お尋ね者冒険者が誰かに英雄と呼ばれるまで

ロッキーズ

第1話 仲間と夢見た都市へ

「ここがガウルゥーか、とても賑やかな都市だな。」

漆黒の髪の毛とマントを靡かせなび、男がやってきた。左目には眼帯、背中には大きな槍を背負い、腰には短剣とポーチが付けられている。彼は冒険者だ。そしてこれから冒険を終了しようとしている。


そこは世界の中心とでも言える大きな都市”ガウルゥー”、獣人やエルフ、ドワーフなど多くの種族が共存する大きな都市。ギルドに登録し数々のクエストをこなしている冒険者やモンスターと戦い能力を上げる冒険者、そこら中を駆け回る獣人の子供やヒューマンの子供。また商業を営む者も多く、酒場は昼夜関係なくドワーフが派手に酒盛りをしているとても賑やかな都市だ。


色々な種族、自由で賑やか都市。

ここに来る前は冒険者をしていた。カムイ王国というここから非常に遠く離れた王国を拠点に仲間と兄さんと冒険者として活動していた。たがと・あ・る・事件がきっかけで失った、全てを。

「みんな、着いたぞ。ここがガウルゥーだ。」

俺は一人でここに来た。今は亡き仲間と夢見た都市、歳をとり冒険者を引退した後、皆でここに定住しようとしていた都市。俺はまだまだ若いがもう引退しようと思う。


入り口の大門をくぐり抜け大きく息を吸う。とても活発な匂いだ。

そして自分の左目を覆っている眼帯に触れ、

「ここは俺を受け入れてくれるのか...」

昔、この目のせいで俺は数え切れないほど殺されかけた。これから先この眼を人前に晒すことはないだろう。


はっきり言って俺はお尋ね者。兄さんも俺も。


眼の名は”キュウル”千年前、キュウルという名の女性が私情により悪霊と契約を交わし、世界を滅そう多くの国を呪いの魔法で壊滅させたと言う言い伝えがある。歴史に残る三大魔女キュウルの血筋であるアルテイナは俺と兄さんの母だ。ヒューマンの父と魔女の母、そして魔女の森で生まれ落とされた二人の子供。兄は右目に俺は左目にキュウルを宿した。右目は攻撃、左目は防御。右目に力を宿した兄さんは攻撃魔法に長けていた。眼帯を外し”キュウル”と唱えれば魔法は発動し、本来の能力よりも強い力が発揮できる。

俺は左目、防御魔法に長けている。発動機条件は同じ、発動すると眼と同じ色の煙の様な炎の様なものが体全体を包み、兄と同じ様に本来の能力よりも力がブーストされる。これらは全て呪術の上に成り立っている。能力をブーストさせれば代償を伴う。兄さんは防御能力がガクッと下がり、俺は攻撃能力がガクッと下がる。その上体力をグングンと吸い取られる。キュウル発動は30分が限度だ、それ以上使えば命を吸い取られる。


アルテイナの子孫が存在していたことはある事件がきっかけで公になった。 


正直賑やかなところは好きではない。しかし俺を受け入れてくれた仲間とこの地に来る事は俺の夢だった。一抹の不安はあったものの、俺は歩き始めやがて巨大な建造物に行き着いた。

「ギルドか、今の俺にはもう必要ないな。」

昔を思い出すように眺めていると、

「よう!兄弟!パーティを探してんのか?俺冒険者登録を済ませてきたばっかりだから、まだ何にも分かんないんだ。一緒に冒険しないか?」

「あっ悪い。俺の名前はマシュー、よろしく〜」

いきなり声をかけられ少し驚いた。彼は見た感じヒューマンか、俺より少しだけ背が低いが運動神経は良さそうな体つきだな。

「やあ、俺はウィル。元冒険者といえばいいかな。」

そうだ、俺は冒険者をやめるんだ、この眼を誰も俺の正体は分からない。悪事を働いた事はないが、眼のせいで大きな罪を背負っている感覚になる。


「元?まだ若いのになんで引退するんだよ。あ?でもでっかい槍を背負っているし、そのマントだって」


「ああ、先ほどこの都市に踏み入れたばかりでな。元冒険者って言うのもさっき決めたばかりだ。冒険者登録をしたばかりと言っていたが、君も都市の外から来たのか?」

見た感じだと年は俺と同じくらい?


「そうだ、ここより南へ50キロほど行ったところのロイドンって言う集落からきた。」

その後聞いてもないのにベラベラと自分の故郷のことを話し始めた。マシューは今までずっと家族の農業を手伝っていたらしい。集落はモンスター除けの魔法で守られているが稀に魔法を突破し危害を加える事がある。マシューはその時に家族を失ったと言う。父親が死際彼に、農業なんてもうやめて強くなれ、と言い亡くなっていった。彼もまた辛い過去があったんだな。でも俺と違って前を向いている。


「ウィル、ここで会ったのも何かの縁だ。冒険者について色々教えてくれよ!」

ギラギラした目だな。


「マシュー君はなぜ俺が元冒険者になったのか聞かないのか?」

普通だったらこの年で元冒険者なら何故なのか聞いてくるはずだ。


マシューは微かに微笑みながら

「その目の怪我を見ればわかるさっ!大変だったんだろ」


「…」

予想外の答えに少し笑ってしまった。モンスターに襲われ目を奪われたものの、命からがら逃げられたんだと。片目が見えなくなればモンスターの討伐やクエストに支障をきたすと思っているらしい。確かに強者と戦うとなると片目だけでは足りない、今までは本当に危うい時だけに使ってきた。


「そうだな、少しだけなら。」

「しかし明日からだ。今は住むところを探したり、やらなければいけない事がある。」

マシューと一旦別れて部屋探しを始めた。大通りの所々に大豪邸が立ち並ぶ。三階建四階建てか、百人は住めるのではないかのレベル。そこは仲間の契約をした”ファミリア”が稼いだお金で建てた同居住居、住居が大きければ大きいほどファミリアのレベルが高い、つまり強力な冒険者が多いと言う事だ。

大通りを真っ直ぐ歩きやがて

「レスサイドストリート」

枝分かれした小道の脇の看板にそう記されていた。簡単に言うとぱっと見でスラム街の様だった。閑散としているが夜になると賑やかになるのかもしれない。訳あり冒険者たちが集う場所のような所、自分も訳ありのような者だから、ここがちょうど良いのかも。家賃も安そうだし。


俺は早速大家と契約をして建物二階のワンルームを借りた。金はそこそこある、今までこなしてきたクエストやモンスターのドロップアイテムを売ってきた金、冒険でたくさん貯めてきた。

俺は背負っていた槍と羽織っていたマントを外して大きく呼吸した。

「さあ、冒険を終わりにしよう。」

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