森のカブト虫

如月姫蝶

第1話

 それは、遥かな昔のことである。

 神の末裔だとされる一国の王が、人として臨終の床に伏せっていた。

 そしてその傍らに、若き大臣が跪いたのである。

「王よ、貴方様より託されし、麦の品種改良は、この私が必ずや成し遂げてご覧にいれます。いつか貴方様がお目覚めになる未来世界では、幾億万の麦穂が、忠実なる臣民のごとく、貴方様に豊かな実りを捧げることでしょう」

 

「大樹の島」と呼ばれる小島がある。

 曙光都市エルジオンや、マクミナル博物館が存在するニルヴァなどと同様、天空に浮かぶ島である。

 その名の通り、島に上陸しては全貌をうかがうことなどとてもできないほどに巨大な樹木が、天高くそびえるように生い茂っているのだ。

 エルジオンなどのように人工的に建設されたプレートとは異なり、まるで、大樹自身の意志で、その根で掴み取れるだけの一握の大地のかけらを取りまとめて、有毒物質に汚染された地上から天空へと逃れたかのような姿だった。

 島の外から、例えばマクミナル博物館の上階の窓などから見たならば、生い茂った大樹の全体像や、そこには常にいくつもの虹がかかっているということがわかるだろう。その虹の橋を渡ってみたくもなる神秘的な景観である。

 今、人知れず、そんな大樹の幹に、一匹のカブト虫が身を寄せていた。すらりと伸びた一角を持つオスであり、黒い体表には、まるで周囲の虹を映したかのような、美しい七色の光沢を帯びている。

『我が王よ……今こそ、お約束の麦を……』

 それは、七色のカブト虫が発した思念だった。

 そして、積年の思いを乗せた翅を広げて、そのカブト虫は、ついに大樹の幹から飛び立ったのである。


 AD1100年、某日——

 アルドは、ひたと歩みを止めた。その眼前には、途方も無い熱と圧をはらんだ陽炎が立ち昇っている。

 ここは、マクミナル博物館の前庭である。

 広大かつ重厚な石造りの博物館が、料理用の石窯よろしく、あちあちに赤熱してしまいそうだ……

 そんな心配をしてしまうほど、入館を待ちわびる人々が、建物の前に群れ集まって熱気だの無言の圧だのを発散しているのだ。そしてその多くが、とある特徴的なコスプレを決めていた。

「……世界一うまい樹液になら、このくらいうじゃうじゃと集まるかな?いや、無理か……」

 アルドは、そう口に出してしまった。内心の呟きに留めておいても良かったろうに。

「なんの話だ?」

 本日の連れが、間髪入れずに反応した。嫌に低い声である。

「カブト虫だよ。月影の森にもいるんだけどさ……」

 子供のころは虫捕りに興じたものだと、アルドは懐かしむ。

「また言うか!そもそも私はカブト虫などではないと、あれほど飽きるほどにとくとくと説明をだなあっっ」

 本日は一名だけである連れの声が、いささかヒステリックに高まった。

 アルドはしかし、めげることなく、邪気の無い笑みを浮かべ直した。

「そうは言ってもさ、ヴァレス、今日は待ちに待った『カブト虫戦士祭り』なんだから!」

 連れであるヴァレスは、歯軋りをして、トゲトゲしい金色の巨体を軋ませもした。その頭頂部には、カブト虫以外にいったい何を連想しろというのだろう……という立派な一角が屹立している。

 マクミナル博物館は数多くの展示物を誇っているが、中でも「カブト虫戦士の像」は絶大な人気を博している。元をただせば魔獣ヴァレスの戦闘形態である、その姿に扮したレイヤーたちこそが、イベント当日である本日ここに集結しているのだった。


