自供
さて、俺が勝った訳だから。
「じゃあ罪人への面会、いいよな?」
十字ブロックした腕をさすりながら。こいつのパンチ、マジでいてーな。まだ痺れてんぞ。
――約束だ。それは当然の事
ぱちん、と指を鳴らしたかと思ったら、そこは灼熱の土地。どこを見ても罪人達が鬼神達にぶっ飛ばされて熱した鉄板の上で鉄串に突き刺されたり、身体を切り刻まれて炎で焼かれている。当たり前にくたばる事が無い罪人は絶叫しながらその責め苦を受け続けている。
――流石は地獄の王、罪人の所在も簡単に知れる、という訳か
虎が感心して出て来る。木下っつう小物だっけ?そいつがどの地獄に堕ちたかも簡単に解ると言う事だな。
「あのバラバラに切り刻まれた奴等はどうなるんだ?あれで折檻終わり?」
――いや、一通り終わったのちに再生する。そして切り刻まれるところからまた始まる。それは串焼きになっている罪人も同様だ
串焼きとは、ケツから口まで鉄串に貫かれて焼かれている奴等の事か?成程、串焼きだな。
――地獄と言う所はそうやって永遠とも思える永い時間、折檻を受け続ける。禊が終わったら漸く転生の準備に入るのだ
「禊が終わる条件は何だよ?」
――定められた刑期が終わる時が禊終了と言う事になるな
刑期100年、焦熱地獄と判決を受けたら、100年はあんなことされんのか……悪い事はしないようにしよう。
――さて、木下だったな。おい、誰か!!!!
怒号が飛んだと思ったら、鎖で雁字搦めにされた30代後半の野郎が涙びしょびしょで他の鬼神に連行されて来た。
――貴様が話があると言うから、一応再生は施しておいた。あの儘では話す事すらできんからな
確かに、バラバラや串焼き、はたまた鉄板焼きになっている最中の奴に何を聞いても絶叫しか返って来ねーし。何なら言葉すら話せねーだろうし。
まあいいや、さっそき仕事に取り掛かろう。
「お前が木下金雄っつー犯罪者だな?今まで行った悪事、全部言え」
――助けてくれ!このままじゃ死んじまう!
鎖で雁字搦めにされた状態で縋って来た。超号泣しながら。
――長い間折檻を受け続けていれば、それは諦めにも似た感情になって、このように縋りつく真似はしなくなるが、こいつはまだ入って間もなくだ。こんな感じで鬱陶しく助けを求めるだけだな
この調子で縋りつかれるのか……それはまた勘弁だな……
「おい、お前は悪い事してここに来たんだ。だから諦めて地獄の法に従え。そして今までの悪事をだな……」
――ならば司法取引だ!白状したら俺をここから出してくれ!!!
馬鹿言うな。お前の罪なんざお見通しなんだよ。白状っつうのは自供が欲しいからであってだな……
――どうした!白状しないとアンタが困るんだろ!?だったら取引に応じると言え!!!
なんで犯罪者に交渉権があると言うのだ。
「えっと、一応聞いとくが、ぶっ飛ばしても問題ないよな?」
――構わん。と言うよりも、鬼神全てがそれを行っている。縋りつくのは何も貴様にだけではないからな
「えっと、ぶっ飛ばしてまたくたばるって事は?」
――貴様は魂をも消滅させる事が可能だったよな?その業を使わなければ再び死ぬ事はない。何なら再生もしてやろう
それなら安心とぶっ飛ばす。野郎の顔が半分飛んだ。
――それでは話す事が出来ないだろうが
虎が呆れてそう言う。いや、案外脆いんだな……意外と手加減した筈だけど……
――問題ない。再生してやると言った筈だ
王牙の言葉通り、ぶっ飛ばした頭部が再生する。じわじわと肉が盛り上がっていくような感じだ。
伴い、言葉が喋られるようになる訳で。と言う事はだ。
――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?
このように絶叫すると言う事になる。まあ、罪人相手に遠慮してやるつもりは更々ないので、追い打ち宜しく打ち下ろす。
首から下がぶっ飛んで、地面にべしゃりと叩きつけられた。
「脆いな……なんでだ?」
――肉体が無いからな。そう見えるのは幻と言うか、思念と言うか
肉が無いから、魂だけだからそうなったって事か?まあ、また再生して貰う。
――いでえええええええええええええええええええええええええ!!!いでえよ!!いでええええええええええええええええええええええ!!!!
