稽古
「アレク様を侮辱したお前は許さない」
「アレク流剣術ね、やってみろよ」
『漆黒の闇よ、形をなし我が手の中へ』
ミミリアの手の中から黒銀のオーラを纏った銀色の剣が現れる。
そして俺を睨み付けるとミミリアが瞬間移動で間合いを詰める。
「おっ! 瞬間移動か。ミリアードの一族は皆んなレアなスキル持ってんな」
「知ったような口を!」
ミミリアが俺の右肩から左側にかけて剣で斬り付ける。
それを俺の模擬剣で弾き返し、無防備になったミミリアの首元に剣を突きつける。
「末裔が弱すぎてアレクが見たら悲しむぞ」
「!!!」
ミミリアの姿が消えて最初にいた場所に現れる。
「次は俺の番だよな」
呪いの影響か? 体が痺れる。重度の筋肉痛を意地で動かしてるような感じだな。
身体への負担が大きすぎる、これは長くはもたない!
呪いは水の抵抗と同じだ。力を出せば出すほど泳ぐ時の抵抗は大きくなっていく。
ミミリアは瞬間移動を駆使してクレスの模擬剣を受け流す。
そしてミミリアは違和感を感じる。
防戦一方のミミリアが瞬間移動で大きく間合いを取る。
「おい何故貴様がアレク流剣術を使っている?」
クレスに疑問を投げ掛ける。
「これは俺の剣術だが?」
「いや、それはアレク様の物だ! 勝手に使うなど恥を知れ!」
俺はその場で立ち止まり、ミリアード王家に一つ貸しを返すことにする。
「一つ誤解を解いとくとな。その剣術は剣の勇者の剣術をアレクが真似して覚えた物なんだよ」
「剣の勇者の剣術だと!」
ミミリアには隠す必要はないよな。俺はミミリアの先祖のミリアード王家にはめちゃくちゃ世話になったし。
「リリアのホーリートレースが何故あれほど完璧なのか疑問に思わなかったのか?」
「た、たしかに今は存在しないはずの剣の勇者を指定した場合は不発に終わるか、発動しても神級魔法を一撃で消滅させるほどの力を出せるはずがない」
俺は模擬剣を地面に刺す。
「そして何故俺がアレクの事を知っているのか」
「そうだ! 私はアリアス様の兄としか言ってはいない、でもだからと言って兄がアレク様だと言うことはこの学園の者はもちろん剣の勇者を知る者は殆ど知っている」
「口でヒントを出しまくっても分からないのか? 答え合わせだ」
俺は何もない空間に手を入れる。
『リミテッド・アビリティー』
その空間から金色のオーラを纏う黒剣を取り出す。
「貴様、それは!」
「何故? 俺がアレクの事を知っていたのか? 何故? リリアが剣の勇者を完璧に再現させたのか? それはな」
ミミリアは驚愕して目を見開いている。
『俺が剣の勇者だからだ』
貸しを返す準備は整った。
「この試合勝つ気満々だったが気が変わった。アレクが憧れた剣の勇者から直々に稽古をつけてやる」
「貴様が剣の勇者だと! そんなの信じやれるか!」
「この黒剣が何よりの証拠だろ」
「くっ!」
「ミミリアは俺の剣術をかじった程度だが筋はいい方だ。剣を合わせた実力だと天才以下だが才能はある。だから俺が今からお前を天才に変えてやるよ」
「わかった、私が強くなるために」
ミミリアは釈然としない気持ちを抑え込み、クレスの言うことを聞く。
「これはリリアにも教えている事だがその剣術の心得としてな、まずは相手の攻撃を見る」
俺はミミリアにも見える速度で上段から剣を振る。
「そして受ける」
ミミリアの懐に飛び込み、同じように剣を振る。
「ぐっ!」
ミミリアは必死にそれを受けている。
「そうだ、そしてそれを受け流す」
剣を横にずらしミミリアは力を全て流す。
「そして最後に見切り、かわす」
またもや上段からの一撃を放つと、ミミリアの目と鼻の先を通過し剣が地面を切る。
ミミリアは随分と呑み込みが早いな。
俺はその動作を順番にミミリアにやらせる。
それからミミリアは数分という短い時間を永遠と感じるほど長く感じた。
