サンタクロースの季節だけど

 十二月になると、というか十二月になる前から、もうみんな、クリスマスな気分になる。いいよね。寒い季節だからこそさ、こういうイベントがあって、あったかくなる。

 クリスマスって本当は、家族みんなで過ごす日なんだよね? パーティーして、ケーキとかチキンとか食べて、プレゼントとか贈り合って。

 なのに淳ちゃんはさ、あのひねくれ者はさ、全然そういう感じじゃない。クリスマスっぽいこと何かしようとか、全然考えてない。なんでだよ!

 せっかくこのあたしがいるってのに。このスーパーJKのあたしがさ、いるってのに。いやあたし、スーパー可愛いってわけじゃないけど。それは知ってるけど。

 ってか、恋人とかそういうんじゃなくて、ほら、従叔父いとこおじ従姪いとこめいなんだから、家族みたいなもんじゃん? んで、今年の春からこうやって助手として一緒に働くようになって。

 お疲れ様でした!

 みたいなさ? せっかく、ひとりじゃないんだからさ?

 ……なもんだから、あたしは今、高円寺の駅から事務所側に延びてる商店街に来てて、クリスマスっぽいモン、なんかいいのないかなーって探してる。

 まー、色々買ったんだけどさ。やー、ケーキとかチキンとか焼くまではしないよ? 当日買えばいいし。じゃなくて。

 パーティーのことはまだ先で、今はその前の、飾りつけだ。二週間近くあるしね。まず事務所に、クリスマスっぽい雰囲気を、導入する。日本人は形から入るって言うし。そうすれば、淳ちゃんだってきっと喜んで、その気になるはずだよね……。

 なあんて事を考えてたら、そこでふと、ひとりの男の人の姿が、なんでかあたしの目に留まった。

 あたしはアーケードの下をぷらぷらと歩いてたんだけど、その人は、よたよたと、っていうか、のそのそと、違うな、とぼとぼと、うん、とにかく、今にも消えてしまいそうな、死にそうな、痛々しい、もー見てらんないくらいの悲惨なオーラを出しながら歩いてて、なんかね、ほんっと、見てらんなかった。

「――ねえ!」

 だから、思わず声を掛けた。あたしは、制服の上に厚めなダッフルコートを着てて、両手は鞄と買い物した紙袋とビニール袋で一杯だった。なもんで、「あなたに声を掛けてんですよー」ってうまく示せなくて、なんとか視線を捉えようと、その人の前で首を伸ばしたり動かしたりぴょんぴょん跳ねたりした。だけどその人は、あたしも周りもまるで全然見てなくて――あたしもちょっとバランス崩したってのもあって、ぶつかった。

「ぎゃっ!」

 でもあたしは平気で、その人だけ、無言で転んだ。い、いや、あたしデブじゃねーし。むしろ痩せてるほーだし。

「…………」

「うわー、すみません。大丈夫? 立てます?」

 ぶつかった衝撃は全然軽かったのに、バランスが全然とれてなかったんだよね、その人。手と膝ついて、転んじゃってた。あたしは手がふさがってたから、そのまんま、見下ろす格好になっちゃった。その人は、あたしを見上げた。その目を見て、あたしは、自分が何で、この人に声掛けちゃったのかが、わかった。

「…………君は……何だ」

 暗いんだけど、弱いんだけど、真っ直ぐな光を持った目。ほんっと、痛々しい目。

 そしてそれは、昔、淳ちゃんがしてた目。だから、放っとけなかった。

「あ、あたしは、唄野ばいの由紀奈ゆきな……って、言います……」

 あつし藩次郎はんじろうとか言うハードボイルド私立探偵の、有能すぎな助手だ。






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