「われら魔獣が滅びたとされる未来世界でも、おまえたち人間は、しぶとくそれなりに繁栄しているのだろう?叶うものなら、そこまでのしぶとさの秘密を知りたいものだな」

 それは、いつだったか——未来世界を基準にすれば、800年ばかり昔の中世のある日ということになるのだが——魔獣の村であるコニウムで、ヴァレスはアルドに言ったのだ。

 魔獣の子供たちが鬼ごっこに興じて、笑い声のつむじ風を巻き起こしていた。

 そのときのヴァレスは、戦闘形態を解除して亜人の青年の姿をしており、青い肌や、眼鏡越しに子供たちを見遣る瞳が、どこか寂しげであるようにアルドには思えたのだ。

 ヴァレスをマクミナル博物館へと連れて行ってやりたい……

 アルドは考えた。まさに未来世界に威容を誇る、かの博物館には、人類の英知も愚行も記録されている。ヴァレスはなかなかに頭が切れるから、そうした蔵書や展示物に触れれば、何かしら得られるものがあるに違い無い。

 そしてアルドは、博物館を運営しているマクミナル一族に伝手もある。しかし、「あの」ヴァレスを、未来世界の異種族に不慣れな衆目に晒したら……

 そうした悩みを吹き飛ばしてくれたのは、AD1100年の曙光都市エルジオンに居を構える、マクミナル一族の考古学マニアからもたらされた情報だった。なんでも、大人気の「カブト虫戦士の像」を目玉とするイベントが開催されるというのだ。そしてそこに参加できるのは、カブト虫戦士の扮装をした者と、その同行者一名に限定されるというではないか!

「これだあっ!」

 アルドは、自宅の二階で、ベッドの上で、ぼふんぼふんと踊りだした。居合わせたフィーネが、両手を腰に当てて、何か小言を口にしたようだったが……

「まわりがカブト虫だらけなら、ヴァレスも目立たずにすむじゃないか!ほら、『カブト虫を隠すなら森の中』ってよく言うだろう?」

 もちろん、ヴァレスには、普段の亜人の姿ではなく、戦闘形態をとってもらわなければならないだろう。

 しかしながら、アルドの育ての親である村長までが、いつの間にやら、フィーネの小言に加勢していた。なんでも、アルドが引用した言い回しに誤りがあるらしかったが……

 アルドは、このときもめげることなく、邪気の無い笑みを浮かべ直すと、一路コニウムへと急いだのだった。


 博物館への入館開始が告知され、ついにカブト虫戦士たちの行進が始まった。始まりはしたのだが、その歩みはなかなかに遅く途切れがちである。

 マクミナル博物館は、過去に不逞の輩に狙われたこともある。おそらく入館時のチェックが、率直に言って面倒臭いものとなっているのだろう。

「ときにアルド、行列に並ぶというのは、人間の生き様の一環なのだと聞き及んだが……」

 ヴァレスは言った。落ち着いた口調だった。

 彼ら二人は、まだ行列の後方にいる。戦闘形態のヴァレスが、おとなしく人間の流儀に合わせてくれているのはありがたい。

 そして、せっかくの質問だ。アルドは真摯に腕組みした。

「そうだな、人気の店だの物産展だのに、並んででも入りたいってのは、わりとよくあるかな」

「ほほう、短命種が貴重な時間を割いてでも、何かを得るべく並びに並ぶのだな。ならば人間は、カブト虫よりも矮小な蟻のようではないか!」

 今は獣のように裂けた口をしているヴァレスが、それを不吉な三日月のように歪めた。にかりと笑ったのである。

 アルドは、ぽかんと大口を開けて、おたおたと両手を泳がせた。

 今わかった!ヴァレスは「カブト虫」を相当根に持っている!仮にこれが人間と敵対していた当時であれば、嫌味の一刺しどころか必殺の一撃がぶっ放されたことだろう……

「えと……あの……」

 黒髪の勇者がろくに返事を紡げずにいるうちに、ふと、爛々と輝くヴァレスの赤眼は、標的をアルドから切り替えた。

「何か御用ですかな?この私に」

 あっさりと口調まで切り替えて、背後をとられた状態から、振り向きざまに尋ねたのだ。

「ひっ!……からの、ぽっ♡」

 そこにいた色違いのヴァレスが……そういう着ぐるみが、熱ましい裏声をあげて両手を頬に当てた。

「やっぱりイイお声ね!映画で『魔獣大将軍』役だった声優サンも、渋くて素敵なお芝居してたけどお、アナタはまさに智将の風格!こんなの聞き惚れずにいられないじゃな〜〜い!」

