第20話
駅で勝と高畑と別れて逆方向の電車に乗った俺たちだったが、先に羽木が降りて、続いて桜蘭も降りた。今電車に乗っているのは、俺と斎藤だけだ。
それにもう、俺たちが降りる駅も次の駅だ。電車の中では、次の駅についてのアナウンスが流れている。
「次だな」
「うん。そうだね。向かう方向が違うから、駅でお別れかな?」
「いや、送っていく。殺人事件があったから危ないかもしれないし、心配だ」
俺がそう言うと、斎藤は驚いたようで目を見開いていた。どこに驚く要素があったのだろうか。当たり前のことを言っているだけなのに。
「そ、そういうことは心南に言ってよ……」
「ん?なんでそこで高畑の名前が出てくるんだ?それに、心配したらいけないのか?仮にも、その、妻……な、わけだし……」
「な!?ち、ちょっ!?」
俺が躊躇いながらもそう言うと、案の定顔を真っ赤にして止めてくる。そういえば、ここは電車の中だ。俺の声が聞こえてしまったのか、こちらを見てきている人もいる。
だが、斎藤はそんな周りの目などお構いなく、俺に詰め寄って来た。どうやら、周りの目線に気付いていないようだ。
「も、もう!冗談で言うのはやめておこうって話になったじゃん!」
「い、いや、心配してるのは冗談じゃないし……」
「なっ!?だ、だからって……!」
「そ、それに、周りに見られてるから……」
「……え?」
俺のそんな指摘で、斎藤は周りの目線に気付く。周りの目線は鋭く俺たちを、いや、俺を見ていた。
恐らく、仮にも妻、などと言ったのが良くなかったのではないだろうか。仮と言ってしまうと、色々と誤解が生まれてしまうはずだ。
周りの目線に気付いた斎藤は、更に顔を赤くさせた。だが、丁度その時、電車が駅に着いたので、俺たちはその視線から逃げるように電車から降りる。
電車から降りてその電車が走り去っていった後、俺たちはふう、と息を吐く。そして、顔を見合わせた。
「……帰るか」
「……うん」
俺たちはそう言い合い、先程のことなどなかったかのように人の流れに沿って歩き出す。そのまま改札を通った俺たちは、まず療心学園に向かって歩き出した。
「本当に、送らなくても大丈夫なのに……」
「心配なんだよ。本当に。何かあったらどうすんだ」
「はぁ……。だから、そういうのは心南に……。ううん。もういいや……」
どうやら、斎藤は諦めてくれたようだ。それに、明後日のことについても話しておきたかったし、丁度いい。
「それより、明後日のことについて話しておきたいんだが……。集合は、療心学園でいいのか?」
「あ、うん。それでいいよ。その後、外に出ていく感じだから」
「了解。どこに行くんだ?」
「それはお楽しみ、かな?」
俺の質問に答えてくれる斎藤だったが、どこに行くかは教えてくれなかった。だが、その時に人差し指を口元に持って行った姿が、とても魅力的だった。
「あ、ああ。じゃあ、楽しみにしとく……」
「ふふっ。まるちゃんも楽しみにしてたよ?」
「そうか……。まるちゃん、楽しんでくれればいいな」
「うん。そうだね……」
まるちゃんの話で、少しの不安が俺と斎藤を襲う。この不安は、パパ、ママと呼ばれていることも関係しているのだろう。
まるちゃんは療心学園に来たばかりだ。まだ、不安なところもあると思う。
そんな中で、仮にも娘となったまるちゃんを、安心させてやりたい、楽しんでほしいと思うんだ。でも、できるかどうか分からない。だから、俺たちも不安になる。
「……あのね?小田君。小田君が会いに来てくれた次の日から、パパに会いたいって毎日私に言ってるんだよ?」
「え?そ、そうなのか?」
「うん。だから、小田君が会いに来てくれるだけで、まるちゃんは嬉しいと思う。だって、パパに会えるんだもん」
斎藤の言葉に、俺は感動してしまう。まるちゃんは、そこまで俺に会いたいと言ってくれているとは。
「……そうか。そうだと、いいな」
俺がまるちゃんに会うだけでまるちゃんが嬉しくなれるなら、いくらでも会いに行きたい。親としてみると、どうかと思うが。
「……傍から見たら、離婚した夫婦みたいだな」
「えっ……!?あ、あはは。確かにそうだね」
「家にいる間のまるちゃんのこと、よろしく頼むぜ。ママ」
「うん。任せてっ!だから、たまには会いに来てね。パパ」
俺たちはそう言い合って、笑い合った。そんな話題になっているまるちゃんがいる療心学園は、もう俺たちの目の前にあった。
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