67話 訴え
「らんらんらんっ――」
「――エリスッ」
「わっ!? び、びっくりしたぁ……」
棚の整理中、真横にいきなり人が現れたので目を白黒させるエリス。その正体は同僚のサラで、気まずそうに笑いつつ舌を出していた。
「んもう……驚かせないでって言ったでしょ?」
「ごめーん。そのつもりはなかったんだけど、あんなに楽しそうなのを見ちゃったらつい……。それに、あたしの【潜伏】スキルってこれくらいしか使い道ないもんっ」
「でも、サラが以前それで隠れながら移動できるって自慢してたのを、私今でも覚えてるんだけど……?」
「だってぇ、超ゆっくりしか移動できないからつまんないもん……。それこそ芋虫レベルなんだよ……?」
「それでも、この前は会議室で活用してたじゃない」
「あ、エリスったらまだあのときのことを怒ってるの? でもいいじゃん、あの一件があったおかげで王子様の評価がさらに上がったようなもんなんだし……」
「はいはい、そういうことにしときましょうか」
エリスが自身の口元を押さえつつ、羽の塵払いでパタパタと棚をはたき始める。
「ゴホッ、ゴホッ……エ、エリスッ、急に何すんのよー……!」
「ふふっ。さっきの驚かされたお返しだけどー?」
「むむー……てかあたし、エリスがカイン君に惚れる理由、わかった気がする。強いだけじゃなくてすっごく思いやりがあるもんねえ」
「えっ……。サラって年上好みじゃなかったっけ?」
「そうだけどぉー、カイン君みたいなのだったら年下でもいいかなーって……」
「サラったら、もしかして盗むつもり……?」
「さあねえ……でも、エリスは早めにカイン君と既成事実を作っといたほうがいいと思うよぉー? あたしが美味しくいただいちゃう前にっ……」
エリスに顔を近付け、ニヤリと笑うサラ。
「サラァ――あ、また隠れたっ……!」
「へへーん。どうだ、あたしを捕えてみよっ、わっはっは!」
姿を暗ましたサラの笑い声だけがその場に響き渡るのであった……。
◆◆◆
「――最後っ、エオリア!」
「はいっ!」
ふう……これで朝の点呼が全部終わったわけなんだけど、不思議と疲れとかなくて、むしろ充実感さえあった。以前までは、新しいギルド長に抵抗があるのか名前を呼んでも返事をしてくれない係員が結構いたんだけど、今じゃほとんど点呼に応じてくれるからね。
「ちっ……!」
「……」
僕より年上の係員の男がいかにも不満そうに舌打ちして立ち去っていった。彼だけは今でも点呼には応じてくれないけど、以前は隣の係員とお喋りしつつ点呼の途中で抜けてたから、そのときよりはずっと進歩してるんじゃないかな。こういうのは一気に変えていくんじゃなくて、少しずつ変えていくべきだと思うんだ。
「――うっ……?」
朝の会食が終わって、S級の依頼を探し始めたときだった。僕は胸のあたりがズキズキと痛むのがわかって、胸焼けでもしたのかと思って削除したんだけど一向によくならなかった。おっかしいなあ。
『バカバカバカバカバカバカ……』
「えっ……」
なんか幻聴まで聞こえてくるような……。そういえば猪人族の首領クアドラと戦ったとき、疲れとか色々削除するたびに消すことのできない微かな空白のようなものが作られてるって感じてたし、それが溜まりに溜まった結果、原因不明の胸痛を引き起こしてるってことなんだろうか……?
『カインのバカバカバカバカバカバカッ……』
「……」
いや、声色すらもぼんやりとしてるけど、これってただの幻聴じゃないような。何かが僕に必死に訴えかけてくる感じだし、この言い方はまさか……。
アルウ(亡霊)なのかな……? 彼女がダストボックスから僕に文句を言ってるってこと……? でも、それを確かめる術なんてあるわけないしなあ――
「――あっ……」
いや、待てよ……。確か、【進化】で【削除&復元DX】が出来上がったとき、自分自身をも削除できるってあったよね。それって、僕もダストボックスの中に入れるし、アルウ(亡霊)やファラン(亡霊)に会えるってことなんじゃ……?
お、まるでそれが正解だといわんばかりに胸痛が治まってきた。ってことはやっぱりあの子が訴えかけてきてるのか……。でも、それを自分に使うと死んだことになってしまって、もう二度と生きたままでは元に戻れなくなる可能性もあるって考えると怖いし……。
「すー、はー……」
ためらってたらまた痛みがぶり返してきたので、僕は深呼吸したあと【削除&復元】を【進化】で【削除&復元DX】にグレードアップさせ、自分自身に使用してみることにした。さて、一体どうなることやら……。
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