第52話 天国という名の奈落
「……なあ、ナギサ。どうして俺達は一緒に風呂に入ってるんだっか?」
「ふむ? 我が師がいつもウルザと入浴していると聞いてセントレアが対抗心を燃やして、私は私で師の背中を流すためにご一緒したのだが……?」
「……そうか。うん、そうだったな」
メロンとオレンジの衝撃により、ちょっと記憶が飛んでいたらしい。俺はようやく頭の中の整理を終えて、「フー」と長い息を吐きだした。
考えても見れば、今の状況はそこまで混乱することではない。
今でこそゼノン・バスカヴィルの肉体に憑依して若返っているが、前世では社会人で女性経験だってあったのだ。
それに『ダンブレ』のイベントでは、もっと過激なシーンだってあったじゃないか。それこそ、エアリスとナギサに加えて、もう1人のメインヒロインであるシエル・ウラヌスも交えて4Pなんてイベントもあった。
一緒に風呂に入るくらいで動揺するなんて、そんなガキでもあるまいし……
「はい、髪を洗い終わりましたよー……ひゃっ!」
隣でウルザの髪を洗っていたエアリスであったが、ふとした拍子に身体を覆っていたタオルが落ちてしまった。途端、ボロンと音を立てて2つの果実が解放される。
「ぶふっ!?」
タオルの上からだとメロンに見えたそれは、どうやら本当はスイカだったらしい。
締め付けから解放されたたわわな果実を目の当たりにしてしまい、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。
「よし、背中は終わり! 我が師よ、今度は前を洗わせてもらおうか」
「ぐわっ!?」
今度は背中に攻撃を受けた。ナギサが俺の胸へスポンジを持った手を回してきて、その結果として背中にもにゅっとした物体が押し付けられたのである。
背後にいるため姿は見えないが、その素敵すぎる重量感ときめ細かく滑らかな肌の感触はとんでもなく…………肌の感触?
「な、ナギサ……おまっ、タオルはどうしたっ!?」
「ん? 窮屈なのでとったのだが? 風呂場でタオルを付けているのも、マナーが良くないだろう?」
「っ……!」
ナギサは俺を背後から抱きしめるようにして、胸と腰を洗っていく。その動きに合わせて、背中でモニュモニュと柔らかな感触が形を変える。
はたして、これは何の試練だというのだろうか?
これまで頑張ってきたご褒美か。それともシナリオを改変した罰なのか?
「こんなもん、無理に決まってるだろ。どうやって耐えろと言うんだよ……」
ゲームではもっと過激なシーンがあった?
いや、ゲームよりも現実のほうが刺激が強いに決まってるだろ!
前世では女性経験があった?
いや、こんな美少女に囲まれた経験なんてあるわけないだろ!
まるで噴火直前の火山のように顔が熱くなり、今にも頭部が爆発してしまいそうだ。
ひょっとしたら爆発するのは別の場所かもしれないが……いや、そんなもん冗談で済むわけがない!
かつてない興奮にそのまま脳みそを沸騰させて倒れるか、それとも欲望を爆発させて蛮行に及びそうになった時……俺の視界にウルザが飛び込んできた。
「ご主人様―。ウルザもお身体、洗いますの—」
「…………」
身体を泡まみれにした白髪の美少女。
俺よりも年上であることが判明したウルザであったが、その肢体はあまりにも未熟であり、胸部などはまな板の上に小粒のサクランボを2つ載せただけの哀れな状態である。
その未発達すぎる身体を目にして、俺の心中に世の無常を嘆くが如く虚無感が満ちてきた。ふっと肩を落として、悟りを開いた修行僧のような心境でつぶやく。
「……なんか、お前を見てるとすごい安心するわ。色々と冷めてきた」
「……ご主人様、何を言っているのかはわかりませんけど、すっごく腹が立ちますの」
こうして、ウルザのアシストによって入浴イベントを乗り切った俺は、無事に浴室から脱出することに成功したのである。
「ああ! もう出てしまったのですか!?」
ちなみに、外の脱衣所では俺の専属メイドであるレヴィエナがまさに自分も浴室に飛び込まんと服を脱いでおり、あと少し浴室から出るのが遅ければトドメの一撃を喰らうところだった。
もしもレヴィエナまで入浴イベントに加わっていたら、俺はもうウルザのまな板の力をもってしても欲望を押さえることができなかったに違いない。
「危なかった……マジでやばかった……!」
最後の刺客の登場に戦慄しながらも、俺は危機を回避したことに安堵しながら服を着て、無事に自室に帰り着くことに成功した。
しかし――この時の俺は、気がついていなかった。
夜はまだ終わりではないことを。
これから『ベッド争奪、添い寝イベント』が待ち構えていることを……!
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