030話 そんなことだろうと思った
「それ読めるの?」
「いや、謎言語だ。全くもって理解不能だな」
適当に引っ張り出してきたアキカゼが、パラパラ本を捲って言う。
「そっかー。何か面白いこと書いてあるかと思ったんだけど」
「いや、もしこれを読む手段があれば、その面白いことも可能だろう。見たことがない文字というだけで、文章自体はしっかりと書き込まれている」
そう言ってアキカゼが見せてくれた本の中身には、確かに何とも言えない文字が沢山並んでいた。何語なんだろう。
やっぱり異世界語なのかな? 独自言語作るぐらいこのゲームの制作者ならわけなくやりそうな気がする。
「仕方ない。先にアニマを確認しよう」
「おっけー! 何か面白いのあったら教えて!」
「わかった」
何かあるかなー?
ふむふむ。
基礎アニマいくつか追加。武術系が多いなぁ。
武術アニマかぁ。スペルパーツの組み合わせは、多分魔術系も武術系も関係ないだろうけど……どういう感じになるんだろう。ちょっと気にはなる。
アニマの組み合わせ以上にスペルの組み合わせはパターンが多いからなぁ。
他には?
状態異常を付与する《○○攻撃》のバリエーション追加。
これはいいかな。多分コガラシは喜んで装備するけど。
……《枯渇攻撃》って何?
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●《枯渇攻撃》
◇常時発動します。
◇自身の物理的攻撃に、対象に
◇《枯渇》を付与しやすい性質の攻撃であればあるほど、付与する《枯渇》の効力と持続時間が上昇します。
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●《枯渇》
◇MPが持続的に減少します。
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MP減少かぁ。厄介だなぁ。
時々字面だけ見ると意味不明なアニマあるよね!
ちょっと面白い。効果見ると納得できちゃうのも面白い。
まあいいや。他も見ていこう。
……お? これはアリじゃない?
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●《蓄魔》
◇自信のMPが上限を超えて回復した際に発動します。
◇最大MPを超過した分だけ、《マナクリスタル》スタックを自身に加算します。
◇保持できる《マナクリスタル》には上限があります。
◇上限を超過した分の《マナクリスタル》は消滅します。
《マナクリスタル》
◇自身がMPを消費する際、代わりに《マナクリスタル》のスタックが減少します。
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MP蓄積!
これは魔法使いにとって必須級と言えるかもしれないね。
MP消費の大きい攻撃をバンバン撃てるようになる! これはシンプルに強いなぁ。
問題はどのぐらいMPを蓄積できるかだよね。最低でもライトニングブラスト一発分ぐらいは欲しいところだけど。使ってみないとわかんないかな?
これは中々嬉しいなぁ。
いいね。この調子で使い勝手いいのバンバンおいで!
えーと。
属性攻撃系。うーん微妙かな。
それでこれは?
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●《道連》
◇自身が死亡した際に発動します。
◇自身に止めを刺した敵対者に凄まじいダメージを与えます。
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あ、こんなのもあるんだ……。死なば諸共系アニマが来た。使いたくないけど。
ん? お、これもいいね。
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●《魔力再生》
◇自身のMPが減少している場合に発動します。
◇自身のMPが持続的に回復します。
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シンプルなMP回復!
……あれ、じゃあこっちは?
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●《給魔》
◇常時発動します。
◇自身のMPが少量ずつ持続的に回復します。
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……???
え、純粋に《魔力再生》のが上位互換じゃない?
《給魔》は少量って書いてあるし。
「今度はどうした」
「いや、これちょっと見てほしいんだけどさ。この2つ効果ほぼ一緒だけど、何が違うんだろうって。上位互換と下位互換じゃない?」
「ふむ……なるほど。ほぼ同じだな。だが《魔力再生》はMPが全快した場合そこで回復が止まるんじゃないか?」
「それの何が問題……あっ」
あーーー!
「そうか! 《魔力再生》だと《》の過剰回復分のストックが貯まらないってことか!」
なるほどね! そういうことかー。なら私は《魔力再生》積まないとね。
でもこれどのぐらいの速度で回復するんだろう。それにもよるしなー。
……両方積めばいいのでは?(名案)
まあ冗談だけど、正直キャパシティの残り次第で結構有用な案かも知れない。元々の分は急速に回復するし、余裕のあるときはストック分を貯めることができる。いいかもね!
今回いいの多いなぁ。
「む……これは」
とか思ってたらアキカゼが嬉しそうな声を上げた。
「どうしたの?」
「これを見てくれ。技能アニマに本を読めるかも知れない手段があった」
「ホント?」
「本だけにか?」
「違うよ!」
失礼しちゃうなぁ!
っていうのは置いといて、アキカゼのウィンドウを覗き込む。
「《解析》と《解読》かぁ」
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●《解析》
◇未知の事象や減少の結果などを解析する技能です。
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●《解読》
◇未知の言語や暗号などを解読する技能です。
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「確かにこれならいけるかも!」
ちょっと効果説明シンプルすぎない? とは思うけどね!