転がる木下。それを踏んづけて止めた。
――ぎゃああああああああああああああああああああああ!!?
「大袈裟に痛がるな。お前が殺した奴等はもっと痛かったんだぞ。なんも関係ねーのにお前みたいなクズに殺されたんだ、あいつ等の方がずっと痛い。肉体も、魂もな……」
その儘踏んづけて潰した。顔から下がぴくぴく痙攣していた。
――再生するが、些か効率的じゃないような気がするが?
「うん?どういう事?」
――これを続けても騒ぐだけだと言う事だ。地獄に堕ちたんだ、こいつは悪いと思っちゃいない。痛みから解き放たれたいしか思っちゃいない、今のところはな
「今の所って事は、後々そうじゃなくなると言う事だよな?」
――責め苦を続けられていけば、己の罪を見直す時間も見いだせる。何でこうなった?とな。だが、こいつはさっきも言ったように堕ちてきて間も無く。よって悪いと思う時間はまだないと言う事だな
マジか。だったら自白まで時間かかりまくるんじゃねーか?今更ながらに面倒な事を頼んできやがったな。天パの野郎。
――だが、まあ、貴様の希望通りに事を進めるのならば、それしかあるまい
また再生をする。もりもりと肉が成型される。
途端に絶叫。痛いとかぎゃあとか。こればっかしか聞いてねーんだが、これしか方法がねーんじゃやるしかねーな。
なのでぶっ飛ばす。踏んづける。蹴っ飛ばす。くたばったら(?)再生して、また繰り返す。
――おい北嶋、こいつは貴様と違って時間がある。今の儘じゃジャンプが売り切れてしまうぞ
「またジャンプの心配かよ……」
もうマガジンやサンデーの心配した方がいいんじゃねーの?ジャンプ?知らねーよそんなもん。SQで我慢しとけ。
しかし、時間的猶予はこの糞に分があるんだよな。しかも意図している訳じゃない、痛いから喚くと言う、ただの本能だし。
どうしようかと考えていると――
「苦戦しているようね?らしくないわよ北嶋さん」
んあ?と見上げる。しかし誰もいない。だが、この声は毎日聞いているので間違う筈がない。
――今のは!?
王牙が目ん玉全開に見開いていた。
「え?なんでそんなにビックリしてんだ?」
――ここは焦熱地獄だぞ!?人間の声が届くはずがない!!
いや、届くんだろ?つうか今までの事も視ているだろ、あいつなら。
まあいいや、何の用事か聞いてみよう。
「何だ神崎?何の用事だ?土産買って来いと言うのなら無理だぞ。なんもねーから、ここは。キヨスクすらない」
「あったら驚くでしょ。驚くだけで終われば逆にいいけど」
キヨスクあったらいいなーとは思わんのか?新聞も読めるし、サンドイッチもあるし、煙草もあるし、飲み物だって、弁当だってあるんだぞ。それにご要望の土産もあるんだし、いい事尽くめじゃねーか。
「キヨスクは兎も角、このままじゃいつになっても終わらないって事。明日も仕事があるんだから、早急に終わらせてよ?」
なんて奴だ神崎……休暇を奪ったばかりか、明日の仕事の心配をするのか……まさに真正の鬼だあいつは!!
「とか言われても仕方ねーだろ。こいつ、喚いてばっかなんだし」
「鞭ばっかりじゃねぇ……飴も必要じゃない?」
飴とか言われてもだよ。罪の減刑なんぞ認めねーぞ。俺だけじゃない、冥界も地獄もそうだろ。
「なんなら私も協力してもいいよ?」
神崎が協力ねぇ……あいつの考えがあるんだろうけども……
「じゃあこっちに来い」
「許可は必要でしょ。余所様の仕事場にお邪魔しようってのに…ホント、常識知らないんだから」
肩を竦めて呆れたような姿が見えた。お前いちいちひでーだろ。
だが、まあ、許可があれば来れると言う事か。
「王牙、神崎を呼んでもいいか?」
――え!?地獄に来る、そう言っているのか!?
頷いて追記。
「神崎なら自白させられるそうだ。どうすんのか解んねーけど」
――貴様が迎えに行くのか!?
「自分で来るだろ、あいつなら」
――地獄に自力で、生身で来れる!?
