31話 及び腰


「――あっ……!」


《跳躍・中》の連続使用と、定期的な疲労の削除の両方を繰り返しながら数時間ほど経っただろうか。ようやく僕の視界の奥のほうから、さりげない感じで故郷の村エルゼバランが見えてきた。


 木々が合間にぽつぽつと立つ長閑な田園模様、少し傾いたままの古びた水車、とことん色褪せた煉瓦の建物……相変わらず長閑な景色で、あんなところに化け物が出てきたなんて今でも信じられない。


 王都ヘイムダルからはかなり離れてるだけに、そうしたところからも依頼が届くなんて凄く珍しいわけだけど、それだけ緊急性の高い依頼ってことなんだろうね。その事実だけでもう、いずれSランクの依頼に達してもおかしくないくらい、滅茶苦茶ヤバいモンスターが出現したんだってわかる。


「……」


 ふと、懐かしい景色や植物の匂いに釣られたのか嫌な思い出が蘇ってきたので削除する。以前ならそれできっとしばらく嫌な思いをしただろうに、本当に便利なスキルだ。


「「「――待てっ!」」」


 ここからはより慎重になろうと思って跳ぶのをやめて歩いてたら、エルゼバランの入り口で三人の兵士たちに道を塞がれてしまった。


「ここからは冒険者か兵士しか入れんぞ!」


「ガキが何しにきやがった!?」


「さっさと向こうへ行きなさい!」


「「「しっし!」」」


「……ちょ、ちょっと待ってよ。一応僕も冒険者なんだけど……?」


「はあ? 冒険者は冒険者でもなあ、その見た目なら冒険者見習いがいいところだろう。いいか坊主、よく聞け……。ここはな、冒険者の中でも上級、すなわちB級かA級しか入れないようになっとるんだ」


「そうそう。まあ今は少しでも彼らの助けになればとC級までは入れてるんだけどよ、それをお前みたいなガキに証明できるっていうのか? ああん?」


「うむ。俺たち兵士ですらそのC級以下であり、戦力になれるかどうかは怪しいのだぞ? わかったら早くママのところに帰りなさい!」


「……あの、これ……」


「「「ん……?」」」


 なんか自慢してるみたいでこそばゆいからあえて外してたけど、僕はを取り出して胸に飾って見せた。口でああだこうだ言うよりこのやり方のほうが確実だからね。


「ぎっ、銀色の双竜だとおぉぉ……!?」


「マ、マジかよ……それってA級冒険者じゃねえかっ!」


「ど、どどっ、どうぞお入りをっ……!」


「「「失礼しましたあぁっ!」」」


「……」


 とんでもない態度の変わり様だ。まあベテランの冒険者でも一目置くような褒章だし、自分たちのことをC級以下だって認めちゃってる兵士たちに見せたらこうなっちゃうか……。




 ◆◆◆




「お、おおおっ、おいいっ、恐れるなっ、お前たちいっ……!」


 エルゼバランの村にて、ナセルたちはいずれも周囲に転がった死体を見ないように及び腰で歩いていた。


「……わ、私、こんなところ嫌よ。あ、相手は規格外の化け物らしいじゃない……。早くおうちに帰りたい……」


「ホームシックッ……! 自分もファリムに完全同意だ……」


「あ、あたしも、ファリムさん、ロイスさんと同じ気持ちです……。綺麗な死体ばっかりってのが余計に怖いです……」


「「「言うなっ!」」」


「ごっ、ごめんなさい……!」


「と、と、とにかくだっ、今の俺たちは崖っぷちにいるし、だからこんな危険なところまで来た……! お前たちもそれはわかるな……!?」


「「「はいっ!」」」


「俺たちがここから一発逆転するにはよ……ここにいずれカインもやってくるだろうから、そのとき例の化け物を打ち倒すのに協力して、そのタイミングでやつをパーティーに迎え入れるしかねえだろうが……!」


「そ、そう都合よくいけばいいけど……無理っぽくない……?」


「イエスッ……! 今回の敵は強すぎて、協力しても焼け石にウォーターッ……!」


「カインさんもあたしたちに良い感情は抱いてないでしょうしねぇ……」


「お、おいっ、お前たち……今からそんな弱気でどうするんだ! カインも鬼じゃねえ。俺がやつの後方から弓矢で援護射撃するのはもちろん、ファリムが小剣を手に素早い動きで敵を牽制っ、ロイスは心身ともに傷ついたカインを癒し、ミミルがやつに真心を込めてバフをかければ完璧――」


「――気を付けろおおおおぉぉぉっ! 例の化け物が出たぞおおぉぉっ!」


「「「「ひえっ……!」」」」


 化け物の出現を知らせる声がした途端、ナセルたちは我先にと近くの家の陰に隠れるのであった……。

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