「そうだな。グレードを……ん? グレード上昇不可?」
「え? 何で?」
「……ヘルプを見るか。これだ」
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●《技能アニマ》
◇技能アニマを装備することで、アニマに応じた技能を使用できるようになります。
◇技能アニマを複数装備した場合でも、効果は上昇しません。
◇技能アニマのグレードを上昇させるには、一定の熟練度が必要です。
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「最後の仕様のせいだろうな」
「え、めんどくさ! ……と言うより、逆に何で他に熟練度によるグレードの制限がないんだろう? 普通に考えてあって然るべきじゃない?」
「そうだが……」
アキカゼは言いよどんで考え込んだ。
「……推測だが、これは『技能』だからじゃないか?」
「どういうこと?」
「技能を習熟させるには練習が必要だ。だから技能アニマのグレードを上げる……より高度な技術を使用するために、熟練度を上げる、イコール練習しなければならない」
「他のアニマは?」
「恐らくだが、『武器』のような扱いなんだろう。ヘルプの文章もさんざ『装備する、装備した場合』などと表現しているし、これを技術と見た場合、“現実的に考えて”不都合な点が多いように思える」
ふむふむ……なんとなく分かった気がする。
「つまり、《毒攻撃》とか、オウカちゃんの《逆境》とか、技術として考えるとどうやって練習するのそれ、みたいなのが多いってことか!」
武器で攻撃して毒を与える技術……。
なにそれ。毒塗ってないとそもそも無理じゃない?
大怪我するほど攻撃力が上がる技術……。
普通逆じゃない? 力入んないよね。
ってことだね!
「これみたいに!」
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●《連理》
◇自身から一定範囲内に、自身とパーティを組み、なおかつ同グレードの《連理》アニマを装備している他プレイヤーが存在する場合に発動します。
◇自身と条件を満たすプレイヤー全員のMPを合算し、共有します。
◇MPを共有できるプレイヤー人数は、《連理》アニマのグレードの数値と同じです。
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「そうだ。これは……随分と極端な例だが、その通りだ。このアニマには他にも気になる点が多いがな」
「ホントだよ。パーティって何?」
そんなもんはメニューに存在しない! 不親切!
「こうして同行しているだけでパーティを組んでいる扱いになるのか? ……残念だが検証はしばらくできそうにない。俺のアニマリストに存在しないようだ」
「なら仕方ないね!」
「……いや、待てよ。以前に掲示板でパーティ機能を解放したと言っていた人がいたな。ならそれを解放しないと使えないのだろう」
「えー! だるい!」
このゲームそういう所ホントダメだよね。
どうして必須機能を解放式にするんですか?
「それで、結局読めそうなの?」
「ひとまず両方グレード1で試そうと思う」
「じゃあ私その間またアニマ見てるね」
他にもいくつか気になるのあるんだよね。
この《魔燃》ってのは何だろう。
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●《魔燃》
◇自身のMPが1以上である場合に発動します。
◇自身のMPを持続的に消費し、全ステータスを上昇させます。
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常時MP消費ってキツくない?
復活した後MP1だから回復しなくなるじゃん。祭壇の回復力の方が強いのかな?
え、これHPバージョンもあるの? 《命燃》かぁ。個人的にはちょっと微妙かな。全ステータス上昇は普通に強いけど、魔法職の生命線が常時削られるのはしんどそう。
回復手段必須……回復?
そうか! さっきの《魔力再生》とかと一緒に積めばいいんだ。
もしかしたらこれ、回復と消費が釣り合うんじゃない? 後で試してみよう。
え、いいなぁ。結構いい感じの手に入ったね! これは構築見直しが必要だ!
「アキカゼ、そっちはどう?」
「少し時間がかかるが読めるぞ!」
「おー。テンション上がってるね!」
いつも冷静だけど、テンション上がると時々無茶苦茶するから面白いんだよね、アキカゼ。
いつか皆でシミュレーションゲームやってた時、何か妙に全員のテンション上がった結果、全員戦争状態の殴り合いになったりしたし。結果アキカゼ最下位。後で見返したら冷静に布陣そのままにしておけば勝ててたのが分かってちょっと落ち込んでた。ちょっと面白かった。
あれ、シミュレーションで合ってるっけ? シュミレーションだっけ?
「ねぇ、シミュレーションかシュミレーションかどっちだっけ?」
「シミュレーションだ。趣味のレーションではない」
……???
「忘れろ」
「はーい」
私はいい子だからね!
でも動画でしっかり今の場面使うね!
「ちなみにどんな本があるの?」
「そうだな……『シゼルワルファの歴史』と題された歴史書や、妙に前時代的な医療の本。あとこれは……小説だな。『時の声』というタイトルだ。それとこっちは薬草図鑑。現状の俺達には正直不要だ。まだざっと目を通しただけだがな」
「へぇー。世界観考察にはいいかもね!」
「そのためにもまずは最初の試練を突破することが大前提だとは思うがな。まだチュートリアルゾーンだろう、ここ」
「だよね」
長いチュートリアル! 現代のユーザーには嫌われるぞ!
「ちなみにこれは? 何か魔法書っぽいけど」
「何だろうな」
魔法陣が書かれて、いかにもそれっぽい!
アキカゼがそれを手にとって、分厚い表紙を開く。
……その瞬間、本が浮かび上がって、バラバラとページが捲れていく。
……とても嫌な予感!
「オウカ! 戦闘準備!」
「わかってるよー!」
アキカゼが叫んで、私が返事した瞬間、本の中から黒くて細長い腕が飛び出した。
もぉぉぉ!!
そんなことだろうと思った!
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