21話 話し合い
「――さあ、着いたぞ」
「大人しく中に入れっ!」
「いくら泣き喚いても無駄だからな!」
「……」
ロープで雁字搦めに縛られた僕は兵士たちに連れられ、駐屯地の地下牢に入れられてしまった。殺してないっていくら弁明しても、殺人犯はみな決まってそう言うんだと返されるだけだった。
はあ……これから僕はどうなってしまうんだろう。さすがに処刑寸前になったら色々削除して逃げることにはなるとは思うけど、それだと脱獄囚として名を馳せることになってしまう……。
「ま、その褒章があるからすぐ出られるだろうけどな」
「え……?」
兵士の呆れたような声に僕は目が覚める思いだった。
「ん、知らないのか? A級以上の冒険者に関してはな、よほどのことでない限り一日だけ収監する決まりなんだよ。冒険者ギルドと王国は切っても切れない関係だからな」
「へえ……」
じゃあすぐここから出られるんだね。よかった……。
「だが、だからといって調子に乗るなよ。おそらくその褒章を見るのは今日限りだろうからな」
「えぇ……」
「王国側がこうしてお前を閉じ込めるように、冒険者ギルドとしても殺人犯に対してはけじめをつけなければならん。今頃ギルドじゃお前に対する処分をどうするか検討中だろうて。そうなると最低でも褒章の没収で、普通にいけばそれだけにとどまらず除名処分だろうな。震えて待て」
「……」
兵士の冷淡な言葉が胸に突き刺さる。僕は身の潔白を証明する機会すら与えられずに処罰を甘んじて受けなきゃいけないのか。そんなの嫌だ、嫌すぎる……。それでも、強い不安を削除することですぐに楽な気持ちになれた。
【削除&復元】は本当に便利なスキルだ。今は確かに厳しい状況だと思うけど、僕の帰りを待ってくれてる人のためにも、いずれ必ずこの能力を使って挽回してみせる……。
◆◆◆
冒険者ギルドの二階にある会議室では、ギルド長とその関係者のみが集まり、この上なく重々しい空気の中、殺人の嫌疑をかけられたA級冒険者カインの処遇を巡る話し合いが執り行われていた。
「――ではこれより、集まったみなの意見を元にカインに対する処分を決定する……」
集まった書類にざっと目を通したあと、ギルド長が目を瞑りやや観念した表情で自身の豊かな白髭をつまむ。
「カインが一週間以内に殺人容疑を晴らせなかった場合……A級の褒章の没収、並びに除名処分とする。以上だ」
ギルド長の言葉に周囲がざわめくとともに、受付嬢の一人であるエリスが血相を変えて立ち上がる。
「ギルド長様、それはあんまりです、いくらなんでも厳しすぎます!」
「エリスか……その様子だとよほどカインのことを気にかけていたようだが、仕方ない。もう決まったことだ……」
「なりませんっ!」
立ち去ろうとするギルド長の前に立ち塞がるエリス。その剣幕はここにいる誰もが視線を釘付けにするほどの迫力があった。
「そこをどくのだ、エリスよ」
「ギルド長様、この処分には到底納得できません……。何故カイン様ほどの貴重な人材をむざむざ手放すおつもりなのですか!?」
「エリス……それはわかっている。わしだって惜しいのだ……」
「ではどうしてこのような厳しすぎる処分を? まだ疑いの段階なのに、たった一週間しか猶予がないなんて、こんなの前例がないことですっ! ちなみにカイン様が殺したという男の死体は、現場となった路地裏から跡形もなく消えていたそうです。怪しすぎます……!」
「冷静になってよく聞くのだ、エリスよ」
「ギルド長、様……?」
真剣な表情でギルド長から肩に手を置かれ、エリスがはっとした顔になる。
「強すぎる力というものはな、よいことばかりではない。ときに不協和音をも生み出すのだ。エリス、お前がまだ受付嬢の見習いですらなかった頃、あやつに似た凄い才能を持った少年がおってな……」
「……」
「性格もよく、人望もあって仲間に恵まれた男であったが、そのずば抜けた才能を利用しようとする勢力があった」
「そ、その勢力とは……?」
「残念ながらその勢力について詳しいことは話せない。深入りすれば災いを招くことに繋がるからな。とにかく彼はその勢力争いに巻き込まれ、ギルドもまた多くの被害を受ける格好となったのだ。だから、早いうちにカインのような異質な存在とは手を切らねばならん」
「で、でも、本当にやっていないならそれこそ余計な恨みを買うことにも――」
「――だから一週間という猶予を与えてやっているではないか。これで解決できれば罪には問わんし、できなければこのまま穏便に去ってもらうというだけの話だ」
「……」
呆然とした表情のエリスを尻目に、ギルド長を含む関係者が続々とその場を立ち去っていく。
(ギルド長様のわからずや……。いくらカイン様でも難しいってわかってるくせに。たった一週間で問題を解決しなければならないなんて……)
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