超仰け反った王牙。来れんだろ、多分。俺だって来たんだし。
――王牙よ。神崎ならば許可さえあれば来れる。西洋の地獄に行けるのだ、東洋も然りだろうし、現に北嶋を通じで今までの事を視た筈。状況も知っているだろう。こいつよりも確実に自供が取れると思うが
――本当に来れるのならば許可は出しても良いが、それは不可能「いいそうだ。んじゃ頼むぞ神崎」ええええええええええええええええええええ!?
なんだよそのええええ?は?お前いいよっつたよな?
「幽玄の歩み」
神崎が何か唱えたかと思ったら、ぼやーっと神崎の姿が見えた。
「お初にお目に掛かります、地獄の支配者、王牙様」
超恭しくの辞儀。対して王牙はうわあああああああああああああああああああああああああ!!!?と絶叫して尻もちをついた。
――本当に来た!?
「来てもいいよと言ったじゃねーかよ、お前」
許可があれば来れるっつったし、今更なんだお前は?
「仕事場への来訪の許可。有難く甘えます。感謝いたします」
神崎が一番すげーのは、柱たちが一番感心するのは、礼の美しさだ。当然王牙も感心して唸る。
――そこまで美しい礼をされたのは初めてだな……
尻もちから復活し、立ち上がった王牙。
――聞けば、貴様ならばこの罪人から自白を取れるとの事
「そのために参りました」
――今までの事は視ていたな?それを踏まえて、どう自供させるのか興味深い。是非やって貰おうか
「はい。では……」
くるんと王牙から木下に向かい合う神崎。木下、超ビクンと背筋を伸ばした。
「初めまして木下さん。神崎と言います。よろしくね」
超にっこり笑っての自己紹介。全く敵意も邪気も無い。
――え!?あ、ああ…………
「さて、木下さん。正直言って今までの罪はもう知られているので自供は必要ないんだけど、して貰わなきゃいけなくなってしまったの。協力して戴ける?」
――え!?協力って言っても…司法取引くらいは……なあ?
神崎の敵意の無さ、邪気の無さに余裕が出来たのか、交渉しようとする。神崎も視ていた通りに、こいつへの減刑は全く無いんだが、さて?
「じゃあ木下さんはどこまでが望みなの?」
――そうだな……地獄から解放されれば何でもいい。元の世界に戻ってもいいしな
――そうした場合、貴様は悪霊に……
虎が否と言う前に視線でそれを退ける神崎。虎、察したように口を噤む。
「つまり、地獄からの解放で罪を全部話してくれる。それでいいのね?」
――……あ、いやいや、待て待て、早期の転生。これは必要だ。早いとこ人間に戻りたいしな
要望が増えた。神崎、普通ににっこり微笑んで頷く。
――あとは金か。使えきれない程の金が欲しい
「それは無理ね。お願いできるのは死んで魂だけになった今の現状の事だけ。お金は転生したら自分で稼ぐしかないかな?」
――なんだよ使えねえな?
「ごめんなさい。だけど、地獄からの解放と早期の転生はお願いしてあげられるわ」
――じゃあ、まあ、不満だが、それでいい
「そう?じゃあ、早速で悪いけど、今までの悪事を全部話してくれる?でも、さっきも言ったけど、罪はもう全部知っているから嘘はつかないように。ついた場合、お願いできなくなるから」
――話したらすぐに実行してくれんだよな?
「ええ。だから早く話す事をお勧めするわ。印南さん」
天パに念話が繋がった。メモとペンを持ってスタンバイしている天パの姿が見える。
木下は得意気に今までの悪事をつらつらと述べた。処女を襲った時が一番気持ち良かっただの、火をつけた時、こんなおもしれえ事がこの世にあったのかと思っただの、余計な事まで、べらべらと。
そして体感的には2時間近く。木下は喋る事をやめて息を吐いた。
「……北嶋さん」
「嘘は無い。話洩らしも無い。自供はこれで終わった事になるな」
「印南さん?」
「全部記録した。木下本人しか知り得ない情報も聞けたから、本人確認も容易だろう」
頷く神崎。これでオシマイと言う事だ。
――これでいいよな。じゃあ頼むぜ
「解っているわ」
そう言って王牙に向く。
「木下金雄を現世に戻してください。早期の転生もお願いします」
――却下に決まっているだろうが。そいつは堕ちて間もない、悪い事をしたとの反省も無いと言った筈
また木下の方を向く。
「お願いしたけど、希望を叶える事は無理なようよ。諦めて服役するしかないわね」
――は!?何言ってやがる!?お前約束したじゃねえか!!!