 たまたま本物のヴァレスのすぐ後ろに並んでいたレイヤーが、思わずにじり寄り、前のめりになったところを見咎められたらしい。

 ヴァレスの戦闘形態は、ミグランス王朝時代の人々の感性にも大いに突き刺さったらしく、これでもかこれでもかと数多くの絵姿が描き残されている。一方で、彼の名は未来世界には伝わっていないようなのだ。

 人間と魔獣の決戦を題材にした「バトル・オブ・ミグランス」という映画にも、ヴァレスに相当するキャラクターは登場して目立ちまくるのだが、劇中ではもっぱら「魔獣大将軍」と呼ばれていた。

「ああ、あの映画をご覧になったのですね。とはいえ、あなた自身は『彫像派』でいらっしゃるようですが」

 ヴァレスは、小首を傾げて、さらりと返した。戦闘形態でありながら、亜人の青年がクイッと眼鏡を持ち上げるさまが透けて見えるようだと、アルドは思った。

 映画に登場する魔獣大将軍は、未来まで伝わる絵姿を踏まえて、眩い金色の姿をしている。一方で、博物館に展示されている「カブト虫戦士の像」は、概ね白く、ところどころに赤があしらわれているのだ。

 よって、カブト虫戦士——断じてヴァレス本人が許諾した呼称ではない——に扮するファンたちも、金の「映画派」と白の「彫像派」に大別される。それは、アルドが入手した資料により、ヴァレスもしっかりと予習済みであった。

 本家本元は、人間たちにまぎれて映画派を装わねばならないのだ。

「ええ、実はアタシってば、もういい年したおじさんなのよねえ」

 おじさん宣言をした白い着ぐるみは、手で頭の一角を、ぽんぽんと叩いた。

「若いコのように、一途に勝利を追い求めるよりも、敗者の美学をこそ噛み締めるお年頃になっちゃったってことよお。燃え尽きて真っ白な灰になる五秒前と言わんばかりのこの色彩美!まさに噛めば噛むほどジューシーにしてビューティホーって感じい?

 魔獣も恐竜も、敢えなく滅び去っちゃったからこそ、人間にロマンを与えてくれる存在へと昇華したんでしょうねえ!」

 おじさんの弁舌は、燃え尽きるどころか燃え盛るばかりだが、もしや、ヴァレスの中にある人間へのわだかまりを焚きつけてしまったのでは……

 アルドが何か言わなければと思ったとき、まさに今ここに生きている魔獣は、僅かに右手をわななかせて……人差し指を立てて見せた。

「こういうのはどうです?魔獣王も魔獣大将軍も、実は九死に一生を得ていた。以来、秘かに再起を期して、人間と共存する道を模索している……というのは」

「それって、ド直球のファンフィクションみたいな展開じゃな〜い!?ま、映画の続編も作れちゃいそうだけどお」

「そうですか。私は心から欲しているのですよ、魔獣の物語の幸福な続編をね」

 おじさんは、軽やかに笑い声をたてる。真実を知るよしもないのだから、ヴァレスの本心を察することなどできるはずもない。

「続編希望!?ああ、わっかるわ〜!その、映画派の極みみたいな力作の着ぐるみを見ればねえ。まさに生きてるような質感じゃな〜い。

 はっ、もしやアナタってば優勝候補の!?」

 おじさんは、どこかに身に着けているはずだと、ヴァレスのエントリーナンバーを捜したようだ。敗者の美学おじさん自身は、B-023と記された襷を着用しているのだ。

 今回のイベントは、そもそもカブト虫戦士を題材にしたコスプレのコンテストであり、優勝者には豪華絢爛な賞品の数々が約束されている。応募者が殺到したことから、まずはオンラインで予選が行われて、今日ここに集まる人数には制限がかけられた。もはやある種の名物として認知されつつある、マクミナル博物館の特殊な警備システムと折り合いをつけるためである。

