少しばかりの危険
白髪の博士がタイムマシンの前に立って言った。見るからに聡明そうな人である。
「私はついにタイムマシンをここにつくり上げました。今日はみなさんに実験をご覧に入れましょう」
ホールのステージに博士がいて、会場には、学界及び各界の著名人が集まっている。タイムマシンと称する機械は意外にもテーブルの形をしていた。
「いいですか、テーブルの上にはリンゴが一個置いてあります。では早速三分後の世界にこのリンゴを送りたいと思います。見ていてください」
ギャラリーが興味深そうな顔で見守っている。博士がテーブル横のスイッチを操作すると、一瞬でリンゴは消えてなくなった。
ギャラリーが固唾をのんで見守る中、きっかり三分後にリンゴはテーブルの上に再び出現した。歓声と拍手が巻き起こった。
「どうですみなさん、リンゴは時間を旅したのです。これはトリックではありません。まあトリックとはどのような定義付けがされているか私は知りませんが」
その時ジャーナリストの一人が博士に手をあげた。
「博士、ちょっとよろしいでしょうか」
「ええ、なんなりとどうぞ」
「今度はそのリンゴを三分過去に送ったらどうなるのですか?」
「そうくると思いましたよ」
博士はテーブルのリンゴを眺めて微笑んだ。
「もちろん可能ですが、それをすると少しばかりの危険を伴う可能性があります」
「どういう意味です?」
「このリンゴは三分前には既にこのテーブルに置かれていましたよねえ」
「は、はい」
「という事は三分前に既にあったリンゴと、今から過去に送るこのリンゴが重なってしまう。これは過去が存在するかどうかの問題なのです」
「……難しいお話ですが、リンゴはどうなるのです?」
「実はこれはまだやったことがないのです。やってみなければわからない」
「……」
博士はリンゴに軽く触れてからテーブル横のスイッチを操作した。するとフッとリンゴは消えた。
――途端に世界すべてが消滅した。
END
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