第95話 夜空
地中深さ約2キロ
漆黒の闇の底
岩をも砕く様な重圧の中、アヌは国防総省ペンタゴンの下まで行くとまるで水面にでも浮いているかの様にオーラの中で浮かび、静かに情勢を見つめた。
その精神は崩壊寸前で少し呆けている様にも痙攣している様にも見えるが意識は力強くはっきりしていた。
アヌは思索する。
地上にある空軍基地と軍が利用している空港はほぼ壊滅させた。
これで地上に出ても航空機やミサイルによる攻撃を受ける可能性はほぼなくなっただろう。
しかしまだ地上へ出る訳にはいかない。
一連の基地やミサイロの爆発原因はまだ特定されていない様だ。
今、地上に出ればそれらが自分による攻撃であると喧伝する様なものだ。
それではエンリル達に危険が及ぶ可能性が高い。
ウトナが厳しい尋問を受けている事は分かっている。
しかし今ナノマシーン研究機関に手を出せば彼らも標的になる。
さらにエンリル達を護りながらの戦闘は厳しい。
ちょっとした衝撃でも彼らには致命傷となり得る。
なにより暴走した適合者達は私のオーラを受けて皆死んでしまった。
近くで戰うのは危険だろう。
今はまだ私の生死は不明のままの方が都合がいい。
軍もホワイトハウスもかなり混乱している。
副大統領を中心とする勢力がこの期に勢力を伸ばしているが議会をまとめ切れていない。
ホワイトハウスも川を挟んでペンタゴンも厳戒態勢だ。
ここを落とせば指揮系統が麻痺して軍としての統制は取れなくなるだろう。
無傷なのは海軍と宇宙軍だが攻撃の速さと規模に全く対応出来ていない。
宇宙軍に気付かれずに近づいて叩くのは厳しそうだ。
空は特に探知されやすい。
宇宙軍は取り敢えず放置。
水中はソナーなら音波より早く動けばいい。
しかし通信を断った潜水艦を探すのは骨だ。
空母も同じく広い海で通信を絶たれたらすぐには探せない。
今入港している空母は。。。なし。
今は姿を晒さずに全く探知されない地中の地の利は最大限に利用すべきだ。
やはり、ペンタゴンを落としてからそのままホワイトハウスに降伏を迫る。。。か
そしてアヌは思う。
どれ程の人が死んだだろうか?
どれ程の人が死ぬのだろうか?
やればエンリルを守れる訳ではない。
やってもやらなくてもエンリルもいつ暴走するも分からない。
それでも私はやる。
全ての障害を排除してウトナに暴走を食い止めるリミッターの研究をさせなければ。。
それにはもはや国を屈服させる以外に方法は
ない。
ヒクヒクと痙攣する様な状態だったアヌは瞬間意識を取り戻りたように顔に理性を宿す。
弾け飛ぶ様にオーラは膨らみその大きさが直径1キロにもなった時、そのオーラは上方に一気に放出される
地面も建物も人も草木も紫色のオーラに一瞬包まれたかと思うと
次の瞬間何もかもが消えた。
上方にあった全ての物を消し飛ばしたのだ。
分厚い岩盤も土も建物も人も
質量を全く感じさせずに消えた。
軍高官を含む2万3000人と建物の周りにいた数千人の警備兵と一般人が一瞬にして塵となった。
町中に直径2キロ深さ2000メートルの大穴が突然空いたのだ、
その大穴は国防総省を中心にペンタゴンシテイとアーリントン墓地の一部さらにはポトマック川を飲み込みホワイトハウスの目前にまで到った。
衝撃で辺り一体は停電となり真っ暗になるとその大穴の底でアヌは抜けるよつな星空を見た。
それは真っ黒な壁に囲まれた向こうに美しく輝いていた。
南北からは分断されたポトマック川の川の水が滝のように流れ込んで来ていた。
アヌはそんな事は気にも留めずに空に右手をかざした。
核攻撃によって失った腕はすでに再生していた。
その手から次々と無数の光弾が現れてホワイトハウス周囲に展開していた警備兵及び兵器の全てを焼き尽くした。
アヌはその間もただ星を見ていた。
空が赤く染まっても煙で見えなくなっても
ただ星を見ていた。
そしてゆっくりと水に沈んていった。
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