第71話
体育祭の次の日。俺は駅に向かって歩いている。
心南は美保が暮らしている療心学園の場所を知らないので、俺が駅まで迎えに行って連れていくことになったのだ。美保はそもそも療心学園にいるので、出てきてもらうのは申し訳ないということで、こうなった。
心南から電車の時間をあらかじめ聞いておいた俺は、その時間に間に合うように駅に向かっている。今の時間を見ても、心南がこの駅につくまでには、余裕で間に合うだろう。
もう駅は、俺の目の前にある。心南の到着時間まで10分弱といったところなので、5分以上前には改札口に着くことができそうだ。
俺は改札口に着くと、心南にその事実をスマートフォンから文章で送る。するとすぐに、OKマークが描かれた可愛いスタンプを返してきた。
時間的には、後5分ほどで電車がこの駅に着くはずだ。俺は改札口の近くにある柱にもたれかかって、スマートフォンをいじる。
すると、ある一つのニュースが流れてきた。それは、強盗殺人事件のニュースだ。
そのニュースを見る限りは、今日未明に愛知県で強盗殺人が起きたらしい。犯人は未だ捕まっていない、と。
最近、こういった犯罪が多い気がする。父さんも忙しくなっている気がするし、止めていただきたいものだ。
捕まっていない、で思い出したが、4月に起こったあの殺人事件の犯人も、未だ逃走中らしい。一体、どうやって逃げているのだろうか。
「信護」
「うおっ!?」
俺がニュースに気を取られていると、急に名前を呼ばれた。驚いてしまった俺は、体をビクリと震わせながら声が聞こえた方を向く。
するとそこには、待ち合わせをしていた心南が立っていた。それに気づいた俺は、ふうと息を吐いてから心南に話しかけた。
「み、心南……。来てたのか?」
「ついさっきだけど……。ごめん、邪魔した?」
「いやいや!こっちがニュースに夢中になってたのが悪いから!」
俺は心南の謝罪に対して、そう言って否定した。そもそも、俺がスマートフォンを触らずに、改札に注目して見ていればよかったのだから。
「そ。なんか、この駅に私服でいるの、変な感じ」
「ああ……。電車勢からすれば、そうだよな。普段、制服でしか来ないだろうし」
心南が言った言葉に、俺は半笑いになりながらそう返した。俺は電車通学じゃないからその気持ちは分からないが……。
「……じゃあ、早く行こ。美保の家、知ってるんでしょ?」
「ああ。あ、でも、ちょっと待ってくれ」
「ん?なに?」
「心南と会えたことを、美保に連絡しておこうと思って。いいか?」
俺はそう言って、心南に確認をとる。すると、心南はすぐに頷いてくれた。
「いいよ。すぐ終わるっしょ?」
「サンキュー」
心南の了解を聞いてから、俺はもう一度スマートフォンを開く。そして美保に、報告の文を送った。
するとすぐに、OKです、というスタンプが送られてきた。そのスタンプは、前映画を見に行った時に言っていた、ライトノベル原作のアニメのスタンプだ。
俺も同じスタンプを持っていたので、そのスタンプから今向かってます、というスタンプを返した。すると美保からも、同じシリーズのスタンプから待ってます、というものが返ってくる。
俺は少し笑ってから、スマートフォンを直した。そして、心南の方へと向き直る。
「お待たせ。じゃあ、行こうぜ」
「……ん。で、どっち?」
「学校とは反対方向だから、こっちだな」
心南に療心学園の方向を聞かれたので、俺は指差してその方向を伝える。すると、心南は頷いて、先に歩き出した。
俺もすぐに心南を追いかけて、横につく。そしてそのまま、美保が待つ療心学園へと向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます