ハードボイルドごきげんよう
足早に(足早に?)松屋で牛めしとカレーを食らい、水色カブで
「よーす」
「お前は友達がいないのか」
右ストレートを顔面にもらった。
「あー、その格好。行ってきたんだ? どーだった?」
由紀奈にも、この俺の水道屋スタイルはすっかりお馴染みだ。
「やっぱり家、でかかった。あとは由紀奈の調べた通りだったな。さすがはウチの大黒柱だ。優秀、優秀。かわいい、かわいい」
「棒読みにもほどがあんだろ。無駄に煽る意味」
「よし、かわいい由紀奈ちゃんも来たことだし、俺は寝るぞ」
「うわーやる気なー。まーいつものことか」
「馬鹿言え、俺はやる気だ。今夜、決行するぞ」
「お、すごいー。やる気を感じた」
優秀でかわいい由紀奈ちゃん情報によれば、兵頭は今日から丸々一週間、四国と九州へ遊説の旅に出ている。決行するならいつでもオッケー状態な訳だが、善は急げだ。俺は彰子の笑顔その他を早く見たいんだ。
「午前一時、だ。どうする? 家帰るか?」
「いーよ別にこっち泊まりで。学校近いから帰るより楽だし。おとーさんには言っとく。そのほーが邪魔入る心配ないし」
「わかった、助かる。じゃあ準備も色々あるけどよろしくな。事務所は早めに閉めていいぞ。由紀奈も少しは寝ないとな。俺は二十二時に起きる」
「寝過ぎじゃね? あたしはへーきだよー。JKの体力舐めんな」
由紀奈には、警備会社のシステムに侵入して兵頭宅のホームセキュリティを解除するという重要な役目がある。もちろんすぐにバレるが、ある程度の時間は稼げる。他にも、俺の行動をモニターして種々の不測の事態に備え、逃走ルートのご案内等のサポートを行う。
「あとそうだ、由紀奈」
「どーした淳ちゃん」
「ブラってのは、普通、どこにしまっとくもんだ?」
「タンスじゃない? あとクローゼットの引き出しとか。パンツと一緒」
「由紀奈は?」
「それ聞いてどーすんだよ。寝ろ」
俺は決して下着フェチではない。ただ、タンスからそれを選び出して着用する過程には興味があった。
夜になって起きてみると、雨が降っていた。支度を済ませ、ウンコもした。スニーカーの紐を結んでいると、由紀奈が寄ってきた。
「その格好で行くんだ?」
俺は水色ツナギのままだ。工具箱の代わりに、ちとダサいがリュックを背負っている。これが俺の忍び込みスタイルだ。
「これが俺の忍び込みスタイルだ」
「ふーん。一時だよね? いてらー」
「チウは?」
「ちう?」
「行ってらっしゃいの、チウ」
「そーいう関係じゃねーだろ。アホか。彰子ちゃんが悲しむぞー」
「むう、それはまずいな」
「ほらさっさと行く」
「はいはい、行ってきます」
「お土産よろー」
ツナギスタイルだが、水色カブには乗らず、電車を使う。カブから足がつく可能性もあるからだ。ずぶ濡れになって悪目立ちするのも、体を冷やすのも良くないから、今回ばかりは傘を差していくことにした。どこにでもあるビニール傘だ。
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