第101話 世界の終わり

副大統領のオフィス



そこにエルヴィンの姿があった。



ドナルド・ニクソン副大統領はいつの間にか現れたエルヴィンを視認した。



エルヴィン「初めまして副大統領。オイラはエルヴィンっていいます。」



副大統領「これは奇妙な。。。」



エルヴィンは少し安堵した。



副大統領が自分を認識出来なければ話は出来ないからだ。



エルヴィン「良かった。あなたがオイラを認識できるみたいで。」



エルヴィン「ちょっとお時間よろしい?」



副大統領はエルヴィンをじっと観察してからため息をつき、デスクに指をトントンと二度ほどならすと迷惑そうな顔をした。



副大統領「はて、聖書に猫は登場しませんがね。」



副大統領「何か御用でしょうか?」



エルヴィンの存在にさほど驚きもしない副大統領にエルヴィンは早々に話を切り出した。



副大統領「つれないなぁ。。オイラ、アヌとエンリルの事でちょっと聞きたい事があってきたんだけど。」



アヌ親子の名前を聞いて急に興味のある目になる副大統領。



副大統領「それで?」



エルヴィンは少し微笑んで



エルヴィン「アヌから聞いていた和解と副大統領の発表した降伏の内容が随分違ってたんだけど理由を聞かせてもらえる?」



副大統領「。。。」



少し考えてから副大統領は答える。



副大統領「実は彼と約束をしてましてね。」



エルヴィン「約束?」



副大統領「そうです。貴方の言うように我々は降伏したのでは無く彼と取引をしました。ある条件だしてね。」



副大統領「あの演説は言わば神の裁きの為の私の役回りですよ。」



エルヴィン「。。。?」



話についていけていないエルヴィンに副大統領は話を続ける。



副大統領「彼は素晴らしい役を演じてくれました。そして私は今まさにカートゥーンの続きが気になって仕方のない子供のように続きが気になっています。」



副大統領「ひとつ伺います。」



聞き耳を立てるエルヴィン



副大統領「アヌの使いとしてあなたが来た。と言うことは彼は既に亡くなり、ご家族は無事だった。」



副大統領「と言うことではありませんか?」



エルヴィンは驚いた。



目の前のこの男に何もかも見透かされている様な、そんな気持ちにさせられたからだ。



エルヴィン「な、なんで。。?」



副大統領はニヤリとすると



副大統領「そうですか、彼は成し遂げたんですね。」



副大統領「ご安心を、その見返りはご家族の保護とナノマシーン研究機関の続行です。」



副大統領「毎週礼拝を欠かさない敬虔な信徒である奥様やそのご子息を神がお見捨てになる筈がありません。」



副大統領「あの親子は祝福されたのです。」



副大統領「ナノマシーン研究機関にはもし、アヌのご家族が来たら丁重に対応する様に既に伝えてあります。」



副大統領「これから世界で起こるであろう苦難の試練を超えて共に新しい時代を作りましょう。」



副大統領「そう、お伝え下さい。」



エルヴィンはもっと聞きたい事があった筈なのに出た言葉は一言だけだった。



エルヴィン「え?あ、ああ、わかったよ。」



大統領は頷く。



副大統領「宜しい。では行き給え。」



そう言うと副大統領は何か書類を読み始めてしまった。



エルヴィンは何度か振り返りながら部屋を後にした。



望む状況ではあったが何か言いようのない引っ掛かりが心に残っていた。







それから連日ニュースや特別番組で核攻撃が報じられ街はパニック状態となっていた。



加えて中近東や南米の反米を掲げた国の民衆達が一斉に脱アメリカの声を上げる。



日本並びにヨーロッパは世界の秩序が崩れ去った事に震え上がった。



世界各地で小競り合いが始まり、世の中が文字通り世界大戦へと向かうかに見えていたからだ。



しかし、そんな人間達の欲望はあっけなく崩れ去った。



2120年、アヌの崩壊により上空高く成層圏にまで散り広がったアヌのティアマトのオーラは地球をすっぽりと覆い太陽光を遮った。



しかし、特に暗くなると言う事もなかったのでしばらくは誰も気が付かなった。



それよりもアヌが破壊した人工衛星のデブリがGPSや気象衛生を破壊した事が大問題となっていた。



しかし、程なく着実に地球に変化が起き始める。



まず、北半球のその夏は記録的な冷夏になり世界中で食料危機が起こった。



南半球では冬の気温が平均で10度も下がり燃料不足が深刻となる。



世界は生き残りをかけてこの事態を打開する事に集中せざるを得なくなっていった。



翌年には外での作物は一切育たなくなり、数億人規模の餓死者がでる。



そして地球は氷河期に入り2125年には地表の全てが完全に全球凍結した。



平均気温はマイナス30度にもなり、この時点で生き残った人類は0.1%にも満たなかった。

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