サンタクロースの張り込みスタイル
そんなわけで月曜日。二十一日だ。クリスマスイヴまで、あと三日。授業中、あたしは、降矢さんのアドベントカレンダーのことを思い出してた。昨日も、アトリエの作業机に置いてあった。降矢さん、『24』の窓をイヴちゃんと一緒に開けたいって、前に言ってたんだよね。だからあたしも、クリスマスイヴ、二十四日がタイムリミットって思ってる。その日までに、イヴちゃんに降矢さんのとこに来てもらう。必ず。
淳ちゃんは今、アガ大の前で張り込んでる。「早起きしたぞ」って言ってたから、朝から行ってくれてるはず。あたしはさすがに授業中はスマホいじれないから、昼休みまで我慢した。弁当箱のポーチを持って、誰にも見られない場所を探す。結局、美術室にした。ポーチの中に隠しといたスマホを開くと、淳ちゃんからメッセが入ってた。
『来るまかも』
は? 意味わかんねーし。
即座に由紀奈ちゃんデバイスを着けて、通話を飛ばす。ひそひそ声で。
「あー淳ちゃん。『まかも』って何だよ」
『おお由紀奈。授業はどうした』
「昼休み」
『ああそうか。こっちはまだだ。まだ、イヴらしき人物は見てないんだが……車で来てるのかもしれんな』
「車?」
『毎日、車で送り迎えのお嬢様。イヴももしかしたらそうなのかもしれん。お前のところだって、そういうのが沢山いるだろう。イヴがどの車に乗ってるのかわかればいいんだが。車の中までは外からは見えん』
「どーすんの」
『そこでだ。これを見てくれ』
「ちょっと待って。画面出すから」
淳ちゃんからのカメラ映像をONにして、スマホに映し出した。
「あー、なるほどねー」
映ってるのは、淳ちゃんのメモ書きだ。車のナンバーがいくつもいくつも記されてる。
『いけるか? 今はもう、それらしい車の出入りは落ち着いたんだが』
「わかったー。スマホだから時間食うかも」
『頼む』
つまり、陸運局使って車の持ち主の名前と住所割り出せってことだ。って、こんなきったねー字、一回書き出してから打ち込まなきゃじゃん。
「追加あったらメールで打って」
『ぐっ……俺だから時間食うかも』
「知ってるー。ちっとは努力しなよ。こーいうのも積み重ねだぞ」
『はい……』
「ちなみに淳ちゃん、今日は何のカッコしてんのさ」
『いい質問だ。聞きたいか? 聞かせてやろう。今日の俺は、黒のダウンに黒のハンチング、黒の皮手袋をして黒のサングラスに黒のマスク。目立ちにくい張り込みスタイルだ。』
「めっちゃ不審者じゃん。てかめっちゃ犯罪者じゃん。やばいって」
『大丈夫だ。職質受けた。もう来ない』
「なんで俳句。まーいーや、ちょっと待ってて。がちゃん」
通話を切ってやった。よし、ひと仕事だ。淳ちゃんからの映像をキャプチャしたとこから、ナンバーをひとまず書き出す。『雪永』姓がヒットしたらそれでおしまいだから、自動化まではしなくていっか。つっても、運が悪けりゃ延々ずっと、手動で入力して検索かけないとだけど。ええーまず、陸運局に侵入してっと……。
まー、実際やってみたらそんな手間じゃなかった。『
『はい、こちらハードボイルド1号』
「あー、2号だけど。お待たせ。雪永って名前で普通に出てきた」
『よしきた。何の車だった? ニッサンのパッカードか?』
「それ違うだろ。えっとね、『ハマー』の『99999』、だって。淳ちゃんわかる?」
『ああ、ハマー。ゴツいやつだ。いたなあ。あれか!』
「そーなの」
『わかりやすい車で助かった。あれなら絶対に見失わない』
「そーなの」
『いや助かった。これでひとまず気が抜ける。また現れるのを待って、追えばいいだけだからな』
「イヴちゃん、帰り、友達とかとどっか寄ってくって可能性は?」
『そうだな。まあいい。その時はその時だ。とにかく助かった。由紀奈、ありがとな』
「うっ、うん……」
がちゃん。
……はーあ。何回助かってんの。まーいーや、昼休み終わるし、あたしは戻らなきゃ。
というか、これで住所もわかったんだから、淳ちゃんべつにもう張り込まなくていいんじゃないのかな? ……ま、何か考えがあるんだろうな。あたしはあたしで、イヴちゃんの家のこと調べとこう。『雪永章一』、だったよね、お父さんの名前。
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