第56話 イシュタリアの街
イシュタリアの街
そこはシダーの森を抜けて最初の街でもあり、このイシュタラの国の首都でもある。
中央にイシュタラ神殿を望む首都と言うにはあまりにも閑静(かんせい)な街だ。
町並みは何処か中世のヨーロッパを思わせる様な石畳に石垣の道。
そしてところ狭しと建ち並ぶ石壁の家や木組みの家々。
道行く者達は疎(まば)らで急ぐ者などいない。
死ぬことも歳を取ることも病気することもない。
子孫を残すのも稀で子供の姿も殆ど無い。
そんな街についた剛本達は早くも行き詰まっていた。
そもそも商売をする必要がないイシュタラの街は人通りそのものが閑散としており外出をする者自体があまり居ないのだ。
スポーツ施設や図書館、音楽堂などの娯楽施設以外はまるでゴーストタウンの様な静けさだ。
剛本「ファンタジーな世界ではこういう時、ギルドや酒場で情報を集めるんだろうがこの街のこの様子じゃ期待出来ないな。。」
ポン太「イシュタラ軍の過去の情報を集めるならバアル様達に伺うのが早いんじゃないかの?」
剛本「ポン太、俺はあのアナトと言う女に睨まれている。それは無理だ。」
エルヴィン「それならこの街の薬屋がかなりの情報通と聞くよ。一度訪ねてみてはどうかな?」
剛本「病気のないイシュタラの国に薬屋があるのか?」
エルヴィン「ああ、イシュタラの国では有名だよ。」
エルヴィン「人間の病気にはかからないけどナノマシーンの不具合はあるからね。」
剛本「不具合?」
エルヴィン「ナノマシーンの供給するエネルギーが大きすぎたり細胞制御がうまくいってなかったり。。と理由はそれぞれだけどね。」
剛本はナノマシーン適合施術に失敗した人達を思い出した。
ある者は精神が破綻し、ある者は筋肉が暴走し、またある者は外皮が異常発達し。。安楽死を求める者が後を絶たなかった。
それ程危険な適合施術に望む者は皆、何かしらの理由を抱えていた。
家族をイシュタラに殺されたもの、余命幾許(よめいいくばく)かの病人、そして孤独な老人。。
しかしここのイシュタラ達やサークルアンデッドの被験者達は自分の意思でナノマシーンの適合施術を受けた訳ではない。
誰かの意思でそうさせられたかまたはその子孫だ。
不具合が出たから死んでも仕方がないとは誰も考えない。
剛本はその『薬屋』というのにとても心を惹かれた。
『ナノマシーンで苦しんでいる人を助ける。』
そんな当たり前の発想がイ特にもサークルアンデッドにも無かったからだ。
剛本「エルヴィン。場所は分かるか?」
エルヴィン「モチロンさ!オイラに任しとけって!」
ポン太「ふうむ。。しかしあの情報通なら既に剛本の事も何か知っておるやも知れんのう。。」
剛本「まずいのか?」
ポン太「薬屋のアスタルトはアナト様の無二の友と聞く。お主、アナト様に睨まれておるならちーとまずかろう?」
剛本「。。。ふむ。」
剛本「そのアスタルトというのはやはりアナトの様に気性が荒いのか?」
ポン太「いや、性格はアナト様とは対照的だとは聞くがの。」
剛本「。。。そうか。」
剛本「それなら嫌われていたとしても話をする位は出来るだろう。」
こうして剛本達はアスタルトの薬屋に向かう事になった。
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