第四四話 一触即発
「「「「――待たれよっ!」」」」
なんだ……? 後ろから物凄い勢いで駆け寄ってきて、俺たちと信徒の前に割って入る四人の信徒がいた。
そのことで動揺したらしく、それまで前方にいた信徒たちがお互いの顔を見合わせているが、いつ襲い掛かってきてもおかしくない空気なのは変わりなかった。
「こ、こいつらも敵なのか……!?」
「お、おい、味方ならそこをどきやがれっ!」
「そ……そうだそうだ、同じ信徒なのに気でも狂ったのか!? 勇者パーティーの味方なんてしやがって!」
「あの外道どもの味方をするなど、言語道断っ! こやつらは最早仲間などではなく、偽の信徒に決まっておる!」
「まとめてやっつけちまえ――」
「「「「――これを見よっ!」」」」
信徒たちが次々と覆面を脱ぎ始める。すると、それまでいきり立っていた連中が一様に黙り込み、振り上げていた武器を下ろしてしまった。おそらく素顔を見て仲間だと確信したからなんだろう。
「ハワード様は我々を助けてくれた! 勇者パーティーと同じなどではない!」
「うむ! それを証拠に、ハワードどのは神精錬によってわしらを鍛えてくださったのだ」
「ハワード氏にはありえない力を授けていただいた。そのおかげでどれだけの信徒たちの命が救われたか……」
「ハワードさん、どうか先を急いでください。この契約の箱の中に地下室への階段がありますゆえ」
「「「「お達者で!」」」」
「みんな……ありがとう……」
俺はそれ以上、何も言わずに先を急いだ。彼らが死ぬと決まっているわけじゃないが、これが人生で最後の仕事だと言わんばかりの悟りきった笑顔をされたら、引き留めること自体が失礼になってしまうような気がしたのだ。
とにかく俺たちに今できる最善のことは、なるべく早くダンジョンのコアを探し出し、この神殿を元の姿に戻すことだけだ……。
◆ ◆ ◆
「「「「教皇様万歳っ!」」」」
神殿の至聖所にて、勇者パーティーを前にした四人の信徒たちが息絶えるも、至るところに見られる痛々しい傷口とは対照的にその表情はどこか満足げであった。
「はあ、はあ……な、なんだよこいつら、しぶとすぎだろ! ほかの弱っちい信徒と全然違うし……!」
血まみれの剣を落とし、疲れ切った様子で座り込む勇者ランデル。
「ほらほら、ランデル、子供みたいでみっともないからとっとと立ちなさい!」
「ちぇっ……。疲れたしちょっとは休もうよ、ルシェラ……」
「ランデル――」
「――まあまあ、ルシェラさん、抑えて」
グレックが苦笑を浮かべつつルシェラとランデルの間に立つ。
「ランデルの気持ちもわかるぜ。あの四匹のクソ信徒に無駄に粘られたせいで結構体力浪費しちまったし、少しは休んだほうがいいって」
「そんなの、回復すればいいだけのことでしょ。エルレ、早くして頂戴」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ。ルシェラお姉様っ、戦闘中に治癒魔法の使い過ぎで頭がクラクラするのぉ……」
「そ、そうだよ、ルシェラさん、エルレだって精神的に疲れて――」
「――二度は言わないわよ」
「あ、うんっ。すぐ治療するねぇ」
治癒師エルレの回復術によって勇者ランデルは再び立ち上がったが、パーティーの空気は酷く淀んだかのように気まずいものであった。
「ルシェラ、イライラしすぎだって。僕たち人質作戦でここまで結構スピーディーに辿り着けたんだからさっ」
人質に取っていた小さな信徒の遺体を蹴り上げるランデル。
「それはそうだけど、なんか妙に気になるのよ。この四人の信徒、不自然なほどタフだった気がして……」
「ル、ルシェラさん、考えすぎじゃ? だって、あの大柄な信徒とかも強そうだったし、普通にそういう強いのがいただけじゃ――」
「――いい加減黙りなさい、グレック。あなたね、この私に意見できる立場なの? あなたの代わりなんて、それこそいくらでもいるのよ」
「……」
ルシェラの射貫くような視線によってグレックは黙り込むが、その口元は誰が見てもわかるほど忌々し気に引き攣っていた。
「ん、なんか文句あるわけ?」
「は、早く行こうよ、ね? みんな。確かこの大箱の中から地下に行けるみたいだし、ハワードのやつにコアを倒されちゃったら本末転倒だしさあっ」
「そ、そうだよぉ、早くいこっ?」
「そうね、バカは放っておいてさっさと行きましょ」
「……ちっ」
ただならぬ空気を引き摺ったまま、勇者たちは箱の中へと入っていくのであった……。
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