13話 濃淡
スキル名:【偽装】
効果:スキルを使用してから10分間、背景に同化することが可能。また、自分についての情報を偽りのものに自由に書き換えることもできる。
おー、少しだけ予想と違う効果だったらどうしようかって思ってたんだけど、これはやっぱり使えそうだね。情報まで塗り替えることができるなんて、モンスターより人間が持っていたほうがずっと役に立ちそうなスキルだ。
さて、用事も済んだことだし帰ろうかな――
「――う……」
アルウのことがまた脳裏をよぎってきて、僕は首を横に振った。
彼女の魂の叫びみたいなものなのかもしれない。どうにかできるものならしてあげたいけど……いくら【削除&復元】が最高のスキルでも生き返らせてやることなんてできそうにない。
助けてやれる手段がわからない以上、僕が構うことでいつか現状を知ってしまい、却って苦しめる結果になる恐れだってある。お互いのためにも忘れてしまったほうがいいのかも……。
「はあ……」
ダメだ、やっぱり気になるし、忘れようとすればするほど意識してしまう。というわけで《跳躍・小》を駆使して森の入り口へと向かっていった。
「――あれ……?」
入り口を抜けた場所にアルウの姿はなかった。また悲鳴が聞こえてくるかと思いきや、聞こえない。もしかしたら、一人で町に戻ったんだろうか? ったく、どこに行ったんだよ……。
「カインのバカッ! 探したのよ!」
「あっ……」
アルウだ。凄く怒ってるみたいで、顔を赤くしながら近づいてくる。これはヤバい空気だしまた叩かれちゃうかもね。幽霊なのにどうしてか凄く痛いんだな、これが。
「えっ……」
彼女は何を思ったのか抱き付いてきた。
「寂しかったんだから……!」
「ご、ごめん……アルウ、泣いてるの?」
普段の強気な表情からは想像できないほど、彼女は頬を濡らしていた。
「う、うん……怖い夢を見ちゃったのよ。オーガに襲われて生きたまま食べられる夢……。まるで現実みたいで、痛みさえ感じたの。気が狂うかと思ったけど、カインのことを思い出すことで耐えられた。だから、お願い。一人にしないで……」
「アルウ……」
「怖い、怖いよ。ねえ、頭が変になっちゃいそう、怖い、助けて……ひっく、お願い……」
「はっ……」
彼女の体の輪郭が薄れているのがわかった。足元には薄らと血だまりが見える。
森の中でモンスターに食い殺されたことを思い出そうとしてるのかもしれない。そうなると彼女は永遠に森の中で苦しみ続けることになりそうだ。どんどん悪い流れに引き込まれてるみたいだから、下手に慰めるよりも普段っぽく接してあげたほうがいいように思う。
「バカだなあ、アルウは。僕が側にいるじゃないか。それとも、お転婆なアルウは僕じゃ不満?」
「……バ、バカッ、私はお転婆じゃないし不満なんかじゃないもん……」
少しは正気を取り戻せたみたいだ。体も輪郭が戻ってきている。よかった……。
「ねえ、もうどこにも行かないでね、カイン」
「あ、うん……」
そうは言ったものの、森から離れてしまった途端アルウは存在できなくなりそうだ。以前町に連れて帰ったときも、彼女は忽然と姿を消したかと思いきやまた森に戻ってたし……。
かといって、ここでずっと彼女と一緒に生活するわけにもいかないしなあ。放っておいたらまた悲劇のループの中に取り残されてしまうだろうし。一体どうしたらいいんだ――
「――あ……」
「カイン、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「変なの!」
そうだ。彼女は死んでいる。それってつまり、削除できるってことじゃ? というわけでスキルを実行してみる。き、消えた……。
名前:カイン
レベル:28
年齢:16歳
種族:人間
性別:男
冒険者ランク:B級
能力値:
腕力S
敏捷B
体力A
器用C
運勢D
知性C
装備:
ルーズダガー
ヴァリアントメイル
怪力の腕輪
スキル:
【削除&復元】
【鑑定士】
【ストーンアロー】
【武闘家】
【殺意の波動】
【偽装】
テクニック:
《跳躍・小》
《盗み・小》
ダストボックス:
疲労25
恐怖18
眠気3
空腹2
頭痛12
オーガの死骸
吸収の眼光30(特殊攻撃)
レインボースパイダの足56
アルウ(亡霊)
お、いつの間にか能力値まで表示されるようになってる。それだけ【鑑定士】スキルの熟練度が上がったってことだろうか。それに加えて、アルウがちゃんとダストボックスの中に収納されてるのがわかる。
彼女を復元させても生き返ることはないだろうけど、消したままでいることによってその間は苦しむことはないはず。これからどうするべきかは今後じっくり考えていけばいいんだ。
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