028話 ただの表記揺れなのかな?
「トバリ、ビルドは固まったか?」
「一応? ぱっとしたものがないんだよね。一個一個は強力なものが多いんだけど、いざ組み合わせて使うとなるとシナジーがあるわけじゃなくてさ」
「シナジー必須というわけでもないだろう」
アキカゼの言ってることも分かるんだけどなー。
「でも、限られたキャパシティの中でできるだけ強力なビルドを作るには、やっぱりシナジーが必要だと思うな。ほら、オウカちゃんの復讐ビルドがそうでしょ? コガラシは……リアルスキルとの相性がいいだけで、ただ毒アニマ積んだだけだったけど」
あのビルドが結局どれだけ強いかイマイチ見れてないんだよね~。一対一想定ならかなり強いと思うんだけどな、あれ。
そんなこんなでわたしはアキカゼとビルド構築の試行錯誤を延々と行っていた。アキカゼがスペル開放してなかったから、それを見つけてからだけど。
コガラシとオウカちゃん大丈夫かな? 祭壇にいなかったから生き残ったんだとは思うけど。落下ダメージどうしたんだろう。ビル20階か30階はあった気がするんだけどなー?
でも確かあの時不自然なタイミングでレベル上がったから、あの天使も仕留めたんだろうな。すごい!
あの後わたしたちは囚人の群れを魔法で吹き飛ばしたり、厄介なのをアキカゼがピンポイントで狙撃したりして何とか全滅させた。フラフラになって祭壇に戻ってきたら、もう即ログアウトだ。夜ご飯の時間も近かったし、さすがに疲れちゃったしね。
だけどしっかり休憩したし、夜ご飯食べて、早めにお風呂も入って、もう今日は気力の続く限り永遠にこのゲームができる!
やっぱりキャパシティに余裕があるっていうのはいいね! ○○魔術積みまくってスペルパーツ大量だ。いぇい。
「アニマは一つ一つがそれなりに強力だ。だからそれらを並べるだけでもいいんじゃないか?」
「うーん。それが、いまいち噛み合ってないんだよね」
オウカちゃんの使ってた《撃衝》、コガラシの《毒攻撃》、撃破時MP吸収の《奪魔》とか。
簡単に言っちゃうと、いろんな職業の一番強いスキルだけ揃えました! って感じで個性が喧嘩してる。わたし魔法職なのに、妙に直接攻撃で発動するものが多いんだよね。
「コガラシがランダム取得の可能性があると言っていた。運が悪かったか?」
「そうかも。結局ビルドとしてはMP回収と、魔術系アニマ詰め合わせになっちゃうかなって」
「ふむ……具体的に、お前のスタイルとマッチしないアニマにはどんなものがある?」
「例えばこの2つとか」
================
●《風巻》
◇常時発動します。
◇自身に、自身の現在速度に応じた《トルネードアイ》スタックを加算します。
《トルネードアイ》
◇自身が与えるダメージ量が、スタック数に応じて上昇します。
◇自身の現在速度が低下した場合、速度に応じてスタック数が減少します。
================
================
●《冥牙》
◇自身が死亡した際に発動します。
◇自身に《デスペラードファング》スタックを加算します。
《デスペラードファング》
◇自身の装備している、死亡時に効果を発揮するアニマの効果をスタック数に応じて強化します。
◇死亡してもスタック数が失われません。
================
「……なるほど。現状出せる速度などたかが知れているし、《冥牙》は死亡前提、と」
「《風巻》はまだいいんだけどね。《冥牙》の効果が適用されそうな死亡時発動のアニマがないんだよね」
なのにこれだけあってもなぁ。
「他にも結構魔法じゃ発動しなさそうなのあるしさー。オウカちゃんの《撃衝》とかもまさにそうだね。《毒攻撃》もそうだし」
「見せてくれ」
「えーと、《撃衝》はこう」
================
●《撃衝》
◇自身の物理攻撃が命中した際に発動します。
◇攻撃が命中した箇所を起点に、衝撃波を発生させます。
================
「なるほど。確かに魔法職には使えそうにない」
「それで、《毒攻撃》はこれ、と」
================
●《毒攻撃》
◇常時発動します。
◇自身の物理的攻撃に、対象に
◇《毒》を付与しやすい性質の攻撃であればあるほど、付与する《毒》の効力と持続時間が上昇します。
================
うんうん。『物理的ダメージを与えた際に発動します』だから。
……あれ? ちょっとまって?
『物理的ダメージ』?
『物理ダメージ』じゃなくて?
え、これただの表記振れなのかな? それとも本当に違う?
……待って待って?
「ねえ、ちょっと聞いてくれない?」
「何か浮かんだか?」
「発狂囚人から逃げてる時、確かコガラシがこう言ってたの。『スペルにも常時アニマ適用か!!』って。そう考えると、この毒攻撃はスペルにも適用されてる」
コガラシが範囲斬撃を使ってた時に叫んだセリフだ。
「で、そこまで考えて気づいたんだよね。わたしたち、スペルの性質によって勝手に魔法と物理とか呼び分けてるけど、この二つに違いってあるのかな?」
「……なるほど。言いたいことが分かったぞ」
マジで? さすが秀才。すごい。
「魔法と言っても、起こる現象は物理的なもの。例えば、岩や氷を生み出して攻撃する魔法をスペルパーツで作ったとする。これは魔法なのか? 物理なのか? ということだな?」
「イグザクトリー! その通りでございます!」
そう。だって魔法で生み出されたとしても、岩ぶつけるとかどう考えても物理じゃん。というか極論言っちゃえばどの魔法も、『現実に影響を及ぼす』って時点で物理だ。
あ、でも何か幽霊的なアレに関する魔法とかは違うかな?
