レベル8

 昼頃になると、マイちゃんと、ビーツさんがおにぎりをみんなに配っている。オレ達の近くにくると、マイちゃんがオレにおにぎりを一個くれて、笑顔で言う。


「あのね、マサトおにいちゃん。お父さんがね、レストランをここでもはじめたんだ。

 それでね、みんなに、おにぎりをくばっているの」


 え……? レストラン……? ここで……?

 ビーツさんがクレオ達におにぎりを配りながら言う。


「クレオさん達には命を助けて頂いたお礼に、一ヶ月間は無料で食事を提供しますので、ぜひ寄って下さいね」


 え……?

 という事は、中学校の学食がレストランになったのか……? しかも、1ヶ月は無料で食事を楽しめるって、人の役に立つって良い事もあるんだな。


 出来たてのおにぎりは美味しく、2つ目を手に持ってオレはおにぎりをほおばった。今まで食べたことのない様な美味しさで、ノリを巻いてあるだけなのに最高のおにぎりだ!!


 フレイアは、クレオから食べ方を教わって一口目を食べる。気に入ったみたいで、二口目を食べ終わった時、クレオがフレイアに言う。


「ノリは海の草なので抵抗があったのですが、とっても美味しいですね」


「海の草? ノリをあえて言うなら、海の野菜かしらね〜」


「海の野菜ですか!? だから美味しいんですね。納得しました。ノリは海の中に生えている草だと思っていましたから、巻き寿司を食べるのに、抵抗があって食べれなかたんです」


 フレイアがそう言うと、周りに居た人達の笑いを誘っている。笑顔が素敵で、とてもフレンドリー。俺はいつのまにかフレイアの方ばかり見ている自分に気が付いて驚いた。

 もしかして俺は、フレイアに好意を寄せているのか……?


 おにぎりを食べ終わると、誰言う事なく多くの人が集まりだし、話し合いが始まった。この事態を最も理解しているのは、どうやらオレ達みたいだったので、知っている限りの情報を話す。


 みんなが思っている疑問の最初は同じで、どうしてこのような事が起こったかだった。オレはあくまでも推測だけれど、最も高い可能性を言う。


 それは、ゲームをコントロールしているAIが暴走。或いは、誰かがAIを操作して、ネットのセキュリティをハッキングした。


 更に悪い事には、ゲームの世界と現実の世界を融合させ、ゲームと同じで、ライフゲージが無くなると死んでしまう事も。

 おそらく脳に埋め込まれたマイクロチップによって、心臓に伝わっている神経をコントロールして止めているんだと。


 痛みは、マイクロチップの電気信号によって錯覚を起こしていることも付け加た。

 最終的に解決するにはゲームをクリアーする必要がある事も話す。アレイアからの情報で、アメリカ地区アリゾナにいるラスボスを倒す必要がある事も言った。


 最後にオレは、ゲーム内でのシステムの概要を説明して、集まっている人達に初期装備をしてもらった。

 オレの知っていることを話し終えると、アレイアが話し出す。


「提案があるのですが、いいでしょうか?

 それは、このゲームを長くしている人達は防御力の高い装備をしています。武器も攻撃力が高くて、並みの魔物なら一撃で倒せる程。それ以上の武装はいらないと思うので、残ったお金をここにいる人達に分けたらと。


 そのお金を使って初期装備でなくて、防御力や攻撃力の高い防具や武器を買った方がいいと思うのです。それに、食べ物を買ったりするのもゲーム内のお金、ペルが必要ですから」


 フレイアは最後に、エリーを見て話を終える。彼女の言っている事は、一見筋が通った様に見える。

 しかし、これからボス攻略に行くには、もっと防御力が高くて、今以上に強い武器が必要になるとエリーが言っていた。


「ちょっと待ってくれない、フレイア。その意見では、ボス攻略を考慮していないわ。

 確かに、長くゲームをしている人程お金を沢山持っているのは事実よ。でも、ボスを倒すには少数精鋭のパーティーを作らなければ、到底倒す事が出来ない。その為にはお金は必要不可欠なのはまちがいないわ!」


 目を細めて、エリーはアレイアを見返す。


「だからこそ、お金を分けた方がいいと思うのよ。

 なぜなら、レベルの高い人達がボスを倒しに行く時、ここに残っている人達は初期装備でお金を稼ぐために魔物と戦わなければならないのよ。それって、とても危険だわ!

 ボス攻略には日数がかかる。ここのエリアを安全圏に解放するには、朝日区にいるボスを倒さなければならないのよ!」


 フレイアはエリーを睨みつけ、強い意志をぶつけている。

 さっきまで良好な関係だったエリーとフレイア。

 しかし今は、険悪な感情が2人の間に生まれた……。


「フレイアの言っているのは分かるわ。でもそれだと、ボス攻略が難しくなり、時間が長引くだけよ!」


「何でエリーは分からないの?

 エリーのケチ!」


 ケチの言葉にエリーはムカついた様だ。エリーは私利私欲の為に言っているのではなく、全体のバランスを考えて言っていると思う。


 俺が2人の間に入って言う。


「2人とも落ち着いてくれよ!

 今は仲間割れしている時ではない。この問題は後で話し合った方がいい」


 オレがそう言うと、2人とも軽く頷いた。


 そのあと別の話になって、パジャマ姿でここに避難してきた人達に、オレ達は余分に持って来た服などを彼らに渡した。彼らから『ありがとうございます』と感謝され、エリーはやっと落ち着いたみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る