3.こんなこといいな できたらいいな
──光が晴れた先は、チェルシーの城の自室……最初に訪れたのと同じ場所だった。
しかし、
「うぉおっ?!」
ドーン……!!
という音と共に城全体がグラリと揺れ、思わずよろける。
窓の外を見ると……空は暗く、城下町のあちこちから黒い煙が上がっていた。
これは……
「……想像以上に、終末感が漂っているな」
「みなさん、バルコニーへ! 周囲の被害状況と、ヴィルルガルムの位置を確認します!」
言うと同時にチェルシーが部屋を出て駆け出すので、俺たちもそれについて行く。
と、走りながら豪華絢爛な廊下を見回し、芽縷がわくわくした声音で言う。
「へぇーすごい! ホントにゲームの中のお城みたい!」
「そうだな。本当にゲームのラストみたいに、魔王と戦わなきゃいけないんだが」
「……しかも、時間制限付き」
俺に続いて呟く煉獄寺に、「え?」と振り向くと、
「…………ひっく」
そ、そうだった! こいつ、こっちの世界来ると
煉獄寺は真っ青な顔で、弱々しい笑みを浮かべると、
「……私が先に死んでも、構わず戦い続けて……!」
「いやしゃっくり百回しても死なねぇから! いい加減その迷信から解き放たれろよ!!」
と、全然関係のないところで一人戦っている彼女に、全力でツッコんでおく。むしろ「死ぬかも」と思いながらよく来られたな。どんだけイイ奴なんだよお前。
長い廊下の突き当たりにある階段を上り、右へ左へ進んでから、さらに螺旋階段を上り……
「ここです!」
チェルシーが、階段の上にある扉を開け放つ。
すると、そこは……
巨大な城から伸びる、一際高い一本の塔。そのバルコニーに、俺たちは立っていた。
他に高い建物がないので、城の周囲がかなり遠くの方まで、ぐるりと一望できる。
……が。
だからこそ、置かれた状況のヤバさを一瞬にして思い知らされた。
至る所から火の手が上がる城下町。
近くの山や大地も不自然に抉れ、大穴が空いている。
この城も攻撃を受けたのか、城壁の一部が崩落していた。
「……ひどい」
口を押さえ、言葉を失うチェルシー。
その横でばーさんが身を乗り出し、
「姫さま! あそこじゃ! あそこに、ヴィルルガルムがおる!!」
城下町の外れ──湖に面した山の麓の方を指さす。
目を凝らし、そちらを見遣ると……
「……うわっ、でか!!」
十階建てのビルくらいはあるだろうか。一匹の、巨大なドラゴンだった。
黒く艶めく鋼のような身体。
額に生えた禍々しい角。
赤く光る双眸に、鋭い牙。
極め付けは、その翼。今は畳まれているが……広げたらアレ、何メートルあるんだ?
そんなアニメやゲームの世界から出てきたようなドラゴンが、口を開け、息を吸うような素振りをする。
それに呼応するかのように、額に赤く浮かび上がる"ウロボロス"の紋様……紛れもない、魔王の証だ。
ドラゴンは、開いた口にエネルギーの塊を溜めると……
──ゴォオッッ!!
紫色に光るビームを吐いた!
それは湖の水を割くように進むと、正面にあった小高い山に直撃し……
ドゴォォオオンン!!
と、山を真っ二つに穿った。
「……………………」
……そうか。そうやって、この城や城下町を攻撃してきたんだな。なるほどなるほど。
…………いや、無理だろ! 生身の人間が、あんなモンと一体どうやって戦うんだよ?!
と、先ほど散々カッコつけておきながら、実物の力を目の当たりにした途端にヒヨる俺。だって、さすがにデカすぎるじゃん! 強すぎるじゃん!!
