第六章その6

 僕も中学の頃は皆さんの言うリア充や陽キャのことをあまり快く思ってなかった。

 だけどリア充や陽キャにだって悪い人もいれば、それ以上にいい人もいることを僕は知ってる。

 その人達だって僕達と同じように悩みや不安を抱えて生きているし、誰も気付かないところで沢山努力してる。

 だから……嫉妬して不平不満ばかり口にしても何も変わらない、僕みたいな非リアだって一生懸命筋トレで体鍛えて、勉強して成績も上げて、見た目も性格も変えようと、自分自身を高めようと、僕以上に何倍もの努力をしてる非リアだって沢山いる。

 誰もそんな人達を嘲笑う資格なんてない、ましてやリア充に妬みや嫉み、不平不満ばっかり口にして自分や現状を変えようとしない、傷の舐め合いばかりしてる卑屈な非リアなんかに戻りたくない!

 飾り物で虚勢や見栄を張るくらいなら、何も持たずに胸を張った方がマシだ! 巷じゃリア充爆発しろって言うけど、こう言い返してやるよ!


 卑屈な非リアは血の涙を流して慟哭しろ!

 

 そして自分の安いプライドを守るために誰かを見下したり、妬んだり、足を引っ張ったり、傷の舐め合いばかりする奴はそのまま一生陽の当たる場所に出られないまま生きて行け! 僕の言いたいことは以上だ!


 透は言いたいことだけ言ったと、口から魂が漏れてる菅原に返却する。

「はいこれ、返すよ」

「あっ、尾崎君ちょっといい?」

 陽奈子は画面に向かって、自分のチャンネルを宣伝する。

「皆さん、こんなネガティブで暗い動画を見るよりも、可愛い猫ちゃん達の動画をチャンネル『キジ猫オビ』をお薦めします! 毎日投稿しているのでチャンネル登録とフォロー! よろしくお願いします!」

 横ピースとウィンクを交えて宣伝すると、菅原に返すと画面を見るなり彼は見開いて絶叫する。

「ああーっ!! 視聴者が減ってる! さっきまで一五〇〇人もいたのにぃぃぃぃぃっ!!」

「とりあえず配信中断だ! 覚えてろよ! これだからリア充は!」

 田崎も涙目になってそそくさと菅原とその場から逃げように去ろうとすると唯はガシッと肩を掴み、短い悲鳴を上げる。

「ひぃっ!」

「田崎、あんたは散々尾崎君のことを見下してたようだけど……LINEで寒い恋文を送ったあんたより、面と向かって気持ちを伝えた尾崎君の方が誰よりもかっこよかったからね!」

 肩をギリギリと握り潰そうとする唯に田崎は悲鳴を上げながら逃げて行った。

「ひぃぃいいいいいごめんなさぁぁぁあああい!!」

 胸がスッとしたような気分だった。ようやくみんなが安堵して微笑みを見せ合うと、待ち構えていたかのように甲高い音が響き、夏の始まりを告げるかのように夜空に大輪の花を咲かせた。

 

 花火の打ち上げが始まった。


「始まった! かき氷も買ってきたよ!」

 唯と灰沢は大急ぎで近くにレジャーシートを敷いてた直美達の所に行き、五人分のかき氷を行き渡らせると、シートに座って花火を見上げる。

 向かって右から唯、透、水季、陽奈子、灰沢がシートに座ってかき氷を口にしながら見上げる。

 甲高い音と共に天高く昇ってこの一夜の、ほんの一瞬にしか咲かない、儚く、美しい大輪の花を咲かせる。間近で見ているから太鼓を会心の一撃を叩いたかのように響かせ、やがて夜空に消えて行く。

 夜空を彩る打ち上げ花火を見上げる水季、涼はその横顔を微笑みながらこっそり覗き見ると、丁度インターバルに入って気付いてたのか、水季は光輝く恒星のような瞳で透の瞳を見つめ、心を貫かれた気分で思わず頬を赤らめると、水季は艶やかに微笑む。

「尾崎君……ありがとう」

「えっ?」

「あの時、背中を押してくれて……湘南に来て本当によかった。唯も、陽奈子ちゃんも、灰沢君も」

 水季は幸せに満ちた笑みでみんなにお礼を言う。中学で辛い思いをして逃げた先で、決して楽しいことばかりじゃなかったけど、優しい友達に恵まれた水季。

 最初に返事したのは灰沢で彼は苦笑しながら言う。

「礼を言うのは俺の方だ。俺もシャイだからな……啓太に誰かと楽しく過ごすことを覚えろって口を酸っぱくして言われてね……尾崎、お前の言葉が本当に嬉しかった……僕達はもう僕達なんだって。俺は決めたよ、とことん付き合うってね!」

「う、うん……ありがとう灰沢君」

 透の何気ない言葉が灰沢の胸に残ったんだろう。

「一敏でいいよ、透」

「わかったよ一敏」

 ちょっと気まずいがすぐ慣れるだろう、やりとりを見ていた陽奈子は妙に頬を赤らめていたのは気のせいだろうか? その陽奈子も水季にお礼を言う。

「水季ちゃん……友達になってくれてありがとう、これからもよろしくね!」

「うん! 夏休みも、いっぱい遊ぼう!」

 水季は無邪気に笑う、これから一年で一番季節が始まるのだ。

「そうだ、今のうちに撮ろうよ!」

 唯は次の打ち上げが始まるまでにと、スマホを取り出してカメラを自撮りモードにして撮影すると、唯はすぐにみんなのスマホに送る。

「おっ、届いた届いた」

 透は写真に目を通す。一敏は穏やかな笑みを浮かべ、陽奈子はニッコリ両手でピースする、唯はウィンクして笑顔を見せる、透は緊張しながらもこの時を噛み締める笑みを見せ、水季は透の方に寄りかかるかのように顔を倒して艶やかな笑みを見せる。

「えっ?」

 透は水季の大胆な行動に思わずドキッとして頬を赤らめて、水季を見つめる誘惑する眼差しと笑みを浮かべる。唯はスマホを鞄に戻して長い足と背を伸ばす。

「尾崎君、別人みたいに逞しくなったね……さっきのも凄くかっこ良かったよ!」

「そうかな? 僕が小野寺さんを守らなきゃって思ったから」

 唯に言われて透は首を横に振ると、少し寂しげだが色気のある笑みになるとインターバルが終わり、花火が連続で打ち上げられる。

「やっぱりさ……あの時OKすればよかった!」

 後半の台詞は一斉に炸裂する花火の爆音で聞き取れなかったが、その表情は次の瞬間には花火のように消えてしまいそうな眩しくも儚げな表情だった、透はもう一度訊く。

「なんだって!? ごめん聞き取れなかった!」

「なーんてね! 気にしないで、ほら始まったよ!」

 次の瞬間にはいつもの明るくて優しいギャルの顔になり、花火で彩られる夜空を見上げる、満面の笑みでこの時を満喫している。

 透はあの時の告白は無駄じゃなかったかと、確信した気持ちで見上げてると、水季が耳元で甘ったるい誘惑する声で囁く。

「尾崎君」

「ん?」

 透はもう何度目か忘れて心臓が張り裂けそうな程ドキドキすると、このまま唇を重ねられそうな距離で見つめ合う。

「また……絵を描くから……」

「う、うん! 楽しみにしてる!」

 さすがに告白じゃなかったけど、今度はどんな絵を描くのか今から楽しみだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る