嫌な奴
ユウカに戦慄させられた俺は今ものすごい視線の中で立っている。
その中でもぐいぐいと近寄ってくる人物がいた。
「貴方の事を私のお兄ちゃんとか言う人がいるけど、本当の事なの?」
「いや嘘だな、俺に妹は居ない。人の事をあんまり信じない方がいいぞ」
「むっ!」
リリアは俺を睨み付ける。
「別に貴方の事をお兄ちゃんだなんて思ってない、聞いただけだよ!」
リリアは明らかな怒気を見せながら俺から離れていった。
「いいのかい? そんなこと言っても」
「リリアの為だ」
「それを本人が望んでいなくてもかい?」
「あぁ、これは俺の勝手だ。リリアには幸せを手にしてほしい」
「リリアちゃんの幸せは君の隣に居ることだと僕は思うけどね」
ユウカの言葉は俺の心を抉る。
「俺の傍に居れば危険が降りかかる、リリアには危険もなく幸せになって欲しい」
「わがままだね」
「お兄ちゃんだからな!」
俺はトウマ、アリアスと合流して。
フィーリオン剣士学園に先生として入る事になった。
ユウカとの約束だからな。
フィーリオン剣士学園に入ると、ユウカから職員室に案内されて粗方の自己紹介も終わり今。
他の先生達は歓迎ムードとは程遠い邪魔くさい者を見るような目を俺に向けていた。
まぁトウマには歓迎ムードだ。
「ユウカ様と王様の頼みだからアンタを入れるんだから! 遊びが済んだら帰ってもいいわよ」
俺の事を忘れているミントも歓迎ムードではもちろんない。
ユウカはなんで俺をこの学園に入れたいんだよ!
「リリアちゃんの剣聖適性の教員はクレス君にやってもらいます」
ユウカの声に先生達からの否定的な声が響く。
「いくらユウカ様の頼みでも、そんな低ランク冒険者にリリアさんの担当を任せられるはずないですよ」
ミントがユウカに反論する。
「これはもう決まったことです」
ユウカが何かを言う度に俺を睨み付ける先生達。
なんで俺なんだよ!
「剣聖適性ってなんだ?」
俺は話題の中心に居るはずなのにそれを知らない。
「剣聖適性っていう剣聖になるための試験があるんだよ」
ユウカは俺に説明してくれる。
「それで?」
「その剣聖適性でリリアちゃんはメディアル出身だからメディアルの剣聖希望者と戦って、希望者の一位だけがメディアルの剣聖と戦うことが出来るの」
「勝てる為に指導するのが担当の役目と」
「まぁ、そういうことだね」
俺の疑問にユウカは答えてくれる。
全力で拒否したいが……ユウカは俺の弱味を握ってやがる拒否するという選択肢は俺にはなかった。
リリアの担当をどうせならトウマにという声が多数の中、俺とトウマが教えると妥協点を出すと当たり前だろみたいな顔をされたが揉めるよりいいだろう。
話も纏まった次の日。
「嫌です!」
俺はリリアと学園にあるコロシアムで向かい合っていた。
俺はユウカに手抜きなしで取り組めと釘を刺されたので先生としてリリアが剣聖適正に勝てるように指導することにした。
「教員に逆らうのか?」
「むっ!」
最愛の妹に嫌がられるというのは兄の心を抉るのに充分だ。
嫌われる事を覚悟した身ではあるが、辛い。
「魔物襲来で見ただろ、俺の剣技は完全にお前の上位互換だ」
「そうですね」
リリアは手を強く握りしめ悔しがっている。
「それを俺が教えてやるというんだ、感謝しろよ」
「はい」
キッと俺を睨むリリア。
言い過ぎなんだよ! 俺!
「トウマ! まずコイツに魔力コントロールと質の向上、剣技を指導してくれ」
「わかった」
後ろに立っていたトウマが俺と入れ替わるように前に立つ。
俺はコロシアムから出ることにする。
「ちょっと貴方じゃないの? 私の指導は」
「指導するのは俺がいいのか?」
「ち、ど、どうせならトウマさんがいいです」
『そうか、まぁ今お前とやったところで手加減も出来ないからな、せいぜい強くなってくれよ』
「むぅ!」
俺はリリアの怒りの視線に振り返らずにコロシアムから出る。
リリアから見られない場所まで来た俺は両膝、両手を地面につき後悔する。
「なんて事をしてしまったんだ!」
「きゅい」
肩に乗るアリアスは俺を慰めるように声を出す。
「もっと優しくしてあげればいいんだよ」
「見てたのか?」
そんな俺に何処からか現れたユウカが話しかける。
「リリアは俺の事をどう思ってる?」
「尊敬は出来るけど、嫌な奴ってところだね」
「ぐはっ!」
辛い。
「でもクレス君が考えてる通りなら間違ってない判断だけどね、僕の考えてる通りなら完全に間違ってるよ」
「あぁ、わかっている」
「これ以上関わりがないようにしたいんだよね」
「ユウカがそれを邪魔するけどな」
「僕はクレス君の考えを間違っていると思っているからね、邪魔するのは当たり前さ」
俺は壁に手をつき立ち上がる。
精神的にボロボロになりながら俺は寮に帰ることにした。
『そんな辛そうなクレス君を見るのが僕はとっても辛いんだよ』
消え入りそうで泣きそうなユウカの呟きはクレスの耳には届いていなかった。
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