第5話 復讐保留



 私は、悪魔の姿を見せながら、金髪の少女の目の前に降り立った。


 ひどい顔をしているのが、よく分かる。


 涙でぐちゃぐちゃだし、絶望で真っ青。貴族の令嬢とは思えない。


 彼女は、私の姿を見て「悪魔? 本物?」と驚いた。


 ありふれた反応だ。

 これは少しつまらない。


 悪魔を見たら、見た瞬間に契約を持ちかけるくらいでないと。


 私は、「さあ、どっちでしょう」と答えた。


 本物が偽物であるかの証明などどうでも良い。


 本題に入るために、さっさと「復讐したい?」かどうかを尋ねた。


 戸惑っていた彼女は、しかし強いまなざしになって答える。


「復讐したいわ。私をこんな風にみじめにした連中を見返してやりたい」


 その願いを聞き届けた私は悪魔を呼んだ。


 しかし、悪魔と契約を進める事を述べると、彼女は躊躇った。


 悪魔になってしまう事を気にしているのだろう。


 彼女にはまだ命がある。


 だから、断罪されて全てを失ったとしても、その残った命を失いたくなかったのだろう。


 彼女は「考えさせて」と言った。


 保留になったようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る