10 チャーター機
カシムに面会した数日後、アブドラから連絡が来た。
アブドラがカシムから聞いた話によると、
まだ極東付近の自国民の帰国のための便を出していなかった。
なので、まず俺らを乗せて日本に飛ばし、俺らを降ろし、日本在住でイランに帰国を希望する者達を乗せ、朝鮮半島や中国を周り、イランに戻る。
連絡がきたのが今日。機の出発は明日夕方だという。
やることが決まったら速いな、羨ましい。
皆にその旨連絡した。
女子達は早々に仲良くなった従業員達にお別れの挨拶をしたのだろう、
仲良くしていた宿の従業員達に女子達は、イランのものなどみやげに貰っていた。
感染の恐れがあるので外出させられないので、ちょうどでよかったことでもある。
土産をくれた従業員達も、そのつもりだったのかも。こっちでは、お別れになにかをやるとういう風習は、あまりなかったように記憶している。それほど多く西アジア方面に来たことはなかったが。勿論向こうの記憶で。
翌日昼食後。
アブドラがバスで迎えに来てくれた。
そのときのアブドラは、向こうに残った者達に関して説明してくれた。
リアドに居るはずの他の生徒たちに関しては、主に欧州系の通信社にニュースを流したそうだ。
あの国はともかくしらばっくれるだろうが、日本の政府は放置しておけないだろう、とアブドラ。よく知っているな、我が日本政府のうわっつら。
特に、フランスからイミグレ通さず連れ出された、という事実を大きくし、フランス政府も怒らなければならない状況を作ってくれた。流石だな。
残ったのが男子と教諭だけだった、ということもあるし、早めに返してもらえる気がする。
これが、女子が残っていた場合、既に売られた者達も居たはずで、それなりの数の被害が出ていたろう。向こうはそれを隠すために、被害者を事故死と偽り殺害するか、全体をしらばっくれ、無いものとする、つまり全員殺害したかもしれない。
やつらはそのくらいやるだろうし、外国も突っ込んだことはできない。それがあの国の世界での立場の強さだ。
奴等はそれをよく知っている。
ぎりぎり、最善を選べた、ということか。
その話をし、重ねて礼を述べた。多分カシム司令に会えないだろうから、厚く礼を言っておいてくれと頼んだ。
その時、アブドラは何か言いたそうだったが、結局何も言わなかったので訊けなかった。
国際空港に到着し、俺らがバスを降りたところでアブドラと別れの挨拶をした。
その時にアブドラに礼をしようとしたら、彼は受け取らなかった。今回の件はアフマドの依頼で、彼から受け取っていると。
なので、もう使わない全員の携帯を引き取ってもらった。小銭くらいにはなる。こんなもので悪いが、と。
「成功した作戦のモノなので、売らずにうちの者達に使わせます。」と。
こっちでもゲン担ぎみたいのがあるのか。
日本の住所と連絡先を教えておいた。
アブドラとのつながりは保持しておきたい。彼は俺にそう思わせる人物だ。
「私のモバイルの電話番号は変わりません。SMSも同番号で送れます。」
と、こちらからの連絡も了承してくれたようだ。
とても久しぶりだな、このようなお互いに認め合うような感覚。
作戦中に知り合った者達で、作戦後も連絡しあいたいというのは滅多にないことだ。
俺達は教えられたカウンターで全員分のチケットとパスポートを受取り、手荷物検査場に向かう。
客はほとんど居ない。なので係官もほとんど居ない。
パスポートコントロールは、開いているカウンターは一つだけだった。
俺達のみなのかもしれない。
そのままゲートに行くと、またずに機内に案内された。
「好きなところに座ってください」
と言われたので
「皆、どこでもいい。結構長時間になるはずだ。」
「あと、こっちの生の言葉を聞ける最後の機会だ。もし乗務員達が了承すれば、少しでも会話を教えてもらうといいんじゃないかな?ペルシアは思う以上に使えるぞ」
俺は後ろの方の真ん中の列。巡航に入ったら、間の肘掛けを全部上げて横になるつもりだ。
乗務員達も手持ち無沙汰なのか、うちの子達と話をしている。
食事は2度ほどでた。飲み物は「ほしい者が貰いに行くから」と。
乗員もうちの子達もくつろいでいた。
翌朝。
機は無事に羽田に到着した。
乗員に礼をいい、俺達は久々の日本の土をふんだ。
泣き出すものはいなかった。
が、
大半の者は、我慢しただけだったようだ。目を拭う者は多かった。
「何年ぶりだろうか、と思えるのが不思議です」
実質の女子隊長である1班班長がそう言った。
「そうだろう。それだけのことをして、やっとたどり着いたのだから。
・・
皆、ちょっと、ここでいいか?」
と、
広い通路で立ち止まらせる。
他に客は居ない。
空港職員が俺達を誘導するために付いているだけだった。
「皆、おめでとう。よく頑張った!!。
そして、ありがとう、よく頑張ってくれた!
その頑張りのおかげで、一人もかけること無く無事に日本にたどり着いた。ありがとう、そしておめでとう、よくやった。」
最初の一言で堪えきれずに泣き出した者がでてきていた。
最後の言葉で殆どが声を押さえているが、、下を向いている、泣いているのを見せたくないのだろう。
強くなったものだ。
皆が収まるのを少し待つ。
「で、これから面相臭いことになるかもしれない。
対応が面倒になったら逃げればいい。病気と称して引きこもっていればいい。皆で連絡とりあうこと。できれば声を聞く方が良い。パソコンで画像が映るクローズドなチャットなどできればいいのではないか?
政府や学校などの対応は俺が引き受けられれば受ける。が、奴等もあの教諭達同様クズなので、どのような阿呆なことをするかわからん。何かあったらすぐに仲間に連絡とりあえ。いいな?」
「はい!」全員。
「日本に返ってきても、俺達は一緒に命をかけた苦労をした仲間だ。仲間を見捨てるなよ!」
「はい!」全員
パスポートコントロールを抜け、カスタムを抜け、皆家族が迎えに来ているので、別れていった。
全員、家族が迎えに来ていたことを確認し、俺は迎えに来ていた上の兄と車に向かった。
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