第53話 神殿議会 1

イシュタル神殿



それは正方形の塔の周りに直線的な階段が積み上げられた巨大建築物である。



そこではこの宇宙の外側にあると言われる海の女神ティアマトを祀る宗教儀礼が行われると同時に議員達による議会政治も行われていた。



イシュタルの死の直前に議長に指名されたヤムは実質このイシュタラの国を統治しているに等しく、神殿守護者バアルは形だけのものとなり辛い立場に置かれていた。



この日は81区討伐に出ていたバアルが復活したエンキの情報と連れてきた他守ショウについての追加報告をすべく議会が執り行われていた。



バアル達は礼拝堂に行く暇もなく神殿に着くやいなや議会に出席させられていた。



議事室には議長ヤムを中心に両脇にバアル、アナトを含む9人の議員が並んでいた。



一つ空席はシダーの森の守護者フワワであるが彼はこういった場所には参加する事が無かった。



参加すると神殿がフワワの胸から溢れ出る水で水浸しになってしまうというのがフワワの不参加の言い訳である。



議長のヤムはその冷徹な面持ちのまま議会を開会した。



ヤム「本日の議会を開会します。」



ヤム「バアル殿、まずは長らくの遠征ご苦労様でした。」



バアルは軽く頷く。



ヤム「皆様、今日お集まり頂いたのは他でもありません。あのエンキについての議題ともう一つ、イシュタル様に匹敵するティアマトのオーラを持つ者が現れた件にございます。」



会場がざわめく。



ヤム「お静かに。」



ヤム「周知の通り81区及び83区ではナノマシーン適合者が多数確認され、現在特別警戒地区になっております。」



ヤム「特に83区にはあのエンキが潜伏しているとの事で取り分け経過を注視する所でもあります。」



ヤム「かの偉大なる我らが女神イシュタル様のご無念をお晴らし致すべく、エンキ討伐は我等が悲願でもあり責務であると言って過言ではありません。」



ヤム「また、人間達の愚行によりこの地上の全ての生命は今まさに未曾有の危機に瀕しております。」



ヤム「生命進化の頂点たる我等イシュタラは今の歪んだ生態系を正しく導く義務があります。」



ヤム「イシュタル様亡き今、我々の力は大きく損なわれています。そんな中で世界のパワーバランスを揺るがしかねない存在が人間の中に現れた事は看過できません。」



ヤム「幸いその者はエンキに不信感を持ち、我々側の管理下に置く事が出来ました。」



ヤム「バアル殿、まずは報告をお願いします。」



バアル「まず、エンキ関連についてです。今回アナトはサークルアンデッドの内部に潜入しました。」



バアル「そして、そこで非常に危険な兵器を確認しました。一つは生物機械兵器、もう一つはナノマシーンを標的にしたウイルス兵器です。」



バアル「特に注意すべき点として、このウイルスはナノマシーンを無効化し、我々を無能力化します。しかも時間経過による自然治癒もしません。さらにこれは簡単に空気感染します。」



議員達はうろたえる。



議員の一人「そんな物が出回ったら戦況はひっくり返えりますぞ」



バアル「サークルアンデッドの研究施設では大量のナノマシーン被験者が例の如く過酷な環境に置かれていました。が、このウイルスによって完全に抵抗する力を失っていました。」



議員の一人「相変わらず酷い事をする。。」



バアル「被験者達は保護しましたが一人を覗除いて全員このウイルスに侵されている為、現在『青の研究施設』にて厳重に隔離しております。」



バアル「また、その被験者の一人が幸いウイルスに対する抗体を持つ事が確認されており、予防ワクチンあるいは抗血清剤を開発できないか現在調査検討中であります。」



バアル「ここにいるアナトもそのウイルスに侵され一時チカラを失いましたがその一人からウイルスに対するチカラを移譲されて窮地を脱しています。」



議員達はざわめく。。



議員の一人「アナト様、あまり無茶はなされません様にお願いしますぞ!アナト様に何かありましたらこの爺らはイシュタル様に面目が立ちませぬ。」



アナト「すまない。反省している。」



バアル「皆さん静粛に。」



バアル「今回、残念ながらエンキの情報は掴めませんでしたが一人、強力なティアマトのオーラを宿す男を連れてまいりました。」



バアル「残念ながら彼は現在、女神の門をくぐれずに人魚の里付近で待機していますがその者は緑色のオーラを宿し、無から物質を生み、かつてイシュタル様がフワワを創造したが如くティアマトの力で作られた強力な従者を従えております。」



また議員達はざわめく。



議員「み、緑のオーラじゃと。。」



議員の一人「そ、それは誠ですか?」



アナト「私は間近に見たが彼は私が放つ核融合の力の優に100倍は超えるエネルギーで地下10階以上の深さから成層圏までを一瞬で消し去った。」



アナト「しかも同時に私や被験者達、延いては近隣の街を庇いながらだ。」



議員達は動揺してまたざわめく。



議会室にはかつて無い緊迫感が漂っていた。



議会は続く。

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