第十話 究極の技
「信じられんことじゃ。まさか、あやつの孫とこんなところで巡り合うことになるとはのう……」
懐かしそうに目を細めるこの老人の名は、彼によるとウェイザーといって俺の祖父の戦友だったらしい。
「しかもそれが、あの勇者パーティーのハワードとは……お前さんはこんなところにいるべき男ではないと思うのじゃが……」
「それはウェイザーさん、あなたも同じでは?」
「むう……それもそうか。だが、わしはな、あえて飛び込んだのじゃ。途中、既にゾンビ化されていると知らず迷い人を助けようとして負傷してしまったが……」
「それ、場所は違うけど俺も似たようなものです。仲間を助けるために利き腕を怪我しちゃって……」
「なるほど。わしのように利き腕が使えなかったのか……。勇者パーティーの一人、それもハワードならばあの程度のモンスター、一蹴しておったはずじゃしな。一体何があったんじゃ?」
「それが――」
俺はこうなった経緯を簡潔に話すことになった。
「――ふむう、なるほどのう……。バカ正直なところもフィガルのやつにそっくりじゃ……」
「……」
褒められてるような貶されてるような、そんな複雑な心境だが不思議と悪い気はしなかった。一緒にいるだけで包み込むかのような安心感があって、そういうところがじっちゃんにそっくりだったからだ。
「しかし、その話を聞いて安心した」
「え……」
「紛れもなくあやつの孫だとわかったからじゃ。お前さんならわしの心剣を受け継ぐことができるやもしれん」
「心剣……?」
「うむ。心剣とは、衰えた技術と身体能力を精神の部分によってカバーし、さらに強化することもできる究極の奥義じゃ」
「ってことは、俺の使えなくなった右腕も昔みたいに戻れるってことですか……?」
「もちろんじゃ。それどころか以前よりもパワーアップするやもしれん。ただ、神の手と呼ばれるレベルまで戻すには当然時間がかかるし、あくまでも習得できればの話じゃが……」
「絶対やります! 何がなんでも……」
「ほっほっほ! 本当に飢えた魚のようじゃ。よいか……わしの戦う姿、目に焼き付けよ。ある程度距離を取ることでな」
「はい!」
本当に、俺は子供の頃のようにワクワクしていた。まるで失った時間が手元に戻っていくかの如く充実感に浸っていたのだ。
「喜ぶのは覚えてからじゃぞ!」
「了解っ!」
それでも俺は体中から溢れてくる喜びを隠せなかった。じっちゃんによく転ばされていた頃を思い出す。色んなことを教わったものだ。鍛冶のことだけでなく、戦いについてや日頃の心構えなんかも。たまに目を瞑って首を少しだけ傾けて考え事をする仕草なんかも、俺は気が付けば真似するようになっていた。
自分に貪欲であれ、自分は絶対に裏切らない……耳に穴が開くと思えるほど何度も聞いた教訓が骨の髄にまで沁み込んでいる。
「よいか? 可能性とは――」
「――どんな些細なことからも学ぼうとする姿勢、ですよね」
「ほっほっほ。わしも嫌というほど聞かされ、励まされてきたものじゃ。これでやっとあやつに恩返しができるというもの……」
「恩返し……?」
「うむ。あやつには借りがある。かなり前の話じゃが、フィガルから息子の師匠になってほしいと頼まれたことがあっての……」
「そ、その息子って、まさか……」
「うむ、その息子とはお前さんの父グラードのことじゃ。当時のわしはそれを断ってしまっての。忙しかったというのもあるが、正直複雑だったのじゃ」
「複雑……?」
「あやつの嫁はわしの片思いの子でのお……っと!」
「……」
動きが止まったウェイザーに突っ込むかのように赤い手が伸びたが、さすがというべきかその寸前、指まで細かく切り刻んでしまった。速すぎて見えない。これが心剣というものなのか……。
「ま、わしも若かったということじゃ。それが遠因となったかどうかはわからんが、息子は幼いお前さんを残して早世してしまった。あのときの借りを今こそ返そうと思っておるのじゃ……」
「なるほど……」
正直、俺はこのウェイザーという剣聖の老人にさらに惹かれてしまっていた。この人は祖父に似てるだけじゃなくて、なんともいえない悲しみとかユーモアさが入り混じったような、独特の雰囲気を持っているからだ……。
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