第79話 日食の終わり


「……やはり俺が勝ったようだな。予想通りと言えば予想通り。面白みのない結果に終わったらしい」


 最終的に勝利したのは俺の方だった。

 俺が放った奥義がヴェイルーンの魔法を打ち破り、敵の身体を飲み込んだ。

 嵐が過ぎ去った後、残されていたのは地面に倒れたヴェイルーンの身体。すでに全身が塩となって崩れ落ちており、残されているのは上半身の一部と頭部だけだった。


「そちらが魔力十分の状態だったら勝負はわからなかったな。満身創痍であったことが勝敗を分けたようだ」


「…………」


 倒れたヴェイルーンに声をかけるが……塩となっていく悪魔は答えない。ひょっとしたら、すでに死んでいるのかもしれない。

 ヴェイルーンは転移魔法の繰り返しによって魔力を消耗している。対して、俺はアイテムを使って転移していたため消耗はない。

 最後まで残していた魔力の差。エネルギー量の違いが勝敗を決定づけた。


「惜しかったな。単体での戦闘であれば、これまで戦った敵で最強の一人だったと褒めてやる」


「HAHA……ハニーに褒められるなんて、光栄だぜ……」


 どうやら、まだ息があったらしい。ヴェイルーンが力なくつぶやいた。


「最高の性交ギグだったぜ……ああ、愉しかったNA……」


「俺はまったく楽しくはなかったけどな。お前は最後まで最低だったよ」


「HAHA……冷てえなあ。そういうツンデレちゃんなとこも、最高に……キュート……」


 ヴェイルーンの身体が完全に塩となり、崩れ落ちる。

 バラバラになった身体が風に飛ばされて消えていく。もはや復活はないだろう。


「ご主人様―! 勝ちましたの―!」


「ゼノン坊ちゃま! ご無事ですか!?」


 背後から仲間の声が聞こえた。

 振り返ると、ブンブンとトゲ付きの金棒を振っているウルザの後ろでルージャナーガが倒れている。

 近づいて確認すると……頭部を鬼棍棒によって心臓を刺し傷が貫いている。

 確実に死んでいるようだが……念のため、死体に魔法で火を放って燃やしておくことにする。


「よくやったな、褒めてやる」


「えへへへ~、ご主人様に褒められましたの~」


「光栄です、ゼノン坊ちゃま」


 ウルザとレヴィエナの頭を交互に撫でてやると、二人は喜びに顔をほころばせて抱き着いてくる。

 天体運動に干渉する大魔法によって弱体化していたとはいえ、俺抜きでも魔王軍四天王の一角を落としてしまった。

 二人とも、本当に強くなったものである。本来であれば『ダンブレ』に登場することのなかったキャラクターであるとは思えないくらいだ。


「我々の勝利だああああああああ!」


「「「「「えいえい、おー!」」」」」


 遠くから勝鬨かちどきが聞こえてくる。

 どうやら、ルージャナーガの配下の軍勢を相手にしていた王国軍・革命軍が勝利したらしい。

 リューナを助け出すことに成功し、ボスも雑魚も全ての敵を排除したことになる。


「どうやら、あっちも決着がついたらしいな……俺達の完全勝利だ」


 頭上を見上げると、邪悪な神を封じていた時空の穴が消えている。

 ルージャナーガを討ったことで皆既日食もすでに終わったらしい。地上に少しずつ日が差していく。


「陽の光がここまで懐かしく感じるとはな……まったく、長い日食だったよ」


「ご主人様はお昼よりも夜が似合ってますの。明るい場所は似合いませんの」


「うるせえ。放っておけよ」


 軽くウルザの頭をはたいて、長い戦いが終わった余韻を噛みしめる。


 スレイヤーズ王国で生じた子供の誘拐事件。

 それに端を発して、マーフェルン王国に遠征。導師として王宮に食い込んでいるルージャナーガを討つための戦いが始まった。

 砂賊と怪鳥の襲撃という予想外の事態を受けて仲間とはぐれ、その結果としてシャクナとリューナという二人の女性ヒロインと邂逅した。

 そこから始まった予想外の冒険。ゲームにおける最難関ダンジョンの一つである『サロモンの王墓』の攻略。

 ハディスと神官騎士ら仲間を喪い、一度はリューナが敵の手に落ちて……決して、褒められるような戦いではなかった。


「それでも……俺達は勝利した」


 失ったものはあれど……俺達は勝ったのだ。

 巫女として生け贄にされそうになっているリューナを救い出し、闇に捕らわれるはずだったシャクナの心を救うことに成功した。

 邪神の復活を喰いとめ、本来であれば現段階で倒すことはできないはずの魔王軍のブレイン――ルージャナーガを撃破することができた。


 この戦果は大きい。

 きっと、途中で斃れた仲間も称賛してくれることだろう。

 あの武骨で不器用な神官騎士――ハディスだって「よくやった」と言うに違いない。


「まあ……それなりに悪くなかったぜ。楽しませてもらった」


 俺は苦笑しながら、『王墓』に避難している姉妹を迎えに行くべくホルスの羽を取り出したのであった。






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