掛かっている俺の横に座る。


「眠れないのか?」


 あんな事が起きた後だ、眠れと言われても眠れるはずがない。


 ポテッと俺の左肩辺りにフランが身体を預けてくる。


 突然の事にちょっとだけ動揺したが顔を覗いてみるとすーすーと寝息をたてて眠っていた。


 フランはずっとアリアスと遊びながら山を進んでたんだ俺より体力を使っていただろう。


 それを考えれば眠れないって事はないのか。


 俺の膝の上はアリアスが独占していて、そのアリアスも今は眠りの中だ。


 俺は眠っているフランを起こさないようにしながら地面に寝かせる。


 そしてアリアスもフランの傍に寝床を移させる。


 今日は寝れそうにないな。


 俺はグランゼルを引き抜くと気配を頼りに近寄ってくる魔物達を倒しまくった。




「クレスさん!」


 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。


 もう朝か。



「悪いな、ちょっと川で顔を洗ってたんだ」


「そうですか」


 安心したような顔をするフラン。


 また不安が押し寄せて来たのかもしれない。


「よし行くか~」


「きゅい!」


 アリアスも俺の左肩の定位置に乗ると鳴き声を出す。




 朝はフランとアリアスが戯れながら歩き、夜は野宿。


 そして俺は一睡もせずに魔物を倒す。


 狙われすぎだろ、魔物達も毎晩働かなくても一日ぐらい休んでもいいんだよ。


 こんな日が一週間続いた。




「クレスさんは眠れないのですか?」


「いや、今日もぐっすりだ」


 俺を心配そうに見つめるフランにアクビをしながら答える。


 山を二つ越えた所なんて嘘だよね?


 マジで遠いんですが。


 そんな事を思いながらも坂道を進む。


 坂道を登りきった所でようやく国が見えた。


「あれがルナリアか?」


「はい!」


 内心ガッツポーズ。


 やっと眠れる。


 俺の後ろには森が生い茂っているのに。


 坂道を境に草原が広がっている。


 その広大な草原の真ん中に高い壁に囲まれた国が見える。


 ここは山の頂上みたいなとこがあるからな、国の全貌を見ることができる。


 目的地が見えた今、自然と足が速くなる。




 そこから数時間で門に到着。


 見えたからって近いとは限らない。


「身分証を見せろ」


 門を潜ろうとすると騎士に止められた。


「わかった、わかった」


 まぁそうだろうなと思いながらも俺は首に下がっているネームプレートを……。


 な、ない。


「悪いな、魔物との戦闘の最中に無くしたみたいだ」


 なんでグランゼルは持ってきてネームプレートだけ持ってきてねぇんだよ!


 今更ながらに気づいたわ!


「そうか、なら一人一ゴールドだ」


「ゴールドって高いな」


 入場料一万円。


「身分証がないからな国に入るだけでも金が高くなるんだよ」


 入場料は普通十シルバーらしい千円ぐらいだ。


 冒険者プレートがないなら仕方ないよな。


「この魔法石があれば足りるか?」


 俺は騎士に袋にいれておいた魔法石を投げる。


「こ、これは」


 袋を開けると騎士は驚く。


「名のある冒険者様ですかね、名前を聞いても大丈夫ですか?」


 さっきまでの態度とは違う手のひら返しに俺が驚くわ!


「クレス・フィールドだ」


「その人の名前を口にするとは冗談がお好きなようだ、これ程質が高い魔法石を取れる腕は確かです」


 冗談?


 すると騎士は魔法石を俺に返す。


「そんな御方から金を取るなんて俺には出来ません、どうぞ」


 結論騎士は良い奴だった。



 国に入るとフランから聞いていた静かな国というのが嘘のように賑わっていた。


「フラン、これはどういう事だ?」


「わかんないです」


 身分証はフランも屋敷と共に無くしたというし、家名がわからないなら再発行も出来ない。


 俺達は冒険者ギルドに向かうことになった。


 フランもないと困るだろ。


 俺のは再発行出来る筈だ!






 そして俺は再発行も出来なかった。


「嘘ですよね」


「えっ? クレス・フィールドで登録したはずなんだけど」


「はい、クレス・フィールド様なら一人居ます」


「なら再発行も問題ないだろ、その中から手数料は引いてくれればいいから」


「貴方の何処をどう見たらレジェンド級の冒険者に見えるのですか?」


 えっ?


 確か中級だった気がするんだけど。


 冒険者には初心者、中級者、上級者、マスター、レジェンドという階級がある。


「まてまて、レジェンドって嘘だろ? 魔力で確認とか取れないのか?」


「取れますが、無駄な事はしたくないので検査にもそれなりの経費がかかるのですよ?」


 本人だから!


「あまり調子に乗っているとリリア様に連絡いたしますよ」


 ……リリアだと! 


 俺がリリアにびびったと思ったのかお姉さんは続ける。


「リリア様のお兄さまは世界を救った英雄です。そこに居合わせ皆様からの証言で中級だったクレス様の冒険者ランクがレジェンドへと変わりました」


 なんて事をしてくれたんだ。


「残念ながら私達がみた英雄の姿は鮮明にとは程遠く貴方みたいな輩はたまに現れるのですよ、世界を救って貰った英雄に礼儀という物がないのですか! 貴方は!」


 なんで怒られてんの?


 リリアに連絡されたら困る! 俺の死を乗り越えて成長したリリアに会いたいが俺の事が大好きなリリアの事だ! 俺がいたら女の幸せという奴が逃げてしまうかもしれない。


 いや、もしもリリアの傍に男の気配がしたら、俺はリリアが好きになった男を殺しかねない。


 自制心で止められる気がしない。


 俺の殺気が少し漏れたようだ、お姉さんがビクッと肩を揺らす。


「すいません、嘘です。でもクレス・フィールドというのは本当なので新しく作って貰えませんか? ここに魔法石もあるので換金してください」


「次に英雄様の名を借りて悪いことをしたらリリア様に連絡が行きますからね!」


「もう一人登録したいんですが」


 俺はギルドの前に待たしていたアリアスとフランを連れてお姉さんの所に戻る。


「名前はなんですか?」


「私の名前はフランです」


 フランが名前を言った瞬間にお姉さんは動揺して持っていた魔法石を床に落とす。


「フラン・フィールドです、俺の妹!」


「そ、そうですか、少し取り乱してすいません」




 やはり何かあるなこの国とフランの関係には。



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