まさに食って掛かる木下だが――
「約束は果たした筈だけど。ちゃんとお願いしたじゃない?地獄からの解放と早期の転生。却下されたのはしょうがないけど、私は全く違えていないよね?」
――な!?騙したのかテメェ!!
胸倉をつかむ勢いだったが、鎖で拘束されているので儘ならず、途中で他の鬼神にべしゃっと潰された。
「約束は果たしたのに、騙したと言われるの?これは名誉棄損も新しく罪になるよね。王牙様、罪の加算はこの場で可能ですか?」
一瞬面食らった王牙だが、大きく破顔して頷いた。
――この女は騙してはいない。貴様の要望通り、願いはした。救い出すとは一言も言っていないな。それに対しての詐欺と罵った行為。名誉棄損も新に追加しよう
――そ、そんな!?ちょっとま
それ以上言葉が言えなかった。俺がぶっ飛ばして首から上がすっ飛んで行ったからだ。
――ではその者の責め苦を再開しろ
鬼神はうなずいて木下を引きずって行った。言葉を発せられないから何も聞こえないが、ずるずると引き摺られてんだから、痛いとかは言っていただろう。
――……飴、とはただの言葉か?
王牙が咎めるような目を向ける。
「嘘は言っていません。お願いするとは言いましたが」
その通り。勝手に希望を見出したのはあの糞で、神崎はちゃんとお願いしたんだから文句は言われる筈がない。
――北嶋 勇も然る事ながら、その伴侶もなかなか……いや、それ以上!あの男程度ではまだまだ貴様等には遠過ぎるな!!
がはははは、と、豪快に笑って。あの男ってのは葛西か?遠いってのは全く以てその通りなので、否定はできない。
「これで仕事は終わったな。王牙、忙しい中悪かった。助かったよ」
――良い良い!俺も久しぶりに面白い物を見た!
「んじゃ帰るか」
――貴様は冥界に戻って裁判官達に事の顛末を伝えなければいかんだろうが。それが条件だった筈
そういやそうだったぜ……こんな面倒な事、なんで了承しちゃったんだろう!?
「な、何なら虎、お前が……」
――貴様の仕事を俺に擦り付けるのは戴けん
「お、王牙が……」
――冥界と地獄は違うと言った筈だが
ちくしょう!どうあっても説明しに戻らなきゃいけないのか!!
「私も一緒に行ってあげるからさ」
「お前は冥界を見たいだけだろが」
お前の趣味に付き合うことになるだろそうなったら!!だったらお前一人で行けよ!!
――神崎も向かうと言うのならば、俺も行かねばならんな
「お願いしますね、地の王」
――なんならば、俺も付き合ってもいい。今の事は当事者でなくば驚きはそう伝わらんと思うしな
「まあ!王牙様がそう仰ってくれるなんて!お言葉に甘えます!」
そ、そうなの?だったら俺は行かなくてもいいいんじゃ……
「そう言う事だから、北嶋さん、早速向かいましょう」
「いやだからな?お前だけでもいいような感じだよな?」
「向かいましょうと言った筈だけど?」
「だから、お前だけでもいいだろっつってんだよ。虎と王牙も同行するっつってんだし!」
「え?向かいましょうと言ったのが聞こえないの?じゃあもう一度言うから良ーく聞いてね。冥界に向かいましょう。解った?」
「お前だけでもいいだろっつってんだぎゃあああああああああああああああああ!!!?」
鼻に超衝撃が走った。神崎の右グーだ。当然ながら、鼻血を噴水のように吹き上がらせてぶっ倒れる俺!
「向かいましょう?」
「……………はい………」
これはまさしくDVだよな!?無理やりうんと言わせてんだから!証人も虎と王牙がいるんだぞ!訴えたら間違いなく勝つレベルだ!!
――噂に聞いてはいたが……本当にあの北嶋 勇をぶん殴るのか……
「え?これは躾ですよ?殴っているつもりはありませんが?」
――そ、そうなのか……
そうじゃねーよ!DVだろ!もっと言えば夫虐待だよ!なんで慄いてんだ、ちゃんと記録して罪に問えよな!!
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