「うわぁ……やっば」
「……ひっく」
芽縷と煉獄寺も、その圧倒的な力を目の当たりにし、息を飲む。
しかしチェルシーは、
「ばぁやは軍を指揮して、引き続き民の避難誘導を最優先に! ヴィルルガルムが城下町に入り込む前に、わたくしが食い止めます!」
チェルシーだけは、その瞳に強い意志を宿していた。
ばーさんが「じゃが……」とたじろぐが、チェルシーが凛とした声音で「ばぁや、お願い」と念押しをするので、
「……民の避難を終えたら、必ず加勢に参ります!」
そう言い残し、ばーさんは去って行った。
さて。ここからどう戦うか……
ヴィルルガルムは今だ湖のほとりで暴れている。ここからだと、かなり距離があるが……
「チェルシー。ヤツと戦うには、やはりそれなりに近づかないといけないよな? いつもの転移魔法を使うか? それとも、何か別の方法があるのか……」
「おっしゃる通り、人が放つ魔法には射程があります。ここからでは攻撃が届きません。転移魔法でヴィルルガルムの近くに移動することは可能ですが……あの大きさですから、地上で戦うのは不利を強いられるでしょう。どこか高台に転移できれば良いのですが……」
言われて、ヴィルルガルムの周辺をあらためて見回すが……ヤツの背丈ほどに高い場所など見当たらない。
湖を囲うように山が連なっているが、こちらの攻撃が当たるのか微妙な距離感だし、何よりさっきみたいにドラゴンブレスを吐かれたら一貫の終わりだ。
「地上ではなく、適度な距離感で、攻撃も躱しやすい……となると、もう空でも飛ぶしかないな。飛行魔法なんかあったりするのか?」
俺の質問に、チェルシーは目を伏せ首を横に振る。ぬぅ、早くも万事休すか……
と、思われたが。俯く俺たちの横で、芽縷がスッと手を上げ、
「あたし、出せるよ。空飛べて、小回りも利くメカ」
さらりと、そんなことを言ってのけた。
「えっ?! 何その都合のいいメカ! しかも『出す』って、どうやって……」
芽縷は得意げな笑みを浮かべると、スカートのポケットから何かを取り出し、掲げる。
「こんなこともあろうかと……ハイ! 四次元ポーチぃい☆」
完成度の低いドラえも●のモノマネと共にポーチを取り出した。何でもありかよ! と思うが、今はそれすらありがたい。
彼女はその中に手を突っ込み、ガサゴソ漁り出し……
「……あったあった。いくよぉっ、えいっ」
カプセルのようなものを取り出したかと思うと、それを無造作に放り投げた。
瞬間、ぽんっ! と音を立てて、カプセルの中から……何やら既視感のある形状をした物体が現れた。
カモメが翼を広げたような、幅五メートル程の白い機体。これって……
「…………もしかしなくても、某風の谷の姫姉様が乗ってる……」
「そ。メ●ヴェだよ☆」
ああああ言っちゃった! それとなく遠回しに言おうとしていたのに!!
「あ、著作権の問題なら大丈夫。カントクの没後七十年はとっくに経ってるし、そもそもコレを収納していたのだってホイポイカプセ●がモデルになっていて……」
やめろぉぉおお!! この時代ではどちらもご存命だから! これ以上伏せ字案件を増やさないでくれ!!
「……おぉ、すごい。さすが未来。天才たちが想像したことが形になってる……ひっく」
「いつの世も技術を発展させるのは『あったらいいな』っていう遊び心だからね☆」
うおぉぉその話もっとじっくり聞きたいけど、今はンなこと言ってる場合じゃねぇ!
「芽縷! これ、何人乗れるんだ?! 操縦は?! 風の谷出身でなくともできんのか?!」
「一台で二人まで乗れるよ。操縦は、この持ち手に掴まって身体を少し倒すだけで、行きたい方向に簡単に動かせる。エンジン付きだから、風が読めなくても大丈夫☆」
「それはありがたい。チェルシー! これに乗って、魔王へ近付こう!!」
元ネタがわからず、俺と芽縷のやりとりをぽかんと眺めていたチェルシーだったが……
俺の呼びかけに表情を引き締め、「はいっ!」と返事をした。
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