「んでさ、はっきり分かれてるんなら名称違ったりするかも知れないじゃん? 現にコマンド式RPGとかそういう仕様ばっかりでしょ」
“特技”と“魔法”みたいにね。
「確かにそうだ」
まあ、はっきり分かれてたとしても、このゲーム多分そんな仕様にしないけど。
「そこで思ったんだよね。『物理ダメージ』じゃなくて『物理的ダメージ』であることに何か意味があるんじゃないかな? って!」
「なるほど……」
ふむふむと頷き思考を回すアキカゼ。
「検証しよう。先程言った、岩を生み出す魔法は作れるか?」
「作成済みであります! アニマも装備済みであります!」
「よろしい。君は大変優秀なようだ。早速検証に向かうぞ、トバリ軍曹」
「ラジャー!」
あれ、軍隊の返事ってこれでいいんだっけ。
その後敵を探して、岩の槍や氷の刃、炎の弾や雷をぶつけて判明した。
あんまり敵がいなくて探すのにちょっと苦労した。
それは置いといて。
どれだけ魔法っぽくても『質量のある攻撃』でダメージを与えたなら、それは『物理的ダメージ』と判定されるみたい。
要するに、岩や氷みたいに何かを作り出して攻撃するようなスペルならOK。自分の武器をサイコキネシスみたいに動かすのも多分いける。
だけど、炎や雷みたいな、『質量のない攻撃』はダメ。炎の刃とかを作ってみたけど、それもダメだった。純粋な魔力の刃っぽいのもダメ。
ただ、質量がなくても毒の刃には効果があった。アニマなしより確実に効き目が強かった。
ちなみに、《撃衝》のテキストにある『物理攻撃』は、武器による直接攻撃じゃないとダメだった。
ちゃんと表記分けられてるんだね。
「これは面白いよ……! 一気にビルドの可能性が広がった!」
やろうと思えば、氷の刃を遠距離から延々と飛ばし続けて、相手を細切れにしながら毒に侵す、みたいなことができる!
まあ私はやらないけど。
コガラシはやりそう。
「そうなってくると色々見直しが必要かな……?」
でもアーツに自動で効果乗っちゃうのはちょっとあれだなぁ。アキカゼが教えてくれた掲示板の情報によると、状態異常に反応する敵もいるみたいだし。
というかあの爛れ囚人まさにそれだし。
うーん。付加効果は使い分けられるのが好みなんだよね。その点記憶数に上限が今の所存在しないアーツはとても優秀。倍に増やしたけどまだいけそう。
だったらやっぱり魔術系アニマを積んで、残りはMP回復手段に回した方がよさそう。
発狂囚人の群れみたいに、弱くて纏まってる敵なんてそんなにいないはず。さっきは上手いこと消費に回復がほぼ追いついてて、MPが全然減らなかったけど、流石に次からはそんなに上手いこといかないでしょ。
「よし、これでいくよ。スペルも一応完成したよ! あとは試運転するだけ!」
「構成見せてくれないか」
「いいよ!」
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トバリ :異教徒
レベル :33
HP :7462
MP :23534
物理攻撃力 :623
物理防御力 :672
魔法攻撃力 :2370
魔法防御力 :2280
敏捷 :697
技術 :828
侵食力 :763
抵抗力 :968
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○キャパシティ上限:33 使用可能:0
《異教魔術》 Ⅲ 基礎 消費6
《暗黒魔術》 Ⅰ 基礎 消費1
《追放魔術》 Ⅰ 基礎 消費1
《呪縛魔術》 Ⅰ 基礎 消費1
《奪魔》 Ⅱ 常時 消費3
《吸魔》 Ⅱ 常時 消費3
《防壁》 Ⅰ 常時 消費1
《魔壁》 Ⅰ 常時 消費1
《治癒》 Ⅰ 常時 消費1
《痛覚耐性》 Ⅴ 身体 消費15
================
「やはりグレードを上げるとキャパシティの消費が激しいな」
「だよね。《奪魔》と《吸魔》をⅢにしておきたかったけど、足りなかったんだよね。仕方ないから他の基礎アニマ入れておいた」
でもやっぱり本当に悪そうなのしかないなぁ。《異教魔術》が一番ヒーラーっぽいかと思ったんだけど、《治癒》のスペルパーツが出てきたのはグレードⅡからだし。
しかもⅢに上げたら《人外化》とかいう何かもうアレなパーツ生えてきたし。なにこれ?
「《物理障壁》は?」
「そのまんまだよ。バリアみたいな感じ。《魔法障壁》は魔法的ダメージバージョン」
「なるほど。不意打ちへの対応だな。打たれ弱い後衛が備えを持つのは心強いな」
「今コガラシもオウカちゃんもいないから、どっちも前に出るしかないけどね! そのために取ったってのもあるしさ」
火力と対応力はスペルを上手く使えば十分ってことがわかった。じゃああと必要なのは防御力だよね!
「確かにそうだ。バランスは悪いが補っていかなければな」
「あの二人が揃ってた時が良すぎるんだよ! 器用貧乏を目指しても多分このゲームやってけないし大丈夫大丈夫! さ、行こうよ!」
「スペルの試運転はしないのか?」
「いくつか作ったから、攻略で実際に使ってみて調整する! ビルドも楽しいけどそろそろ先に行きたいな~って思って」
苦笑された。でもアキカゼは首を縦に振った。
「そうだな。行こうか。まだ開放も十分ではないからな」
「でしょ? 一個一個開放する度に全部検証してたら永遠に終わらないよ!」
さーて、どっちに行こうかなー!
心臓頭も倒したし、あのホール辺りを調べてみようかな? 心臓頭がリポップしてるって可能性もあるけど、流石にまだでしょ。
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