追放された元暗殺者の皇子、安眠ライフの為に【究極のアサシンスキル】で無双していたら、いつの間にか敵国で成り上がっていたようで( ˘ω˘ ) スヤァ…

友理 潤

第1章 追放された元暗殺者の皇子が世界一安全な場所で安眠をむさぼるまで

第1話 世界一安全な場所で寝たい

 

 この世界のほとんどはクソみたいなもんだ。

 金がすべてを解決し、貧困はすべてを狂わせる。

 他人に良く思われようと虚飾の仮面を必死にかぶり、私欲のためなら昨日までの友を背中から刺し殺す――。


 だがそんなクソったれな世界にあって、安眠あんみんこそ神が人間に与えし最大の幸福だと俺は信じている。


 寝ている間だけは苦しいことから解放されるし、運が良ければ喜びに満ちた夢を見ることだってできるかもしれない。

 しかし俺が寝る事を愛してやまない理由は、目を覚ました瞬間にある。

 例え今日が吐いて捨てたくなるような最悪の一日になることが分かっていても、その瞬間だけは、未来にほんの少しだけ希望を感じることができるからだ――。




『教会で暮らす少年が連続で失踪した。いずれもロッソ噴水広場で連れ去られた模様。警備兵は二人一組になって付近を巡回すること 警備兵長』


 ここはアッサム王国の王都。

 石畳の大広場に立てられた巨大な掲示板には、様々なお知らせが張られている。


『シャルロット王女の執事を募集中!』


 黒髪の上からフードを目深にかぶった23歳のやせ形の青年――俺、クロード・レッドフォックスは、上質な羊皮紙を見て、にやりと口角を上げた。


「これだな!」


 本音を言えば、女の世話などまっぴらごめんだ。

 だがこれこそ運命だと、歓喜したには訳がある。


 世界の覇者とうたわれたグリフィン帝国。

 皇帝ハイドリヒのめかけの子として俺は生まれた。

 だがそれでも皇子おうじであることは間違いない。物心つくまでは母さんと共に何不自由なく過ごし、父や第一皇子で、5つ年上の兄フェリックスとも仲が良かったんだ。


「ねえ、父さん! 聞いて! クロードはとっても耳がいいんだ! 遠くの音やひそひそ声まで聴きとれちゃうんだよ!」

「ははは! そうか、そうか! ではお前が王様になってからも、クロードをそばに置くといい」

「うん!」

「よしよし、二人とも。このグリフィン帝国のために、頑張るのだぞ」

「「はい!」」


 だがそれも俺が11歳になるまでだった。母さんが原因不明の病気で帰らぬ人となると、俺の立場は急変した。

 一切無駄のない、鋭いカミソリのような顔つきのフェリックスから、冷たい口調でこう告げられた。


「たった今、お前も死んだことにする」

「えっ?」

「これからは僕の『かげ』となって働くのだ」

「兄さん。どういうこと?」

「僕はお前の兄ではない。もっと言えば、お前は生まれた時からこの世に存在していなかったんだよ。仲の良いふり・・をするのも、昨日までだ」

「そんな……」

けがらわしいお前の母が死んだからには、お前にはこれまでの分までしっかり働いてもらう」

「兄さん。いったい俺に何をさせるつもりなんだ?」

「殺しだよ。父上や僕の邪魔をする人間をお前が殺すんだ」

「嫌だ! そんなの嘘だ!!」

「嘘? あははは! 笑わせるな。これが現実だよ。お前は命が尽きるまで、僕の命令だけに従う人形なんだ。分かったな? あははは!」


 こうして俺は豪勢な屋敷から、鉄格子に囲まれた薄汚い部屋に移された。

 待っていたのは地獄のような訓練の日々だった。


「貴様!! 何度言えば分かるんだ!? もし今、敵が忍び込んできたら、貴様だけではなく、仲間も全員死ぬんだぞ!」

「で、でもまだ横になってから3時間もたってないし……」

「言い訳するな!! 貴様の睡眠時間は1日1時間だ!」


 そうして13歳になる頃には、過酷な生活にも慣れ、心なんてすっかり失くした。

 冷酷な独裁者である父と、気に食わない相手には容赦のない兄。

 二人には敵が多くてね。

 彼らへの対処が俺の役目。

 侵入、強盗、殺人、放火……。

 あらゆる悪事を押しつけられた。

 しかしどんなに任務をこなそうとも、誰も俺のことなんて認めてくれなかった。

 心身ともにすり減る日々。気づけば10年以上もたっていた。

 そしてちょうど1年前の春。

 ついに俺は、敵を仕留しとそこねるという失敗をおかしてしまった。

 監獄かんごく拷問ごうもんを受けた後、フェリックスは俺に告げた。


「おまえはクビだ。今すぐ出て行け。父さんもなげいておられていたよ。期待外れだったとな。命だけはくれてやる。ただしここを出た瞬間から敵とみなすからね。運が良ければ、また会えるかもしれない。その時を楽しみにしているよ」


 こうして俺は帝国を追い出された。そのうえ、俺を亡き者にしようとせまってくる始末……。


 生まれた時から、父と兄の操り人形であることが宿命だったのだ。

 彼らに失望され、帝国を追い出された今、たとえ命を失っても悔いはない――。

 

 ……なーんて、思う訳がない。


 いきさつな何であれ、俺はクソ兄貴から解放されたんだ。

 運が良ければまた会えるかもしれないだぁ?

 ははは!

 笑わせるな!

 次会った時はてめえの首をき切ってやるから覚悟しとけってんだ。

 だがいつまでもあんなクソにかまってたら人生がもったいない。

 これからは俺の意志で生きるんだ!

 そう決意すると、自然と目標は決まった。


 世の中でもっとも安全な場所で、安眠あんみんをむさぼりたい――。


 帝国と同じくらい大きな国と言えば、帝国の敵国、アッサム王国だ。

 なかでも王宮は警備が厳重で、俺をつけ狙うチンピラどもがおいそれと侵入することなどできるはずもない。

 つい最近も俺の同僚……グリフィン帝国の暗殺者が50人で王宮を襲撃したが、とある女がたった一人で皆殺みなごろしにしたと風の噂で聞いた。

 そんな化け物がいるのだから、安全なのは間違いないと言えよう。


(しかしどうしたら王宮で暮らせるのか……)


 頭を悩ましていた、まさにその時、『シャルロット王女の執事を募集中!』の張り紙を見つけたのである。

 大国の皇子として、敵国の王女に仕えるのはいかがなものかと思われるかもしれないが、今の俺には常識などどうでもいい。

 

 俺はとにかく寝たいんだ。


 だが王女の執事へ応募するにあたって問題がひとつあった。

 それは身分だ。

 まさか、


 ――アッサム王国の敵国で暗殺者として働いてました。


 とするわけにはいかない。

 となれば、偽の身分証を作る必要がある。

 そのためには本物の身分証を手に入れてから、特殊な魔法を使って名前と生年月日の部分を書き換えねばならない。


(仕方ない。これも俺の人生のため。誰かから奪うしかなさそうだ)


 しかしいくら何百人とこの手であやめてきた俺と言えども、そこそこ良心というものは存在する。

 罪のない人間には手荒な真似はしたくない。

 

(むっ? そう言えば……)

 

『教会で暮らす少年が連続で失踪した。いずれもロッソ噴水広場で連れ去られた模様……』


(やはり今日の俺はツイてるな)


 とある考えが浮かび、ロッソ噴水広場へ向かった。

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