 そして、予選を一位で通過したのは、映画派のレイヤーだったのだ。

 ヴァレスは、獣面であってもどこか優雅ささえ感じさせる笑みを浮かべて見せた。そして、口元にそっと人差し指を添える。

「ここだけの話ですが、実は私は、マクミナル一族の縁者なのですよ。ですからコンテストには参加しておらず、本日もいわばお忍びで見物に来た、というわけです。

 なあ、アルド」

 話を振られて、アルドははたと思い出した。そうだ、そういう設定だった!ヴァレスは、敗者の美学おじさんに話しかけた辺りから、いかにもそれらしい口調で通していたというのに!

「そ、そうだったな……いや、さようでございます、ヴァレス……坊っちゃま」

 富豪の令息に仕える執事にしては、しどろもどろに過ぎる物言いとなってしまった。

 元祖カブト虫戦士ではあっても、未来の人間社会については正直疎いヴァレスである。コンテストに参加していないのも事実であり、何かの拍子に言動を怪しまれるようなことがあるかもしれない。そこで、いっそのことマクミナル財団の関係者だということにして、いささか世間知らずのお坊ちゃんなのだと押し通すことになったのだ。

 それは実は、ギルドナの発案だった。

 アルドの協力を得て未来世界の視察に赴きたいという話を、ヴァレスが、主君と仰ぐギルドナに通さないはずがない。

 コニウムの民家の一室で、鷹揚に首肯した後、ギルドナは、面白そうに含み笑いを漏らしたのだ。

「アルド、魔獣と人間の共存を願ってくれて嬉しく思うぞ。

 ところで、両種族の共存が実現した暁には、人間が魔獣を雇い、あるいは魔獣が人間を雇うといったことも、至極当たり前に行われるだろうとは思わんか?」

「それはそうかもしれないな」

 アルドは、生真面目に頷いた。

「ならば、まずはおまえがヴァレスの忠実な執事を務めるのだ。あらかじめ礼は言っておく」

 そう言われた辺りから、アルドは仰天して抵抗したはずなのだ。

 決してヴァレスに仕えるふりをすることが気に入らないわけではない。ただただ、アルドの演技力は、控えめに言って壊滅的なのだ!

「アルドよ、おまえはあくまで勇者であって、王者ではなかろう。勇者を導くのは王者の役割だ」

 どれだけ言い返しても畳みかけられて、ついにアルドは押し切られてしまった。城の玉座にふんぞり返ってなどおらずとも、訳あって若返った姿であっても、ギルドナは、確かにアルドにはない王者の風格に満ち溢れていた……

「あらま!……なあるほどねえ……マクミナル財団は、あの映画にもどど〜んと出資しちゃったから。その関係者が優勝なんぞしちゃったら、失礼だけれど、イベントが盛り上がりに欠けるようなことになっちゃうかもしれないわよねえ」

 納得しきりの敗者の美学おじさんの声で、アルドは我に返った。

「アナタがライバルじゃあないってわかって、ほっとしたわ〜。それにしても、ホント表情豊かな着ぐるみよねえ。もしかしてえ、光学迷彩の技術でも応用しちゃったりしてらっしゃるのお?」

