第18話 人形使い


「「「「「カカカカカカカカカカカカカカカカッ!」」」」」


 ナイフや棍棒を手にしたマネキン人形のような『何か』が距離を詰め、ゼンマイが動くような音を鳴らしながら襲いかかってくる。


「チェスト! ですのっ!」


 ウルザの大リーガーのような豪快なフルスイング。ナイフを振りかざして襲ってきた人形の頭部が千切れ飛び、木の幹に当たって粉々に粉砕される。


「まずは1匹ですの! 全然大したことありませんのっ!」


「油断をするなよ。まだ終わってないぞ!」


「ふあっ!?」


 頭を失くした人形であったが、平然とウルザに向かってナイフを突き出してきた。ウルザが慌てて後方に飛んで凶刃を躱し、驚きの目を人形に向ける。


「首無しで襲ってきましたの!? 怪奇現象ですのっ!?」


「そもそも人形が襲ってくる時点で相当な怪奇現象だけどな。コイツラはしょせんは人形。急所が頭にあるとは限らないぞ……っと!」


『ッ……!』


 俺は接近してきていた人形の胸に剣を突き刺した。

 どうやら、上手く体内にあるコアを破壊することができたらしい。人形は糸を切られたマリオネットのように地面に崩れ落ちる。

 襲いかかってきたマネキンのような人型の人形──これは『クレイジーマリオネット』と呼ばれるモンスターだった。

 命を持たない人形のモンスターであり、身体のどこかにあるコアを破壊しない限り首を落とそうが手足が千切れようが、構うことなく襲いかかってくる。


「おそらく、身体の中にコアを隠している。上手いこと見つけて破壊しろ!」


「わかりましたの! とにかくぶっ壊すですのっ!」


 ウルザは大きくジャンプして、人形の1体へと上段から攻撃を叩き込む。

【槌術】の戦闘スキルを鍛えているウルザが放った渾身の一撃により、クレイジーマリオネットが頭から足までグシャリと潰れる。

 全身が粉々になってしまえばコアがどこにあろうが関係なかった。賢さが欠片も見られない豪快なやり方だが、非常にウルザらしい。


「若旦那様! 私も助太刀を……!」


「お前は馬車と馬を守っていろよ! こんな林の真ん中から歩いて帰るのはごめんだぜ!」


 棍棒で殴りかかってきた人形を蹴り飛ばしながら、護身用の武器を構えた御者へと命じる。

 バスカヴィル家に仕える使用人らしく、この御者も最低限の戦闘術は心得ていた。

 とはいえ……その力を借りるつもりはない。この程度の敵を倒せないようでは、バスカヴィル家の当主──『魔犬』は名乗れない。


「一気に片付けさせてもらうぞ! 我が敵を飲み込め、深淵なる闇よ……ブラックホール!」


 発動させたのは【闇魔法】の範囲攻撃。わずかな詠唱の時間を経て、漆黒の重力嵐が人形の群れを包み込む。俺達に武器を向けていたクレイジーマリオネットの半数が闇に呑まれて粉々に粉砕される。


「さすがご主人様ですの! ウルザも負けてはいられませんの!」


 ウルザの身体が真っ赤なオーラに包まれた。白い髪が逆立ち、真っ赤に染まった両目の中央で虹彩が金色に輝く。

『火眼金睛』と呼ばれる特殊な眼球へと変貌したウルザはまさに闘神の如し。鬼人族だけが使える特殊能力──【鬼神化】の発動である。


『ダンブレ』のゲームには登場しなかった技。スキルとは異なる鬼人族の固有能力。

 かつてナギサとの決闘で無意識に発動させた奥義を、ウルザは自分の意思で発動できるようになっていた。

 赤いオーラに包まれたウルザは一定時間、攻撃力とスピードが大きく上昇する。その代わりに攻撃の命中率が低下してしまうのだが……。


「ウラララララララララララララララララララララッ……ですのっ!!」


「「「「「カタカタカタカタカタカタッ!?」」」」」


 ウルザがトゲ付きの金棒を我武者羅に振り回す。

 嵐のような乱打。暴風となって打ち付ける金棒の打撃に巻き込まれ、残ったクレイジーマリオネットが次々と破壊されていく。

 ウルザが装備している金棒は攻撃力が高いが命中率の低い武器である。『一撃必殺』といえば聞こえはいいが、安定性には欠けている。

【鬼神化】を発動させたことでさらに命中率が下がっていたが、ウルザはそれを圧倒的なスピードによる手数で補っていた。


攻撃重視型戦士パワーファイターのくせに小回りが利くんだよな……小さな身体は伊達じゃあないってことか」


「これで最後…………でーすーのっ!」


「カタカタカタタタタタタッ……」


 クレイジーマリオネットの最後の1体がウルザの金棒の餌食になる。木の陰に隠れていたものも含めて、これで全ての敵が破壊された。

 俺はノーダメージ。ウルザは敵の攻撃を何度か喰らっていたが、かすり傷ばかり。タフな鬼人の命を削り取れるようなダメージはなかった。


「これにて戦闘終了。随分と俺達も強くなったもんだな」


 父親であるガロンドルフ・バスカヴィルとの決闘を経て、夏休みの間、俺達は鍛錬に励んでいた。

 昼間はダンジョンに潜って魔物を狩り、夜になったらバスカヴィル家の使命として暴走する悪党を討伐する──そんな毎日を過ごしてきたおかげで俺達の戦闘スキルは大きく向上していた。


「レオンも勇者としてかなり成長していたが……負けるわけにはいかないよな。悪役には悪役のプライドってものがある。正義の味方に簡単に追い抜かれるものかよ」


「アイヤー、我の人形が負けちゃったヨー。全滅アルネー」


「……ようやくお出ましかよ。相変わらず胡散臭い口調でしゃべりやがって」


 第三者の声が林の奥から響いてきた。

 誰もいなかったはずの空間が蜃気楼のように歪み、奇妙な衣装に身を包んだ少女が出現する。

 東洋人風の美麗な相貌。ウルザと同じくらいの小さな背丈でありながら、小柄な体格に反して胸部だけは異常に大きく膨らんでいる。いわゆる『ロリ巨乳』と呼ばれる身体つきだった。

 アンバランスな身体を包んでいるのは襟を詰め、脚の左右に深いスリットが刻まれた衣装。旗袍チイパオ──俗に『チャイナドレス』と呼ばれる衣装である。


ハオ! よく来てくれたな、歓迎するヨー。我らが盟主殿!」


「嘘をつけ。本気で殺そうとしていたクセに都合のいい事を言うんじゃねえよ……『死喰い鳥』」


 満面の笑顔で手を上げる少女の名前は凛風リンファ

 バスカヴィル家に仕える傘下の魔法使い。裏社会において『死喰い鳥』の仇名で知られている、凄腕の『死霊術士ネクロマンサー」である。





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お知らせ

連載作品「学園クエスト~現代日本ですがクエストが発生しました~」が完結いたしました。

こちらの作品もどうぞよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/1177354055063214433


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