それはそうだろう。クレスの剣撃が繰り返す毎に速くなり、重くなっていくのだから。受けるからかわすに至るまで力を抜けない。もし気を緩めるとその些細な一瞬で死の世界に誘われると確信するほどの威圧感がある。
「はぁ、はぁ、これで私が強くなるのか」
「気づいてないのか? 今の状態ならリリアの剣を受けれるはずだ」
クレスはミミリアの懐に飛び込み、横一文字に切りつける。
それをミミリアは咄嗟に剣を滑らせて受け流す。
「貴様なんのつもりだ!」
「数分前の状態なら受ける事も出来なかっただろうな」
ミミリアは咄嗟にあれだけの速度と剣撃を受け流した事に今更ながらに気づいた。
「何故数分前と今なら全然違うのだ」
「ミミリアは切っ掛けがなかっただけだ。天才の領域に片足だけ突っ込んでた状態に過ぎない。それを俺が押し込んだと言ったら理解できるか? それとなリリアの剣術は俺の中でも正統派な剣術を教えた。だがミミリアの剣術は剣の勇者のオリジナルの剣術に近い、人殺し、邪神や魔王殺しの剣術だ。アレクは厄介な物を残したもんだな」
「私が剣の勇者の剣術を!」
「その剣術をかじっただけでも習得するのには相当な努力が必要のはずだ、天才染みた才能もな。俺の剣術をよく知るアレクも特殊能力のモノマネでしか俺の剣術を扱えなかった位だからな」
「クレス、私を強くしてくれた事には礼を言おう、ありがとう」
礼と一緒にミミリアはクレスに微笑んだ。
ミミリアのその笑顔はアリアスに似ていてクレスの胸が少し高鳴ったのは秘密だ。
「やっと名前で呼んでくれたな」
「クレス! 戦いを再開しよう」
クレスは黒剣を放り投げると金の煌めきと共に黒剣は消えていく。
「悪いな、俺はもう動けな……い」
そしてクレスはドサリと地面に倒れた。
目が覚めると。
コロシアムにある医務室のベッドに俺は横たわっていた。
「お兄ちゃん!」
ベッドの横には涙を流し目を腫らした妹様と心配そうに俺を見つめているミミリアの姿があった。
「どうした?」
「お兄ちゃんバトルフィールドで倒れたんだって心配じだよ~」
リリアが俺に抱きついてくる。
俺は抱きついてきたリリアの頭を優しく撫でる。
「涙を拭けよ」
「うん」
リリアが元気なく頷く。
「ところでミミリアはどうしているんだ?」
「べ、別にクレスが心配でついてきた訳じゃないぞ! クレスが倒れた原因が少しでも私にあるのなら、付き添うのは当たり前だ!」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんが倒れたときに、凄く心配してたんだよ」
「リリア! 余計な事を言うな!」
ミミリアの頬が朱に染まり慌てて取り繕う。
「次は試合だろ? 見てるから頑張れよ」
「嫌だ! お兄ちゃんと一緒に居るの!」
リリアは俺に抱きついて離そうとしない。
「リリアが頑張ってる姿が見たかったな~」
リリアの身体がビクッと震える。
「優勝したらお兄ちゃん何でもしちゃうぞ」
顔をガバッと上げて。
「本当だね! 約束だよ!」
「あぁ」
俺は少し気押される。なにをさせるきだ!
「やっくそく~、やっくそく~何して貰おうっかな~」
リリアは優勝する気満々でササッと次の試合に向かう。
「ミミリアもだろ」
「私は剣の勇者に憧れてきた。だから私もクレスの傍にい……『居たい』」
「えっ?」
「な、なんでもない!」
真っ赤になったミミリアもそそくさと医務室から居なくなった。
やっぱり呪いはキツイよな。二割でこれなんだから呪い状態での力加減を誤ると俺は死にそうだな。気を付けるか。
リリアに危機が迫ったら勿論死ぬ気で危機を排除するけどな!
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