 ヴァレスは、改めて人差し指を口元に当てた。今までで一番ひどく震える人差し指だった。

「……それは秘密です」

 そして、敗者の美学おじさんが、同行者として連れて来たのであろうドローンの調整を始めた隙に、アルドの首を捻じ切らんばかりの勢いで、ヴァレスはその耳元に口を寄せた。

「『こうがくめいさい』とはなんだ?可及的速やかに説明しろ、アルド!」

「ぐえ……えと、坊っちゃま……どこかで聞いたことはあります……デス!Deathから死んでしまいます、デスッ、No、ノ〜、ノデ〜〜……ぐふっ……」

 確か、未来世界で出会った仲間の口から聞いたことのある言葉だ……

 しかし、ヴァレスが嘆息して手を放すころには、アルドの両眼はぐるぐると渦を巻いていた。

 後にアルドは、「煉獄界の花がとっても綺麗だったよ」と語ったのである。


 そのころ、博物館に程近いホテルで「ああ」と目を輝かせる少女がいた。

 東方風の華やかな装いで、ラウンジに着席していた彼女の前に、ついにお目当ての芳しい一皿が置かれたのだ。

「我が愛しのシュプリーム・タルトよ!こんなにも色鮮やかでたっぷりのフルーツを、旅人を二度寝へと誘う高級羽毛布団のごとく受け止めるこの生地!もう、罪作りにサックサクなんだから〜」

 テンションの高い声が、ラウンジにわんわんとこだまする。

 彼女は既に常連客であり、独特の美辞麗句も褒め言葉でしかない。加えて、フォークを扱うそのさまが、どこか凄腕の槍使いを彷彿とさせるせいもあってか、幸せの絶頂に咲く花のような笑顔で食す少女に、文句をつける者などいなかった。

 給仕を担当する女性スタッフも、笑顔のお裾分けにあずかったようににこやかである。

「いつもありがとうございます、お客様。ところで本日は、博物館のイベントに向かわれたはずでは?以前、映画にお出になったときの監督さんとご一緒に」

「あ〜〜」

 少女は、脚を組んで椅子の背にもたれかかる。タルトの皿は、既に空である。

「おのれ、悪の秘密結社マクミナル財団め!わたくしはうっかり罠にかかったけれども、全身全霊で食い破って生還したんですのよ〜〜っっ」

「はい!?」

 いくら顔なじみのスタッフでも、思春期満開の物言いには理解が追いつかないこともある。

 少女は確かに、コスプレを決めた映画監督に同行して、早々に博物館へと乗り込んだのだ。ただし、彼女のお目当ては、館内の喫茶室の新メニューである「ミグランス・パフェ」だった。

 ところが、パフェと銘打ったそれは、大半が精緻な飴細工によって構成されており、美しいガラス容器と併せて、中世ミグランス城の外観を再現することにのみこだわった一品だったのである。

「あれならいっそ、トト・ドリームランドに突っ立ってる、レプリカのミグランス城によじ登ってえ、てっぺんからガジガジと完食したほうがマシに決まってますわ〜〜。

 ふえぇぇぇ……ぱぶふぇぇぇ……」

 絶妙のタイミングで空き皿が片付けられたテーブルに、少女は突っ伏してべそをかく。

 給仕係は、さすがに顔を引き攣らせた。

 いったい、どんだけ不味かったんだよ、新作パフェ。

 見目麗しいし写真映えもする、そんな菓子に限って、肝心の味だけは期待値を大幅に下回る、というのはままあることだろうが……

「もし優勝したらぁ、賞品の『ミグランス・パフェ一年分』はわたくしにくれるって監督さんが言うからぁ、勇気りんりんついてったのにぃ……」

「……甘言に惑わされてしまわれたのですね」

「へ!?……あなた、うまいこと言うわね」

 少女は、がばりと身を起こした。涙は通り雨のごとく、すっかりすっきりと過ぎ去ったようである。

「甘い物が好きだからって、甘く見ちゃあいけないのよ!

 口直ししたおかげで、元気が出ましたわ。あんまり監督さんを待たせて心配させちゃあいけないし!」

 少女は、また花咲くように笑うと、小刻みに手を振ってから、博物館めがけて駆け出した。

 その役名は「蝶火女」——B級とはいえアクション映画に主演したのも頷ける疾走ぶりだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る