ボディガードと女学院
突如として現れた訳じゃなく、ずっと事務所にいたという謎の執事、
「
「ノガジョ!」
これは驚いた。
「なんだよ」
こいつだこいつ。この遠慮無しに俺を鋭く睨んでくる口の悪い由紀奈も、まさかそんな学校に通ってるとは。まじかよ。今の今まで知らなかった。
「悪いかよ」
これ以上驚いていては由紀奈の機嫌を損なう。ここはひとまず、芳賀の話を聞くことにしよう。
「そこで
「何だ」
「ヌードデッサンのモデルと一緒に、優希絵お嬢様の護衛を引き受けてはいただけませんでしょうか? もちろん、費用はいくらでもお出しいたします……」
いくらでも、だと?
「よしわかった、やろう」
俺は引き受けた。
「もっと詳しく聞いてから返事しろって。まーいっか。いくらでもって言うんだし。で、芳賀さん、護衛ってのはなんで? センパイって、なんか狙われてんの?」
俺がこんなふうにちょっとばかり適当ぶっこいても、放っとけば由紀奈が勝手に話を進めてくれる。つくづく、有能な助手だ。というか、俺は腹が減った。
「それがですね……」
芳賀は語り始めた。
彼の言うところによると、優希絵は実は巨大財閥である
……言い寄るとか、あんな小娘にだぞ? ううむ、そういうのがいてもおかしくない世界なんだろうな、要は金だ。いかがなものか。俺は金なんかよりむしろ、愛が欲しい。愛を求めてやまない孤独のハードボイルドだ。さあ、どっちが格好いい? もちろん後者、この俺だ。おっと、話が逸れたな。
とまあ、そんなハードな境遇に生まれた彼女だが、それでも無事ここまで健やかに成長し、
「陽の当たる存在、と言って差し支えないお方かと存じます。しかし、それゆえに、日射しを遮られたと不平を洩らす
「加えてこの歳末でございます、よからぬ事を企む輩が、いつ現れてもおかしくはありません。日中は学院の警備がありますが、放課してのちは、人の出入りも多くなります。かといって、お嬢様の課外活動をお止めする権利は、
「優希絵はそんなに美術が好きなのか」
「左様です……これまで、ひと通りの習い事はなされておいでなのですが、とりわけ美術に、まだ小さい頃から強くご関心を示されまして……近頃では、中でも男性像などにご執心で……」
「ぶっ。なーんだ、美術部としての依頼とか言ってたけど結局、センパイの個人的な趣味なんじゃん?」
「まあそう言うな。俺がそのモデルをやれば、彼女の護衛も同時に務まる。しかも、女子高に正々堂々と侵入できる大義名分のおまけつきだ。そういうことだろう、芳賀さん。よく考えたもんだな?」
「え、ええ……」
「考えたのは私よ」
「だ、誰だ!」
突然、別の男の声が割り込んできた。
「……って、なんだ、ママか」
今日はずいぶんたくさん人が来る。バー『イプセン』のママ(マスター)が、したり顔をして事務所の入口に立っていた。
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