第1話 出逢いは突然に。

「あー…、暇です。」


「お部屋も狭いし…お腹が空いた。」僕は生後6ヵ月になる犬。らしい…。

犬種はチワワ。他はどんどん買われていくのに、何故か僕だけ誰も買ってくれない。


愛想を振り撒いて「キャンキャン」と泣いてみても、みんな僕を見て可愛いと、言ってくれない。


「…あ、隣の子、いなくなっちゃった…。」


しかし、人間っていうの!?おっきいなぁ~。みんな、何て話してるんだろう?簡単な言葉なら分かるけど難しい人間の言葉は理解できない。でも、笑ってるから、きっと楽しい話をしてるんだろうなぁ。

…僕も、人間になりたかったです…。


そう思いながら、部屋にあったボロボロのヌイグルミを加えながら頭をフリフリしていると、1人の女の人が僕の顔をじーっと見ているのに気が付いた。


「キャン!キャンキャン!!」僕はその女の人に精一杯の愛想を振り撒いた。すると、何やら店員さんとその人は僕を見ながらずっと話をしていて…僕のケージが開かれた。


「可愛いっ!!」その女の人は、僕を抱き抱えながらそう言った。僕は最大限の愛嬌を示す為に、女の人の手をペロペロと舐めてみる。「ふふっ(笑)くすぐったい!!決めたっ!!この子、家族にしたいです!!」


んーと…、何て言ったのかな!?笑ってるから、僕にとっていい話してるのかな!?


「この子はオスで、ロングコートのトワイカラーでドワーフタイプになります。」


店員さんは、女の人に何やら難しい話をしている様だった。

言葉が早すぎて、よく聞き取れない。


でも、その後すぐに女の人は僕に向かってこう言った。

「今日からあたしが君のママだよ!!」

君って…僕!?

もしかして、僕のママしゃんになってくれるのかなぁ!?


こうして、僕はその日の家にママしゃんの家へと連れてって貰った。名前は「キッド」。よく分かんないけど、ママさんの好きな有名人から取った名前らしい。

愛称「キッちゃん。」僕は広々とした家の中で、大いに走り回る。それをママしゃんが嬉しそうに追い掛けて来てくれる。


ママしゃんは優しい。

初めての散歩の日。怖かった僕は中々歩けなかった。するとママしゃんは僕を抱き抱え、沢山の言葉を教えてくれた。

「暖かいね」「おりこうだね」「キッちゃん大好きだよ」

何度も何度も。僕の頭にキスをしてくれた。

家に帰れば僕の毛を綺麗に整えてくれ、「待て」という言葉にじっと待っていればおやつもくれた。


大好きな大好きなママしゃん。

それなのに、ママしゃんは夜になるといつもいつも泣いている。僕はケージの中で見ている事しか出来ない。


ママしゃんは外から帰って来た男の人にいつも大きな声で怒られていた。理由は僕には分からない。

毎回ママしゃんの口から出る「ごめんなさい」の言葉。

聞き慣れてしまった「このクズ女」と「いいから座れ」という男の人の怒鳴り声。


ママしゃんが椅子に座ると、男の人はいつもママしゃんを叩いた。僕は「辞めろ!」と吠える。でも、男の人は僕の声なんか聞いていないふり。


何度も叩かれ、男の人がいなくなるとママしゃんは僕のケージを開けて泣きながら僕を抱き締めた。


「こんな場面見せてごめんね、キッちゃん…」


ママしゃん。これからは僕がママしゃんを守るよ。

もっともっと大きな声で吠えて、ケージを噛みちぎって男の人の足をおもいっきり噛んであげる。

だからお願い。

そんなに泣かないで…


これが、僕の「恋」と思わせる始まりだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る